第5話 役立たずの鑑定士はギルドに入る
翌朝、気持ちよく目を覚ました俺は、軽く身支度を整えて宿を後にした。
向かう先は冒険者ギルド。場所は昨晩、宿の主人に銀貨一枚を握らせて聞き出しておいた。
果たして、前世の知識だけで動いているが、冒険者ギルドに俺でも入れるのか、生計を立てていくことができるのか、そんなことはわからない。
だが、今のところ王道の異世界っぽいし、まずは動いてみるべきだろう。
きっと、薬草採取や雑用の依頼だってあるだろう。
まずはこの世界で生き抜くための基盤を作らなければならないのだ。
やる気を絞り出しながら大通りをしばらく歩くと、目的の建物が見えてきた。
周囲の商店よりも一回り大きな木造建築。
入り口に掲げられた看板には、二本の剣が交差する無骨な紋章が刻まれている。
『冒険者ギルド』。
中に入ると、酒場のような喧騒が広がっていた。
笑い声、怒鳴り声、囁き声、金を勘定する音。
前方には広いカウンター、その横の壁には依頼書らしき紙がずらりと貼られている。
受付カウンターへ向かい、声をかけた。
「すいません、冒険者登録を......」
受付嬢はちらりとこちらをみて、事務的に頷く。
「過去に登録経験は?」
「いえ、ないです」
「登録料は金貨一枚ですが、よろしいですか?」
「はい」
「では、こちらに手を」
言われるがまま、右手を水晶玉のついた台にかざす。
カードが差し込まれ、水晶玉がぼんやりと光った。
「はい、いいですよ」
取り出したカードを見ながら、受付嬢が読み上げる。
「くおん、よりと、さん...十七歳...職業は...」
「......鑑定士?ですか?」
「鑑定士です」
何かまずいのか?
登録できない、なんてことは──。
「では金貨一枚になります」
......大丈夫らしい。
ホッと胸を撫で下ろす。
金貨と引き換えに受け取ったカードには、レベルと、右側に大きく「F」の文字が刻まれていた。
「ギルドカードの説明は必要ですか?」
「お願いします」
説明を一通り聞き、カードが仮登録証であること、一ヶ月以内に依頼を一件達成しなければならないことを知る。
まあ、一件くらいなら何とかなるだろう。
「ご質問はございますか?」
丁寧な口調で進める。なかなかに感じのいい受付嬢だ。
「いえ、特に……大丈夫です」
「それでは、次のご報告をお待ちしておりますね」
その場を離れようと、後ろへ一歩踏み出した瞬間だった。
「ひゃっ!」
何かにぶつかった。
いや、その何かは少女だった。
俺にぶつかって倒れるほど、か弱い少女。
「あ、ごめん。大丈夫?」
反射的に手を差し伸べる。
その差し伸べた手はなかなか掴まれることなく、じっと伸ばし続けていると、周囲からひそひそと声が聞こえてきた。
「あれ、また、あの子じゃない?」
「......ほら、前にも追い出されてた...」
少女は目の前に差し出された手と周囲を交互に見てから、自力で立ち上がった。
行き場を失った伸ばした手を、俺はそっと引っ込める。
少女は無言で、服についた埃を払っている。
「......あの、ほんと、ごめん」
気まずさに耐えきれず、再度謝った。
だが、先ほどの周囲の声が引っかかる。
俺は、少女に鑑定を発動した。
何も表示されない。
昨日の夕方、銀色の物体を鑑定したときと同じだ。空白。
──そのとき、少女がふと顔をあげた。
フードの奥から、こちらを見る視線。
怯えと、諦めと、どこか諦観した色。
目が合った。
「......」
少女は何も言わず、ギルドの外へ、人混みの中へ消えていった。
「......鑑定、できない?」
ギルドに来る前の高揚は消え、胸の奥に残ったのは、言いようのない違和感だけだった。




