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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第27話 偽りの道標と、謎多き行商人

 翌朝、王都の西門付近。

 霧が立ち込める朝の空気の中、俺たちは今回の護衛対象と合流した。


「あなた方が依頼を引き受けてくださった、冒険者の依人さんとエリナさんですね」


 馬車の御者台から降りてきたのは、二十代前半ほどの若い女性だった。

 行商人というには少し身なりが整いすぎている気もするが、その瞳には強い意志が宿っている。


「ああ。護衛を引き受けた依人だ。こっちは相棒のエリナ」

「エリナです。よろしくお願いしますね」


 彼女は御者台から飛び降りると、丁寧に頭を下げた。


「私はクロニカ。ルーフェルで小さな工芸品店を営んでいます。今回は、バザルトに素材を仕入れるために伺います。腕のいい冒険者の方に来ていただけて助かります」


 クロニカさんはそう言って微笑む。


「腕のいい……か。俺たちもバザルトへ向かうのは初めてなんだ。……まあ、そこらの魔物に簡単にやられるほどやわな鍛え方はしてないつもりだ。クロニカさんには安心して馬車に乗っていてもらいたい」


「それじゃあ、行こうか」


 挨拶もそこそこに切り上げ、早速出発して亡霊の森へ向かった。


「……これが、"導標石"か」

 緑色に光る一筋の縦線をみて、それが入口の目印となる一つ目の"導標石"だと気づく。

 大きさは、人の身長よりも少し高いくらいだ。


 念のため、鑑定をしてみるとこのように表示された。


【導標石】

【説明:王都グランゼルドが制作した簡易設置型魔道具。防御結界が施されている。】


 間違いなさそうだ。


 俺とエリナが先頭を歩き、その5~10メートル後ろをクロニカさんの馬車についてきてもらう、という形で、森の中へ踏み出した。


 しばらくは、順調に歩を進めた。

 見慣れた魔物ばかりなので、進むペースも早い。


 しかし、中層に着いたくらいだろうか、魔物の姿をめっきり見なくなり、かれこれ一時間は出くわさなくなっていた。


「……ねえ、依人。さっきから、同じ木を三回くらい見てない?」


 エリナの言葉に、俺はハッとする。

 言われて初めて気づいた。確かに、景色は代わり映えしないが、森なんてそんなもんだと、その可能性を排除していた。


(いや、違う。景色が変わっていないんじゃない。『俺たちの距離感』が狂わされているんだ)


「止まってくれ、クロニカさん!」


 俺は後方に声をかけると、前方にある導標石を鑑定する。

 常に『魔力感知Lv1』を発動させているが、魔力の発生場所がここしか感じられなかったからだ。


 何かあるなら、これが怪しい。


【名称】ミミックスタンプ(擬態中)

【種族】 魔物

【レベル】15

【基本ステータス】

HP:74 / 74

MP:244 / 244

筋力:80

防御:42

敏捷:25

魔力:144

精神:102

【スキル】

『土属性魔法Lv1』『硬化Lv4』『魔力吸収(小)』『自己再生(中)』『擬態Lv5』『催眠魔法Lv4』


「……導標石に偽装して、俺たちを同じ場所で足踏みさせてやがったのか」


 恐らく、道に迷わせ体力が尽きた頃に催眠魔法で眠らせる、というトラップ型の魔物なんだろう。

 幸い、向こうはまだ上手く擬態しているつもりのようだ。

 こちらが警戒されている様子はない。


「体力は低い。簡単な火属性魔法で一撃で倒せるだろう。エリナ、頼んだ──」

 俺は小声で指示を出すと、エリナが手早く詠唱を済ませファイアーボールを導標石に打ち込む。


 ミミックスタンプは、声にならない悲鳴をあげ、一撃で沈んだ。


「すいません、魔物の幻惑にかかっていたようです。先へ進みましょう!」


 俺が後方に声をかけると、クロニカさんは「いえ、お見事でしたわ」と短く応じた。

 だが、その表情には焦りの色がない。普通の行商人なら、道に迷わされていたと知ればもっと狼狽するはずだ。


(……この人、さっきから妙に落ち着きすぎている気がするな)


 気になって、移動中にさりげなく彼女を『鑑定』してみる。

 以前、カイトを鑑定したときには鑑定の気配を察知されたから、むやみに人を鑑定するのは控えていたんだが──。


【クロニカ】

【種族】ヒューマン

【職業】潜伏者

【レベル】18

基本ステータス

【HP】310/310

【MP】180/180

【筋力】72

【防御】50

【敏捷】115

【魔力】40

【精神】95

スキル

『隠密Lv8』『投擲Lv5』『魔力探知Lv5』『短剣術Lv9』『毒物調合Lv4』『毒耐性Lv4』『暗器使い』


(――っ、危ねぇ……!)


 表示されたステータスを見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 あのカイトと同じ、隠密特化型だったからだ。鑑定されたことに気づかれてもおかしくない。


(……バレて……ないよな?)


 横目で彼女を盗み見るが、クロニカさんは穏やかな表情で前を見据えたままだ。

 だが、その中身は工芸品店の店主とは程遠い。暗器使いに、隠密や毒物調合……。これほど殺伐としたスキル構成なのも珍しい。


(ただの行商人なわけがない。……何か『訳アリ』だな、こいつは)


 俺はあえて深くは踏み込まず、何食わぬ顔で前方の道へと視線を戻した。

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