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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第28話 静まり返った迷宮都市

簡易結界魔石は前日の買い出しの際にこっそり購入した、簡易宿泊キットの一つです。

「エリナ、あの導標石は偽物だ、魔法で切り刻め!」

「任せて! ……『嵐の刃(ウィンド・エッジ)』!」


 鋭い風の刃が、石に擬態していた魔物を一刀両断する。

 それからは、導標石を見つけるたびに俺が『鑑定』を行い、偽物を排除しながら慎重に歩を進めていた。


 順調かと思われたその時、霧の奥から不快な音が響き渡る。


 ブォォォォォォン……。

 鼓膜を震わせるような、低く重い羽音。


「……何、この音」


 エリナが眉をひそめ、杖を構え直す。


 音が次第に大きくなり、霧を切り裂いて現れたのは、体長1メートルはあろうかという、(おぞ)ましい姿をした巨大な蚊だった。


「ひっ……!」



 この中層域には、ミミックウッド以外にもう一匹、初めて見る厄介な魔物がいて、それがこの蚊の魔物だ。



【名称】吸血蚊

【種族】 魔物

【レベル】16

【基本ステータス】

HP 240/ 240

MP:32 / 32

筋力:97

防御:21

敏捷:66

魔力:32

精神:60

【スキル】

『風属性魔法Lv3』『麻痺毒Lv4』『吸血』『突進Lv4』『自己再生(小)』


(この『麻痺毒』と『吸血』のコンボは、食らうと面倒そうだな)


「ヨリト、あいつら、こっちに来るわ!」


「いや、違う。……あいつらの狙いは、俺たちじゃない」


 観測者で捉えたのは、吸血蚊が突進スキルを、俺たちの後ろにいるクロニカさん目掛けて発動していることだった。


「ギギギギギギ!」


 吸血蚊は目にも止まらない速度で俺たちの横をすり抜け、クロニカさんに襲い掛かる──。


 その瞬間、クロニカさんは"無意識に懐へ手を伸ばした"ように見えた──。


 まるで、護身用の何かを抜き放とうとする熟練の戦士のような、無駄のない動き。


(やはり、戦えるのか――!?)


「――っ!『水鏡壁』!」


 彼女の正体がどうあれ、護衛対象に戦わせるわけにはいかない。


 咄嗟に発動した水属性魔法が、クロニカさんと魔物の間に分厚い水の壁を作り出す。

 突進した吸血蚊は、突如出現した水幕に弾き返される。


「コイツ、思った以上に素早い!エリナ、トドメを頼む!」


「ええ!『風刃(ウィンドカッター)』!」


 エリナの放った刃が、体勢を崩した吸血蚊を真っ二つに切り裂いた。


「……危なかったわね」


「クロニカさん、怪我はありませんか?」


 俺が問いかけると、彼女は懐に滑らせていた手をすっと下ろし、いつもの穏やかな微笑を浮かべた。


「ええ、驚きはしましたけれど……。やはり、頼りになる冒険者様ですわ。お二人の魔法、まるで意志を宿しているかのように鮮やかでした」


 その称賛に嘘はないだろう。

 だが、彼女の穏やかな微笑とは裏腹に、その瞳は俺の魔法を冷徹に分析するような、不穏な光をはらんでいた。


 一瞬の交差。


 見透かされているような、あるいは値踏みされているような——そんな奇妙な感覚が、俺の背筋をかすめていく。


「……お役に立てたなら何よりです。さあ、先を急ぎましょう」


 俺は、視線を逸らし、前に向き直った。


────


「……もう間もなく、森を抜けますわ」


 クロニカさんの案内もあり、翌日の午後には森の湿った空気から解放された。


 昨夜、森の中で『簡易結界魔石』を焚いて野営した甲斐もあり、大きなトラブルもなく辿り着くことが出来た。

 景色は、岩肌の露出した乾燥した大地へと変わり始める。


 視界が開けた先に、巨大な岩山を削り取って造られたような無骨な外壁が見えてきた。


「見えた……あそこが、迷宮都市バザルトだ」


 俺の言葉に、御者台のクロニカさんが安堵の息を漏らす。


 バザルトは、その名の通り玄武岩に囲まれた要塞都市だ。

 巨大な迷宮から産出される魔石や素材を狙って、世界中から荒くれ者の冒険者が集まる場所なのだが――。


「ようやく着きましたわね。……ふふ、お二人のおかげで、この馬車も無傷です」


クロニカさんが微笑み、馬車を正門へと進めようとした、その時だ。


「――止まれ。現在、王命により入城制限を行っている」


 門を潜ろうとした俺たちの前に、数人の兵士が槍を交差させて立ち塞がった。

 その槍の根元には青と金の二色に彩られた盾形の紋章が鈍く光を反射していた。

 王都グランゼルドの紋章だ。


「ルーフェルからギルドの依頼で来た。冒険者の依人だ」


 ギルドカードと依頼書を確認した兵士たちは、無愛想に槍を納めた。


「迷宮目的ではないんだな?現在、迷宮内は勇者パーティ一行と許可を得た者以外、立ち入りを制限している。無断で入れば反逆罪だ。通れ」


 ギルドカードと依頼書を確認した兵士たちは槍を納めた。


「なんだか、物騒だわ……」

「ああ……嫌な圧を感じるな」


 石造りの重厚な門をくぐり、俺たちはついにバザルトの街へと足を踏み入れた。

 本来なら、ここは世界中から集まった荒くれ者の熱気と、獲物を持ち帰った冒険者たちの勝ち鬨が絶えず響く、欲望と活気に満ちた街のはずだった。


 だが、視界に飛び込んできた光景は、俺の予想とは大きくかけ離れていた。


「なんか、想像と違うな……」


 大通りには人はいる。だが、その誰もが武装した冒険者とは装いが違い、商人や街の住人ばかりだ。


 「迷宮の立ち入りを制限しているって言っていたわよね……」


 その制限により、儲けにならないと判断した迷宮目当ての冒険者たちは、早々にこの場を離れていってしまったのだろう。

 結果が、今の状態だ。


「それでは依人さん、エリナさん。護衛任務ありがとうございました」


 呆然と街を眺める俺たちを他所に、クロニカさんが馬車を止めて御者台からしなやかに降り立った。


「帰り道も、またギルドに依頼を出しておきますわ……ふふ、タイミングが合えば、是非またお願い致しますわね。では、私はここで失礼致します」


 深々と一礼し、彼女は荷台を引いて街の雑踏へと消えていった。


 俺たちはその背を見送った後、依頼完了の手続きをするため冒険者ギルドへと向かう。


 道中、壁際に座り込んだ年配の冒険者たちが、吐き捨てるように愚痴をこぼしていた。


「迷宮は勇者様の貸し切り状態だとさ。……全く、騎士団の連中は自分たちが何をしているのか分かってんのか?」


 重苦しい沈黙に支配されたバザルト。

 だが、俺はこの静寂の裏側で、爆発寸前の火山が蠢いているような、奇妙な不穏さを感じ取っていた。

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