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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第20話 鑑定不能の絶望

Eランクを考慮して依人たちを守ってくれたっていいじゃない、重装旅団冷たくない?と思うかもしれませんが、冒険者は自分の命は自分で守れの世界なので普通です。この戦地に来た以上は自己責任だと彼らは考えています。

「──依人、こっち!」


重力波が大地を圧し潰す直前、エリナが魔力を練り上げる。


「魔力障壁、展開ッ!」


半球状の蒼い光が俺たちを包み込み、荒れ狂う重力の奔流を辛うじて弾き飛ばした。


「……っ、ハァ、ハァ……何とか間に合ったわ……」

「危なかった……助かったよ、エリナ……!」



爆風が収まった頃、周囲の岩場は文字通り粉々に粉砕されていた。

直撃を食らった旅団のシェルターは、俺たちの防御層よりも凄まじい衝撃をその身に受けていた。



「今だ! 咆哮の後は奴も動けねぇ!全員、突っ込めぇ!」


リーダーの号令一下、たった今受けたダメージをものともせずに、フル・パンツァーが総攻撃を仕掛ける。

ヴォルフの大剣が竜の脚を断ち、アレスの片手剣が剥き出しの逆鱗を抉る。


(このまま倒しきるのか?今ならスキルを盗ってもバレないよな……)


「──『因果の強奪テイク・オーバー』!」


俺は混乱に乗じて、岩塊竜の核へ意識を繋ぐ。

『物理耐性』『大地の加護』──支えを失った巨躯は、総攻撃に耐え切れずあっという間に地響きと共に地に倒れ込んだ。


「……やった、か?」


大剣使いのヴォルフが剣を納めようとした、その時だった。


「……おい、なんだこれ」


倒れた岩塊竜の裂けた傷口から、銀色の泥が「にゅるり」と這い出してきた。以前、森でハイゴブリンを倒した際に出た不気味な物体だ。だが、今回は逃げなかった。


銀の泥は空中で丸まったかと思うと、虚空を食い破るような黒い「穴」へと変質していく

何やら禍々しく不穏さを感じるその穴は、どんどんと広がっていき──。


──この感じって、絶対この穴から何かでてくるよな。

俺の本能が、最大級の警鐘を鳴らしていた。


「逃げろ!全員、そこから離れろ!」


呆然と立ち尽くしていた重装旅団の面々も、俺の声にハッとして距離を取る。


広がっていくワームホールから姿を現したのは、怪物ではなく、一人の「人間」だった。


あちこちが裂け、薄汚れた漆黒のローブ。煤けた銀の刺繍。ローブの下から覗く手足は枯れ枝のように細い。


そして、顔を覆うのは骸骨を模した銀色の仮面。


右手には、生物の骨か根を捻じ曲げたかのような邪気を帯びた杖が握られており、その先端には陰鬱な紫色の光を放つ結晶が埋め込まれている。


彼が周囲に放っているのは魔力ではない。それは、"死んだ空気"そのものといった感じだ。


「……やれやれ。せっかくのBランク素体(グランドレックス)を、こうも無造作に壊すとは。野蛮な国ですね、グランゼルドは」


ワームホールから静かに降り立った男、ゾディアス。

その静かな声は、まるで脳の裏側に直接響くようで、やたらとよく聞こえた。


最初に動いたのはジークだった。旅団随一の俊敏さを誇る彼が、無言でゾディアスの懐へ飛び込み、剣を振り下ろす──。


次の瞬間。

鮮血が舞った。


胸が切り裂かれ、地面に仰向けに倒れ込んだのは、ジークのほうだった。


「がは……っ!」


「はぁ……愚かですね」


それを見たリーダーのガルムが、顔を歪めながらも冷静に土属性魔法の土の拘束(アースバインド)を詠唱しようとした。


「『土の拘束(アースバイ)……ッ』」


ゾディアスが杖を持っていないほうの左手でさっと指を振ると、ガルムの巨体は不可視の重圧によって地面へうつぶせに叩きつけられた。


「やれやれ……。その程度の魔法、食らってあげてもよかったんですが……」


その指で、ゾディアスの足元に倒れ込むジークを、重装旅団の面々がいるところまで吹き飛ばし、そのまま旅団全員を重力魔法で地に這いつくばらせた。


それを別サイドから眺めていた俺は、恐怖で麻痺しかける思考を強引に動かし、鑑定眼を向ける。


直後、視界が真っ赤なエラーログで埋め尽くされた。


【警告:対象の存在強度が測定限界を超過しています】


「うっ……あ、がッ……!」

激しい頭痛と耳鳴りに襲われ、俺はその場にうずくまる。


鑑定眼に気づいたゾディアスが、旅団から俺とエリナのほうへと視線を移した。

もっとも、仮面を被っているので視線などわかったものではないが──。


「おや?あなた今、私の魔力──いや、存在に触れましたか?」



ゾディアスは、地面に転がるグランドレックスの残骸に一瞥をくれると、ふと興味深げに首を傾げた。


「……岩塊竜(グランドレックス)のスキルの因果が消えている……」


そこで、ゾディアスが「うふふ、うふふふ……」と静かに笑いだした。


「あぁ、あなたでしたか。なるほど、なるほど。君のような"特異点"が混じっていたとは。私の計画の邪魔になりそうなので、ここで消しておくのも手なのでしょうが……」


ゾディアスが指を振る。

抗う間もなく、俺の体は磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、彼の目の前まで強制的に引き寄せられた。


顔と顔が触れそうな距離。銀色の骸骨仮面の奥に宿る水色の眼光が、俺の瞳の奥を覗き込む。


「それはあまりに勿体ない。君という存在が確認できただけで、今回の実験は十分な収穫でしょう」


拘束が解け、俺は崩れ落ちるように地面に膝を突く。


ゾディアスは優雅に指を鳴らす。

すると、岩塊竜の死骸が砂のように溶け、地面と同化し消滅した。


そして、今度は持っている杖で虚空に円を描き、先ほどと同じようなワームホールを出現させる。


「……私はゾディアスと申します。久遠依人さん。次会う時は、私に"干渉"してくれることを願っておりますよ」


そう言い残し、男はワームホールと共に霧散した。


後に残されたのは、圧倒的な恐怖の残滓と、立っていることさえ忘れさせるほどの重い敗北感だけだった。


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