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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第21話 拭えぬ戦慄、誓いの夜

心のガルム「これじゃあ重装旅団じゃなくて重傷旅団だな!ガハハッ!」

グランゼルドの街の門を潜ったとき、そこには戦勝の熱気が微かに漂っていた。


魔物の残党は、街に残った冒険者たちの手によって既に掃討され、街の防壁は守り抜かれたのだ。

だが、俺たちの空気だけは、それとは無縁の重苦しさに包まれていた。


「……っ、ジークをギルドの救護室へ!急げ!!」


ガルムの怒号が響く。背負われたジークの顔色は紙のように白く、止血魔法おかげで命は繋ぎ止めているものの、予断を許さない状況だった。


通常、魔法での治療は「傷口を塞ぐ」ことはできても、失われた血液量までは即座に回復できない。典型的な出血性ショックの状態にあるジークを職員に託し、俺たちは呆然とロビーに立ち尽くした。


「……ふぅ、一時はどうなることかと思ったが。依人、エリナ。お前たちのおかげだ」


ようやく一息ついたアレスが、血と泥に汚れた顔で苦笑いを浮かべる。


「いえ、俺たちこそ……重装旅団(フルパンツァー)さんがいなければ、岩塊竜は討伐出来ませんでしたよ」

「よせやい。しっかし、なんだったんだろうな、あのゾディアスとかいう化け物は。思い出すだけで今でも震えが止まらねえぜ」


ヴォルフが巨大な大剣を壁に立てかけ、深く腰を下ろす。

そこに、ジークの処置を終えたガルムが戻ってきた。彼は一度深く頭を下げ、俺の目を見据えた。


「改めて礼を言う。俺は重装旅団の団長、ガルムだ。こっちの威勢がいいのがアレス、デカいのがヴォルフ、小柄なのがハンス。そして今運ばれたのが、遊撃担当のジークだ」


「……依人です。こっちは相棒のエリナ」


よろしくお願いします、とエリナが小声を発する。

これだけの威圧感を放つ前衛職の男たちに囲まれれば、無理もない。


「依人、か。……あのとんでもない怪物をどうやって追っ払ったのか気になるところだが、まあまずはギルドマスターへの報告が先だろうな」


ガルムの差し伸べてきた手を握り返し、俺たちは移動した。



──ギルド二階・執務室


扉を開くと、そこには既に報告を受けていたギルドマスター、ルーファス・アッシュフォードが険しい表情で待ち構えていた。

傍らには秘書と思われる女性が控えている。


普段のどことなくチャラついた雰囲気は消え、今は真面目に働いているようだ。


「……斥候から報告は受けている。まずは岩塊竜討伐、感謝する」


ガルム、アレス、ヴォルフ、ハンス。そして俺とエリナ。

ギルドマスターの軽い礼に、こちらもそれぞれ会釈する。


本来ならBランク魔物の討伐報告だ、笑顔がこぼれる場面だろう.

だが、あのゾディアスの存在を考えると、とても楽観的にはなれないことを、この場にいる全員が悟っていた。


「……報告します」


沈黙を破ったのは、団長のガルムだった。彼は乾いた血がこびりつく手で、ひしゃげた自身の盾を机に置いた。

「岩塊竜は、依人とエリナ、俺たちの総力で討伐しました。……だが、その直後です」


ガルムが低い声色で、苦々しく語り始める。

「岩塊竜の傷口から銀色の泥のようなものが現れ、ワームホールへと形を変えました。そこから現れたのは……『ゾディアス』と名乗る男です」


「……何だと?」

ルーファスの目が鋭く細められた。

「ゾディアスだと?帝国ルベリウスが、動き出しているのか……」


 ガルムがさらに報告を続ける。


「ジークが一瞬で返り討ちにされ、俺たちは反撃する前に制圧された……指一本、動かせなかった。魔法も、剣も、あいつには届く気がしねえ……俺たちはまるで、無力でした。奴は依人に興味を示したみたいです。一言二言喋ると、またワームホールで消えていきました」


「正直、生きてるのが不思議でさぁ……。奴なら、瞬きする間に俺たちの首を刈り取ることなんて造作もなかったに違いねえ……です」


ガルムの言葉を引き継ぎ、俺も口を開く。


「……はい。あいつは、俺に興味を持ったようでした。俺の『鑑定』に気づいたみたいで……"特異点"だと、そう呼ばれました」」


このギルドマスターは俺の事をある程度見抜いていそうだから、何も隠す必要はない。

鑑定スキルについては、重装旅団にも知られていいだろう。


「俺という存在を知れただけで収穫だ、と。そういって、最後に名乗って引き返していきました」


室内に重い沈黙が流れる。

その空気を一蹴するように、ルーファスが手をパン!と叩き、深呼吸した。


「スゥー……わかった!事態は思ったより深刻なようだな。こっちの後処理はやっておく。亡霊の森を調査すると言って、役目も果たさず王都へ帰った勇者さん方にもお叱りしなきゃいけないしな!依人、お前さんは力をつけろ。戦いの日はそう遠くないかもしれない」


ルーファスは立ち上がり、窓の外の夜の街を見下ろしながら、背中で告げる。


「重装旅団、お前たちもよくやった。今日は休め」


「……はい。失礼します」


ガルムが低い声で返事をし、一行は扉を後にした。

俺とエリナも、その後ろについて出ていく。


執務室に、取り残されたルーファスと秘書。

ルーファスが、相変わらず窓の外を眺めながらポツリと漏らす。


「俺たちは一体、何と戦っているんだろうな──」



────


ギルドの入り口で、俺たちはいったん別れて休むこととなった。

ヴォルフには「今度一緒に飲もうや」と肩を叩かれ、ハンスには「あんたの活躍に期待してるよ」と握手された。


ガルムとアレスにも「またな」と見送られ、俺たちは宿への帰路につく。


「エリナ、今日は本当にお疲れ。また明日な」

「うん、ばいばい依人」


宿に戻った俺は、ステータスを確認する。


【久遠 依人】

【レベル】23

【職業】鑑定士

【HP】710/710

【MP】368/368

【筋力】108

【防御】133

【敏捷】186

【魔力】146

【精神】244

スキル

『粘液Lv1』『物理耐性Lv7』『魔法耐性Lv5』『棍棒術Lv4』『鑑定Lv10』『観測者Lv1』『斧技Lv1』『重装歩兵Lv1』『威圧Lv1』『指揮Lv1』『毒牙Lv1』『毒耐性Lv1』『隠密Lv2』『不意打ちLv2』『跳躍Lv1』『蛮力の咆哮』『解読者』『剣術Lv1』『土属性魔法Lv4』『水属性魔法Lv5』『生命力上昇Lv1』『指揮Lv1』『野蛮な生命力』『反射Lv1』『魔力感知Lv1』『使役Lv1』『生命の加護』『泡沫足場』


奪ったスキルはLv1になるが、奪うこと自体が「スキル経験値」として加算される仕様らしい。水属性魔法のレベルが高いのは、ルナシリス湖での乱獲のおかげだろう。


岩塊竜から剥ぎ取った『大地の加護』は『自己再生(中)』は統合され『生命の加護』となったようだ。



俺は、ステータス画面を眺めながら、先刻の光景を思い出す。


【警告:対象の存在強度が測定限界を超過しています】


あの赤黒い文字と、激痛が、今も網膜の裏に張り付いている。

俺は右手を強く握りしめた。


「次会う時までには、必ず届いてみせる」


奪い、積み上げ、いつかあの怪物にも打ち勝ってやる。

敗北の味を喉の奥に押し込みながら、俺は泥のような眠りへと落ちていった。

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