第3話 役たたずの鑑定士はギルドに入る -2
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翌朝、気持ちよく目を覚ました俺は宿を後にした。
向かうは冒険者ギルド。場所は宿の主人に聞いてある。
異世界といえば冒険者ギルド。
凝り固まった固定概念だけで動いているだけだが、金を稼ぐには、他に手段がない。
戦えなくても、薬草採取や雑用くらいならできるだろう。
そう考えながら歩いていると、ほどなくして目的の建物が見えた。
大きな木造の建物。
入り口の看板には、交差した剣の紋章。
──冒険者ギルド。
中に入ると、酒場のような喧騒が広がっていた。
笑い声、怒鳴り声、囁き声、金を勘定する音。
前方には広いカウンター、その横の壁には依頼書らしき紙がずらりと貼られている。
受付カウンターへ向かい、声をかけた。
「すいません、冒険者登録を......」
受付嬢はちらりとこちらをみて、事務的に頷く。
「過去に登録経験は?」
「いえ、ないです」
「登録料は金貨一枚ですが、よろしいですか?」
「はい」
「では、こちらに手を」
言われるがまま、右手を水晶玉のついた台にかざす。
カードが差し込まれ、水晶玉がぼんやりと光った。
「はい、いいですよ」
取り出したカードを見ながら、受付嬢が読み上げる。
「くおん、よりと、さん...十七歳...職業は...」
「......鑑定士?ですか?」
「鑑定士です」
何かまずいのか?
登録できない、なんてことは──。
「では金貨一枚になります」
......大丈夫らしい。
ホッと胸を撫で下ろす。
金貨と引き換えに受け取ったカードには、レベルと、右側に大きく「F」の文字が刻まれていた。
「ギルドカードの説明は必要ですか?」
「お願いします」
説明を一通り聞き、カードが仮登録証であること、一ヶ月以内に依頼を達成しなければならないことを知る。
まあ、一件くらいなら何とかなるだろう。
「ご質問はございますか?」
丁寧な口調で進める。なかなかに感じのいい受付嬢だ。
「いえ、特に......大丈夫です」
「それでは、次のご報告をお待ちしております」
その場を離れようと、後ろへ一歩踏み出した瞬間だった。
「ひゃっ!」
何かにぶつかった。
いや、その何かは少女だった。
俺にぶつかって倒れるほど、か弱い少女。
「あ、ごめん。大丈夫?」
反射的に手を差し伸べる。
周囲から、ひそひそと声が聞こえてきた。
「あれ、また、あの子じゃない?」
「......ほら、前にも追い出されてた...」
少女は目の前に差し出された手と周囲を交互に見てから、自力で立ち上がった。
行き場を失った俺の手は、そっと引っ込める。
少女は無言で、服についた埃を払っている。
「......あの、ほんと、ごめん」
気まずさに耐えきれず、再度謝った。
だが、先ほどの周囲の声が引っかかる。
俺は、少女に鑑定を発動した。
何も表示されない。
まただ。空白。
──そのとき、少女がふと顔をあげた。
フードの奥から、こちらを見る視線。
怯えと、諦めと、どこか諦観した色。
目が合った。
「......」
少女は何も言わず、ギルドの外へ、人混みの中へ消えていった。
「......鑑定、できない?」
先ほどまでの高揚は消え、胸の奥に残ったのは、言いようのない違和感だけだった。




