椽大の筆⑤-国会より重大な料亭
老舗の高級料亭は政談の密談場所提供で成り立っている。
「(代議士は)いずれもタヌキやキツネの親父さんたちよ」
赤坂に与野党が張り込んでこの時期に予約と言うと。
「いよいよ解散かしら」
女将の頭に新聞記事が巡る。
与野党怒号どよめく国会中継が目に浮かぶ。
野次や罵声で国会は完全に空転状態であった。原因は内閣総理大臣が迂濶な一言を放ったこと。
軽率な発言を繰り返し内閣支持率はジリジリと降下し始める。
いずれの日にか衆議院の解散選挙かと言われていた。
ただちに国会の関心は解散の日がいつになるかだけである。
女将としては解散選挙が近いと踏む。
「自民党が選挙に勝つといよいよこのおタヌキさん総理大臣になるのかしら」
代議士の最終的な目標
内閣総理大臣の椅子!
国会が騒がしくなると女将の料亭は政治家が頻繁に来客する。
一口に政治家と言っても料亭近くの国会の議員から地方首長県市町村長とバラエティに富む。
政治家たちは慌ただしく料亭に出入りを繰り返すも会食を楽しむ者は半減する。
財界からの常連客は自然と足が遠退き始め料亭の利用客バランスは不思議と保たれていく。
「やあっ久しぶりだ。女将は相変わらず綺麗な女だな。さぞかし旦那はおまえに惚れ抜いたことだろうワッハハ」
黒塗りのスーパーサルーンから降りた小肥りな老人は快活に笑う。
「あらっ先生ったら」
老域にしては背は高く鼻筋のスキッとしたハンサムな男である。
「アハハッ!ワシの老眼はフシアナだがな」
料亭の玄関口で豪快な笑い声を響かせ秘書らを携えて長老の自民党が登場する。
車から降りると同時に女将をはじめ奉仕をする仲居たちに愛敬を振り撒く。
ワッハハと笑い飛ばし代議士の定位置老舗料亭の特別席(奥座敷)に消えていく。
これが女将におタヌキさんと呼ばれる老練な代議士が料亭に現れた瞬間である。
女将が先導し代議士一行は奥座敷に収まる。
「女将っいつも済まないな。今日は(奉仕する娘は)何人いる?」
女将には調理に携わる仲居や調理場(板前)の人数を聞く。
「これだけで足りるだろ」
チップを弾んでいく。
「先生いつもいつもあいすみません」
タヌキ親爺が奥座敷にデンと構えると忙しく仲居らは料理を運ぶ。
主賓の座席にいる代議士がタオルで軽く顔を拭くと同じ自民派閥の中堅代議士らが現れる。
後から参上した代議士は皆頭を低くし秘書を連れていた。
慌ただしく料亭に到着していた。
「先生遅くなりました。申し訳ございません」
主賓の老たる代議士はニコリとした。
明日に総理と呼ばれる男の宴に堂々と遅刻するとは君は度胸だな。
代議士たちの座る奥の特別な座敷。同じ料亭で格の違いをみせつける料理を用意している。
この代議士だけの誂え料理をお出しする女将は今宵の宴がどんな意味かを熟知している。
明日か明後日かの新聞記事で国会運営はどうなるかを知るのである。
「いよいよ(タヌキさんの)政権が来るのね」
目の前にいるタヌキな老人は衆議議員初当選をして以来様々な大臣を無難にこなし自民幹事長を歴任している。
代議士として就任していない役職は総理大臣のみである。
女将だけでない。
料亭の従業員たちもヒソヒソと噂話を繰り返す。テレビニュースによると総理になられるか。タヌキの親爺が自民の派閥の中に埋もれ我慢に我慢をし最高の地位に登りつめるのか。
国民のためにあるはずの国会そして国会議員。
選挙民のための政策は先送り。
何一つ重要な法案は通していないというこの時期に内閣総辞職。
政治家は自分勝手であり気楽な稼業。
奥座敷に居座る中堅どころの代議士たち。タヌキ親爺に総理の椅子を早く回し座って貰いたいと密談に意欲を出す。
この手の話合いは取り掛かかってさえすれば後は流れ作業のごとき。派閥の集票などの金の配り方は御手の物である。
このタヌキを総理大臣に祭り挙げたらいくら金を配ってこちらの懐がどのくらい潤いがあるのだろうか。
「おい女将っ。早く料理を運んでくれ」
わかっているだろ。今夜の集まりはどれだけのものか
眼鏡を取り目の回りや額の汗を盛んに拭うタヌキ親爺。決心のほどが見られてしまう。
タヌキは女将の姿をみてリフレッシュしていく。
この料亭での密なる宴は何かと験のよいものである。
選挙前にも幹事長になれる前にも女将のもてなしを受けて座を射止めていた。
「料理は後どれだけあるんだ。もう少しか。運ぶだけ運んだら部屋に誰も寄せつけないでくれ」
香ばしい匂いが漂う奥座敷。
仲居連中は黙々と料理を運びコンロに火をつける。
料理が整えられると中堅な代議士たちは身を寄せ合い緊張感で顔色を変える。
いよいよか。
総理の椅子が決まる瞬間に立ち合うなんて滅多にないことだ。
女将は料理を運び入れ確認をする。調味料や備えの調卓品などに不備はないか。
代議士の数を読み一品一品を目で追う。
「先生お仕舞いでございます。後はごゆっくりと」
女将はピシャリと一言残す。タヌキ親爺はよしわかったと女将に目配せした。
女将は料理の配膳を2~3度確認する。手際のよい仲居連中に退座の用意をさせると座敷の襖に立つ。
後は何者もこの宴の会には寄せつけませぬと言い切るような毅然たる態度を示す。
仲居が着物の裾をサアサアと衣擦れさせて居なくなる。忽ち女将の手ですぅっと襖が閉まる。手際のよい光景は見ていて清々しささえ感じる。
てきぱきと働く女将がいなくなる。今宵の宴に部外者がいてはいけない。
密会になると代議士たちは顔を紅潮させる。若手の代議士はブルっと震えてしまう。
いよいよ国勢が決まる宴が始まる。この席に陣取る幸せを噛みしめてもいるようである。
「みんな聞いてくれ。今夜はみんなの気持ちを知りたい」
だから心して聞いて欲しい
中堅どころの代議士らが中心となり次期総裁候補決定の密会は進行する。
自民総裁・総理大臣となるには自民党内の派閥の結束が必要だと説いてみる。
「我々の派閥は(自民の)半数を集めてはいる。だが半数では心許ないのは自明の理なんだ。直前になって裏切る輩はいつの時代にもある。他の派閥に"札束攻勢"をかけ確実な票を我々に取り込むんだ」
派閥の数を確かめる。
協力をしてくれる他の派閥への要請を頼む代議士を指名する。
自民党総裁への立候補者。
対立するライバル議員の動向を見る代議士。
中堅の代議士は子細に国会の派閥状勢を分析し自分の思うように勢力分布を発表してみせた。
国会の答弁や選挙民の前では冴えない男として不評である。
それが(密会の今夜は)黒幕として隠密としてかなりできる男であった。
タヌキ親爺が自民総裁になる。派閥の取り込みが確約をされる瞬間である。
不確実な派閥は敵に回したと考える。ライバルの総裁候補とてより磐石な票の取り込みを遂行しているわけにもあるまいに。
中堅どころは派閥の勢力を取り込めると結論づけた。
「全自民の票は70%を固く貰えました」
総裁は大丈夫であると自信満々である。
「よし決まりだ。儂が(総裁は)決まりと決めたら決まりなんだワッハハ。もうよいぞ」
堅苦しい話はこれで御開きにしたい。
パチパチ(総裁)万歳
総裁は決まりだっの一言に俄かに拍手が巻きあがる。
「先生の前途は洋々でございます。おめでとうございます」
話が決まると女将を呼ぶ。
「女将っ!さあ綺麗どころを呼んでくれ」
この老舗料亭の座敷はいずれも欅造りの庭付き。
部屋に佇み畳の香りを楽しむだけでも満足できるほどである。
その欅造りの和風部屋の中で最も奥まる大座敷は一般のお客様は一切入れなかった。
特別なお客様も格付けがなされていた。一見して庶民や安い料理を注文する客など奥座敷の入り口にすら足を運ぶことがない。
"特別なお客様がご利用されている座敷の襖がパッと開く"
華やかな芸者衆が姿を現した。
「お待たせいたしました。先生方には贔屓にしていただいております。改めまして御礼を」
口上を述べた芸者が頭を深くさげる。他の芸者衆も揃える。
「今夜は先生方には特別に意味のおありなことでございます。重ねて(呼んでいただき)ありがとうございます」
芸妓頭と思われる女が代議士らにねぎらいの言葉を掛ける。
頭をあげると芸者衆はサアッ~と座敷いっぱいに散る。
それぞれ決めた受け持ちの代議士につく。芸者の担当は頭が決めておりお客様として並ぶ代議士たちのリクエストに充分応えていた。
「よおっ綺麗どころを待っていたぜ。さあさあ席についてついて。今夜は我が派閥の若手のホープもいるんだ。盛大にパッとやろうじゃあないか」
わかりましたと芸妓頭はにっこり。
「よいかっ。わかっているだろうな」
懐には心付けが忍ばされていた。
「今宵の先生はお慶びの前祝いとなるんだ。しっかり頼む」
芸妓頭にしっかり踊り唄いなさいとハッパを掛ける中堅の代議士である。
美しく着飾かる芸者衆が添い席をする。むさ苦しい代議士らの横に華やかな若い女が散らばりつく。
端からみると美女と野獣。
綺麗な女たちが嫌がりながら無理矢理そこに座らせたような光景である。
芸妓頭はひとりの若い芸者に目配せをする。
「あなたは先生のお気に入りさんです。さっ早く先生の席にお行きなさい」
次期総裁選挙出馬のタヌキ代議士の隣席に"いつも純和風"の芸者がつくことになっている。
隣席をしなさいと命じられたはよいが多少なりとも最初から躊躇い二の足を踏む。
「本当に私でよろしいのでしょうか。私は何もできないです」
今宵の主席はタヌキ親爺。
この初老に奉仕して艶を売るには荷が重いと弱音をいうのである。
芸妓頭は女の心中を察する。座敷に行きなさい。貴女は主席に行きなさいと命じた手前もある。
「そうなの。貴女はこの世界に入って日が浅い。というと主席のお相手は無理だということかしら」
無理ならば…
"座敷から消えなさい"と言わんばかりである。
この芸者が若く青いことは充分承知である。
たいした経験もなく接客や芸もあぶないかもしれない。
「うちの座敷に来てまだ半人前かしら」
あなたよく聞いてちょうだい。
「芸が未熟であろうと経験が浅いだろうと代議士さまからの要望なの。貴女は選らばれてこの代議士さまの座敷にいるのよ。光栄なことよ。よろしくて」
貴女みたいな和風美形タイプがあのタヌキは好きですのよ。
無芸でヘラヘラ笑ってばかりの低脳女が大好きですのよ。
芸者衆が入り座敷は一気に盛り上がる。女将の命で仲居らも膳の配膳やら料理の取り皿などを分担する。
女将の仕事はてんてこまいになる。
「お客様に粗そうがあってはいけません。いくら宴会ですから。無礼講ですって言われてもプロの奉仕はタガを緩めてはいけないの」
芸者らの無作法は多少目をつむりたくなる。
宴酣となると料理配膳の心配もなくなっていく。配膳は調えられ出し膳は終わる。
女将もホッと一安心をする。
「密会が開いてバタバタしましたけど。形だけはちゃんとしましたわ」
老舗料亭の面目だけは保てたと安堵をする。
女将として宴会のヤマ場を越え楽になる。お客様の席に目を配ることができる。
主席の代議士さんは喜んでいらっしゃるだろうか。長年のお付き合い。この方を悲しませては女将の面目丸潰れ。
接待している立場の代議士さんはどうか。
それぞれの役割で満足をしていらっしゃるか。
女将さんにSOSを発信してはいないか。
若手の代議士さんは年輩の方々に気兼ねをしている。
少しでも女将の力で宴会の場ぐらいリラックスをさせてやりたい。
女将の鋭い観察が始まる。
老舗料亭を切り盛りする力量は伊達ではない。今の奥座敷は女将が演出した脚本どおり筋書きのあるドラマが進行しなければならない。
主席のタヌキ親爺を見る女将。今宵の宴が済めば国会は内閣不信任議案により解散に追い込まれる。現在の総理大臣は国民や自民から責任を追及され引き下ろし。
自民党の新総裁にこのタヌキ親爺が居座る。派閥の後押しで選出されると衆議院選挙を与野党入り乱れて戦う段取りとなる。
女将は目の前の老人が自力で総理総裁になる困難さを実感する。
今から総理に辿り着く過程をつぶさに想像するととてつもない至難のわざであると思う。
派閥以外な自民の議員を必ず取り込み欲しいだけ金をばらく。ライバル代議士に票がいかぬように最大の注意を支払いである。
自分の派閥を若手から中堅と手懐け味方意識を植え付ける。
はてはタヌキ親爺の手となり足となり総裁選挙に莫大な利益をもたらすよう餌づけていく。
一人の裏切りさえ予断を許さぬ政治の世界。地道な努力と集金能力に長けた者のみが総理総裁という頂点に辿り着く。
歳月を考えてみたら気の遠くなるような地道な作業であると感じる。
この料亭の密談で幾人の総理が決まり輩出をしたであろうか。女将は子供で先代の時代から数えたら5人前後であろうか。
女将はそれが腹黒いタヌキであろうとなかろうと労いたくなる。
「先生この度は(総裁戦出馬)おめでとうございます。いよいよでございますね」
いよいよである。
いよいよ総裁となり総理大臣の椅子に辿り着く。
タヌキ親爺は女将の顔をゆっくり眺めた。
「いよいよかっ。まあなあっ早いことか遅いことかよくはわからぬ。だがこうして(総裁を)出馬すると決めたからにはやらなければならない」
この自民党総裁に落選などしたら目の前の派閥の連中は第二の派閥に陥り冷や飯を喰わなくてはならない。
中堅どころには誰にもおいしい大臣の椅子を与えられずじまい。
派閥の首領のひとりだけの失敗で収まらないのが政治であり重大な責任となる。
女将は主席から挨拶をして座敷の中に溶けこんでいく。
タヌキ親爺はニコニコして迎え入れる。美しい女将が寄り添うと苦虫を噛みくだく顔も綻ぶ。
「女将済まぬが」
中堅や若手を問わず酌をしてくれぬかと頼む。
派閥の結束を強固たるものとしたいタヌキ親爺と女将は膳の前をひとりひとり回ることになる。
中堅どころ献杯を受け上機嫌である。
「こんなにも綺麗な女将さんに逢えて光栄ですな。私みたいな野暮な男にまで酌をしていただけるなんて」
一様に喜び安心する。
女将にはお客様の笑顔や満足が最高のクスリとなる。
「アッハハッ女将にも何かと迷惑をかける」
タヌキ親爺は申し訳ないとオドケ女将に頭をさげた。
長年の付き合いであることを殊更に強調をしたいようである。
女将はひとりひとり丁寧に酌していく。中堅はもちろん若手の代議士らの顔ぶれと名前を記憶たくなる。
大抵の国会議員の名は新聞記事で覚えてはいる。
それなりにわかってはいるが如何せん人数が多く顔と結びつかない。
代議士らに挨拶を繰り返される女将。一生懸命に代議士らの特徴を頭に入れ贔屓にしようと努力してみる。
「ほほぉ女将は記憶が達者とみえるな。どうか我が党の有望なる議員たちを料亭の"顧客"にしていただきたい」
覚えて欲しいのは派閥の領収のみである。
「みんな綺麗な女将に応えられるよう出世しをしていくんだぞ」
出世して女将に覚えられる。
派閥の首領はやがて総理大臣となり好きなだけ派閥の議員たちに大臣の椅子を配りまくってやる。
タヌキ親爺は女将の顔をみて益々元気。
演説をひとつぶちかましたくなる。
「みんなよく聞いて欲しい。この女将はそんじょそこらの女将とわけが違う」
女将の右手を取り高々と振り上げる!
座敷の真ん中にシャキッと立つ。
赤坂界隈にある老舗料亭の女将の目に叶った政治家は皆出世している。
「我々自民党の選挙が勝つのは女将の器量によるものである」
だから女将が我々に味方をしてくれることは総理総裁の椅子が約束されたも同然である。
「歴代総理総裁は女将の料亭から生まれことはやぶさかでない」
(さらに歴代総理大臣の名前を列挙してみせる)
上機嫌になる。
派閥の首領としての揺るぎない自信がみなぎる。中堅どころから頑張って総裁選挙いきましょうとハッパをかける。
首領が総理総裁となった暁にそれなりの甘い汁がチュウチュ~と好きなだけ吸える。
「ああっ君の希望するとおりシナリオは描かれている。心配なんぞ微塵もない」
おだてにおだてる中堅どころ。おだてられてタヌキ親爺は盛り上がり最高潮に達していく。
女将が座敷をぐるりと見渡すと主席の膳にポツンと空いた座布団がある。
その横に若い芸者がポツンと淋しい顔で主の帰りを待っている。
タヌキ親爺への奉仕のために座敷に呼ばれた芸者である。
主賓は取り囲み座敷の真ん中に陣取り屈強な政論を盛んに吐く。
我が党は~
我が強靭な派閥の力によって~
「新しい政治を目指す」
繰り返し派閥の結束に激を飛ばした。自分の檄に興奮をしてしまい意気盛んとなる。
その政治論客のタヌキ親爺をジッと眺める女がそこにいる。派閥の代議士たちに腕を振り上げ熱弁を振るうタヌキ親爺。熱弁内容はともすると空回りをしてしまい呂律がしばしあやしくなる。
自分の檄する政治論に酔いしれ鼓舞している。
派閥の首領が取り巻きからやんややんやの拍手喝采を浴びる。
政治家として最高な扱いを受けご満悦なよう。
そんな男の姿を後ろから冷静にみて落ち着き払う女があった。
主人の勢いのある様を微笑ましく見守っていくスリムな女の穏やかな艶。
女将はこの光景を昔同じように眺めていた錯覚に陷った。
「先生をジッと見つめるあの芸者さんは…」
うーん
女将はどこかで見かけたわ
いつ見たのかしら
この光景は初めてでなくてよ
「あの代議士さんに優しく接したのは」
ハッ!
女将は思い出した。
そうだわっ
一瞬に書生の面影が脳裡をさ迷う。
「うんっどうかしたかっ女将」
ハッと我に返る。
"ぼんやりしていてはいけないぞ"
肩を叩くは財界の大物である。
先代女将の時代からよく知る切れ者の代議士が政治の階段を一歩一歩登りあがる。
「代議士のどんちゃん騒ぎか」
いよいよ最後のステップ総理総裁になられる。
経済界の重鎮は帰り際に女将に呟く。
「(タヌキの)あいつもこの(料亭に)来るんだろ」
(この料亭で)良からぬことをいつも考えて密談しているんだろ。
「俺からみたら国会審議より料亭が重要なファクターになるとな」
情けないぜ
「俺からよろしくと伝えてくれよ。経済連の下ッパな俺とはまったくもって身分が違ってしまう。総理襲名の自民党パーティにはでかいホテルの鳳凰の間で遠く離れてあのタヌキ顔を眺める程度だ。そりゃあ小さいぜ」
野暮たい政治屋さんらは騒がせておきたまえ!
「哀しくなるくらいに総理ってのはな」
皮肉たっぷりにタヌキ親爺をヤユした経済界トップの重鎮。
言葉の重みが違っている。
挨拶をしながら女将は改めて総理総裁という雲の上を実感していく。