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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第24話 鑑定士は魔剣を銀貨一枚で買い叩く

一般的な武具は『粗悪』『普通』『良質』に分類されます。

魔剣や聖剣にはランクがありません。

 どこか胡散臭げな店主に、依人は尋ねた。

「武器は、ここに置いてあるものしかないんですか?」


 というのも、並んでいるものに、あまり良い武器が見当たらなかったからだ。


「はは、良い剣をお探しということですね?短剣・長剣・大剣とございますが、どれがお好みで?」

「長剣で」


「ははあ、良いものがございますよ。こちら、王都の工房で特別に打たれた一振りでしてね……」


 店主が奥から恭しく取り出してきたのは、鞘に細かな金細工が施され、柄には大粒の宝石が埋め込まれた、見るからに豪華な長剣だった。


「見てください、この輝き。美しさと強さを兼ね備えた名剣です。本来なら金貨200枚は下らない品ですが……初回限定、特別に100枚でどうです?」


 隣で見ていたエリナが「あら……」と感心したように息を漏らす。


「すごいきれいな剣ね。依人、試しに振ってみたらどう?」


 エリナが身を乗り出して覗き込むが、俺の目には店主の言葉とはまったく別の情報が映し出されていた。


【粗悪な儀礼剣】

 分類:長剣

 攻撃補正:+12

 耐久度:低

詳細: 観賞用の剣。銅製に金メッキが施され、人工宝石が埋め込まれている。


(……やっぱりな)


 俺は剣を受け取ることなく、冷ややかな視線を店主に向けた。


「これ、儀礼剣ですよね?刀身は銅に金メッキ。おまけに中心はただの人工の宝石だ。実戦で使えば、そこの安物の銅の剣より先に、こっちの根元が折れますよ。これで金貨100枚?武器屋として、本気で言ってますか?」


「えっ……!?い、いやぁ、それは独特の強さを持った武器でして……な、なによりこの『美しさ』が……あ、いえ、別のをお持ちしましょうね……少々お待ちを!」


 店主の顔から余裕の笑みが消え、額に汗が浮かぶ。

 彼が慌てて奥へ消えた隙に、俺はカウンター横に置かれた木箱に目を止めた。


 下取りしたゴミが投げ込まれているその中に、一本の剣が眠っていた。


【錆びた剣】

分類:長剣

攻撃補正:不明

耐久度:不明

特記事項:長年放置されたことで魔力が枯渇し、休眠中。


「あの、そこにある剣は?」


「は、はあ……?それは売り物にもならないような鉄くずですよ。それこそ、銅貨数枚の価値しかないような……」


「よかったら、その一振りを譲ってくれませんか?」


 銅貨数枚といえば、こっちの世界では数百円だ。

 万が一、ただのゴミだった場合でも博打を打つ価値はある。


「……はい?こんなボロを?いいんですか?」


 店主は一瞬、俺の正気を疑うような顔をしたが、すぐにその細い目をさらに細め、何やら算盤を弾くような卑しい笑みを浮かべた。


「……ああ、そうですか!歴史的資料としてお探しで?こちら、お譲りするなら銀貨一枚になりますな」


「は?さっき銅貨数枚って言いませんでしたか?」


「お言葉ですがお客さん、そいつをこの山から掘り出す手間、そして帳簿につける手間、何よりお客様のお眼鏡にかなったという付加価値。商品として販売する以上、それくらいは頂かないと商売あがったりですよ」


 商魂たくましいというか……まあ銀貨一枚でもいいだろう。


「……いいですよ。銀貨1枚、払いましょう」


「おっ、毎度あり! いやぁ、流石はお客様、お目が高い!」


 俺は銀貨一枚と引き換えに、錆びた剣を受け取り店を出た。


────


「ねえ依人、そんなボロボロの剣でいいの?」


 店を出るなり、エリナが開口一番にたずねてくる。


「まあ、見てろって。俺の勘が正しければ……」


 店を離れ、人気(ひとけ)のない場所まで来ると、俺は剣に魔力を流し込んだ。

("魔力が枯渇して休眠中"っていうなら、魔力を注げば眠りから覚めるはずだ)


 必死に魔力を込めてみるが──何も起こらない。

 これではただ、錆びた剣を見つめながら突っ立ってる人だ。


「……」

「依人、だいじょうぶ?」

「あ、ああ。いや……」


 焦りが襲う。失敗したか。


 銀貨一枚はどうでもいいが、何かある風を装いかっこつけて買った手前、エリナの前で「ただのゴミでした」となるのは俺の尊厳に関わる。


「鑑定結果に『長年放置されたことで魔力が枯渇し、休眠中』って書いてあったから、魔力を流せば復活するんじゃないかって思ったんだけどさ……」


 そこで俺は、正直に打ち明けることにした。


「ふーん……。ねえ、ちょっと貸してみて」


 錆びた剣を渡すと、エリナは剣に魔力を込め始めた。

 そのとき、錆びついた刀身が脈動するように白い光を放った。


「えっ……ちょ、ちょっと待って!何これ、すごい量の魔力を持っていかれるんだけど……!」


 光が収まったとき、エリナの手元には、星空を溶かし込んだような深い闇色の剣が握られていた。刀身には、禍々しくも美しい古代文字が刻まれている。


【魔剣ラグナロスト】

 分類:魔剣

 攻撃補正:+300

 魔力補正:+300

 耐久度:破壊不可

 固有スキル:『防御無視』『生命の代償』『自己修復』

『生命の代償』……装備者のHPを代償に、減少量に応じて攻撃補正値を上昇させる。


「ふぅ……。魔力、半分以上持っていかれたわ……なんなのよ、この剣」

 エリナが荒い息をつきながら、手の中にある変貌した剣を見つめる。


 数秒前まで銀貨一枚の価値だったそれは、今や国宝級の一品となっていた。

 博打に大勝利したわけだ。


「……悪い。どうやら、起動するのにかなりの魔力が必要だったみたいだ。道理で、俺の魔力量じゃ反応しないわけだよ」


 鑑定士として正体は見抜けても、それを扱う出力が足りなかった。

 自分の未熟さを突きつけられたようで少し悔しいが、今はそれ以上に、魔剣の驚異的なステータスに戦慄する。


「魔剣ラグナロスト、攻撃補正値は+300か。思ったよりも低めか?いや、それよりも固有スキルがやばいのか……」


「ままま、ま、魔剣!?これ、そんなにヤバいものだったの?」

 エリナが慌てて剣を落としそうになるが、俺が慌てて横から支えた。


「思わぬ掘り出し物だったな」


「掘り出し物どころじゃないわよ!これ、絶対に目立つわよ!?」


 たしかに、むき出しでこんな物を持ち歩いては、明らかに目立ってしまう。

 だが、俺は不敵な笑みを浮かべ、腰に下げた小袋をこれ見よがしに指差した。


「ところがどっこい。……じゃじゃーん」


「あ、魔法鞄(マジックバッグ)……!持ってたのね?」


「フッ、こんな事もあろうかとな。万が一に備えて先日買っておいたのさ」

 エリナが「やるわね」と言いたげに感心した眼差しを向けてくる。


(……っふー!買っておいてよかったー!まさかこんなドンピシャな使い道が出来るなんて思っても見なかったぜ)


 内心でガッツポーズを決めつつ、俺は恐る恐るラグナロストの刀身を鞄の口へと差し込む。

 このサイズで入るのか?取り出す時に指を切ったりしないか?

 

 そんな不安をよそに、長剣は吸い込まれるようにスルスルと小さな袋の中へ消えていった。


「おぉ……すごいな。重さも全然感じない」


 初めての魔法鞄に、不安を抱きつつもわくわくする依人であった──。

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