第25話. 鑑定士は治癒スキルを手に入れる
少しずつ、依人とエリナの距離が縮まる様も描けたらな、なんて
魔法鞄に、魔剣──。
とにかく、魔の付くものを携えながら、俺たちは魔物討伐に出かける。
今回の目的は、Dランク依頼「ヒーリングスライムの討伐」で、目的地はルナシリス湖だ。
そう、俺らはつい先日、Dランクに昇格していた。
「水玉鹿にハイドリザード、飛水蛙……悪いな、今回の獲物はお前らじゃないんだ」
口では謝りつつも、襲いかかってくる連中は容赦なく経験値の養分とさせてもらう。
エリナとの連携も慣れたもので、彼女の詠唱に合わせて俺が因果を結びなおす、ということが呼吸をするくらい簡単にこなせるようになっていた。
ルナシリス湖の北側から入り、南側の平原へと抜ける。
そこが今回の目的地だ。
「いたぞ……。あそこだ」
俺が指差した先に、透き通ったエメラルドグリーンの球体がぷるぷると揺れていた。
距離はあるが、向こうもこちらの動きを観察しているようだ。
【対象】ヒーリングスライム
【種族】 魔物
【レベル】21
【基本ステータス】
HP:900 / 900
MP:227 / 227
筋力:72
防御:54
敏捷:146
魔力:96
精神:104
【スキル】
『風魔法Lv5』『治癒魔法Lv3』『状態異常耐性Lv8』『気配察知Lv4』『逃走Lv6』『自動回復(中)』『粘体分身』
【粘体分身:自身の体を切り離し、囮を作る。】
「なるほど、事前情報の通り、かなり倒しにくそうなステータスだな」
HPの多さや自己回復も厄介だが、一番の壁は『逃走Lv6』だろう。
一撃で仕留めきれなければ、即座に逃げられると聞く。
「可愛い見た目してるけど、逃げ足が速いのよね……一撃で倒すっていうのが一番の方法なんでしょうけど」
「大丈夫だ、スキルさえ盗ってしまえば、逃げられる心配はほとんどない」
俺たちは草むらに身を潜め、因果の強奪を発動できる距離まで、じりじりと間合いを詰める……。
しかし。
まだ、スキルの射程外だというのに、警戒心の強いヒーリングスライムは、全身をバネのようにして全速力で逃走してしまった。
「あっ……」
「……逃げられたわね」
ヒーリングスライム討伐、思ったよりも難易度は高いようだ。
だが、俺には秘策があった。
しばらく『魔力感知』を維持しながら探索を続け、二体目を発見したところで俺はエリナを制する。
「よし、今度は失敗しないぞ……『隠密』発動」
秘策とは、俺が持っているスキル『隠密Lv2』だ。
先ほどはつい油断をして、素の状態で近づいてしまったが、今回は本気で行かせてもらう。
まずは、俺一人で近づき、スキルを奪ってしまう作戦だ。
一歩ずつ、ゆっくりと近づいていく。
スキルの射程圏内に入ったところで──。
「逃がさないよ……。『因果の強奪』!」
視覚化したスキルに繋がる黄金の糸を、根こそぎ鷲掴みにした。
【『風魔法Lv5』『治癒魔法Lv3』『状態異常耐性Lv8』『気配察知Lv4』『逃走Lv6』『自動回復(中)』『粘体分身』の強奪に成功しました。】
(よし!取った!)
視界に流れるログを横目に、後方で待機するエリナへ合図を送る。
さすがに物理的な距離まで近づけばスライムもこちらに気づくが、時すでに遅し
生命線である『気配察知』も『逃走』も失ったスライムは、その場でエリナの風魔法の標的になるしかなかった。
「やったな!」
ミスリルナイフで、【ヒーリングスライムのコア】を剥ぎ取り、魔法鞄にしまう。
これが、今回の討伐証明となるアイテムだ。
しかし、俺にとって一番の収穫はこのアイテムではなかった。
念願の『治癒魔法』が手に入ったのだ!
実は、ずっとほしいと思っていた。これで、仲間を回復させられる!
「ついに手に入れたぞ!治癒魔法……!ちょっと試してみていいか?」
「えっ、いいけど……」
俺はワクワクしながら「ヒール!」と叫んでエリナに光を投げた。だが、当然ながら。
「……依人、私にかけるのはいいけど、私、無傷よ?」
「……あ、そっか」
平然とした様子のエリナを前に、俺は少し気まずくなる。
「えっと、じゃあ、かすり傷でいいからちょっと攻撃受けてくれない?」
「嫌よ。なんでわざわざ痛い思いしなきゃいけないのよ」
「……そうだよね。ごめん、忘れてくれ」
どうやら、治癒魔法を使う喜びを味わうのは、もう少し先の話になりそうだ。




