第5話 覚醒する鑑定士
それから数日間、俺はひたすらギルドの地下倉庫に籠っていた。
「おい、依人、次の山だ。手際がよくなって助かるぜ」
「了解です」
男性職員からの信頼も厚くなり、俺は次々とパーティの戦利品を捌き続けた。
【鉄質の鱗】
レア度:C
状態:劣
説明:アイアンリザードの皮。頑丈で防具の素材に適する。
【鉄血】
レア度:C
状態:並
説明:鉄を食らう魔物から採れる血。強化ポーションの主原料。
【悪魔結晶】
レア度:B+
状態:良
説明:ハーフデーモンの心臓部。魔導具の触媒として重宝される。
鑑定していると、たまに凄そうなアイテムも混ざっている。戦力としては相変わらずの雑魚だが、知識量だけはどんどん増えていく。
この仕事は俺にとって、天職だった。
【鑑定スキルがLv9に上昇しました】
(おっ、また上がったな......よし!)
視界に浮かぶログを見て、俺は小さく口角を上げた。
たった数日でLv9。王都にいた頃とは比較にならない成長速度だ。倉庫は情報の宝庫であり、鑑定スキルのレベル上げにはこれ以上ない聖域だった。
────
その日の午後。
運び込まれてきたのは、あの『ナイトレイヴン』の荷だった。
相変わらず手入れが最悪で、血と泥に塗れた装備品の山。
その中の、薄汚れた麻袋を一つ手に取った瞬間、全身の産毛が逆立った。
「......っ!?」
本能的な拒絶感に、思わず手を放す。
──カラン、カラン......
袋の中から転げ落ちたのは、掌に乗るほどの銀細工。精緻な装飾が施されたランタン型魔道具だった。
古びた金属の鈍い光と、中央にはめ込まれた、曇った水晶。
「おい、どうした!!」
異変に気付いた職員が、呆然としている俺に声をかけてくる。
ハッと我に返る。
──鑑定。
【深銀の揺り籠(呪)】
分類:聖遺物
説明:過去の聖遺物が呪物化したもの。銀の因子が生命力を求めて肥大化中。
そして。
鑑定Lv9の眼は、その奥に潜む隠された別の情報を捉え始めていた。
ランタン型魔道具の、中央に位置する小さな丸窓の向こう。
満たされた銀色の液体の中で、フードの少女が膝を抱えるようにして浮遊していた。
【名前】エリナ・ド・ラ・メール(状態:封印)
【種族】ヒューマン
【年齢】15
【職業】■■■(ノイズにより不可視)
【レベル】6
【HP】-/84(衰弱・生命吸収状態)
【MP】17000/-(封印中)
スキル
【剣技Lv1】【風属性魔法Lv7】【水属性魔法Lv3】【強奪Lv1】【魔力感知Lv7】【■■■(ノイズにより不可視)】
なんだこのMPは......。それに、このノイズ。
というか、いや、それどころじゃない。
視界の端で、職員がそのランタン型魔道具に手を伸ばそうとするのが見えた。
「触るなッ!!」
怒鳴り声に近い叫び。
ひっ、と職員がのけぞり、手を引っ込める。
その直後、バタン!と倉庫の扉が荒々しく開けられた。
「サイラス様!?どうして......」
職員が声を漏らす。
そこに立っていたのは、王都にいるはずの魔導士長、サイラス・ペンブルックだった。
なぜ......?
俺も、声にこそ出さなかったが心の中でつぶやく。
「少々、気になる違和感があってな......ここまで来たのだが.......まさか、あの日の鑑定士殿が呪物の前で立ち止まっているとは」
重厚な足音を響かせ、サイラスが歩み寄る。
「鑑定士、依人よ。君の眼には、それが何に見える?」
「......呪われた聖遺物。そして、極めて危険なものであるということしか。一体これは何なのです?何が起きているのです?」
俺の答えに、サイラスは意外そうに方眉を上げた。
その瞬間、ランタンが自意識を持ったかのように跳ねた。
『.......ぁ......あぁ....っ』
ランタンの内側から、悲鳴にも似た声にならない呻きが漏れ出す。
ランタンはさらに振動を続け、その動きはどんどん激しくなる。
銀色の光が当たりに止めどなく漏れ出し続けている。
「ちっ、爆発寸前か!全員下がれ!」
サイラスが杖を構え、倉庫全体を焼き払わんばかりの魔力を高める。
だが、俺は動けなかった。
銀色の光が俺の視界をジャックし、頭の中に直接、システムログが叩き込まれたからだ。
【重要:一定以上の脅威を観測しました】
【鑑定スキルがLv10に到達──固有スキル『因果の強奪』が解放されました】
【観測者Lv1を取得しました】




