第19話 岩塊竜討伐作戦
正門を抜けて街道を進むと、魔物が現れ始めた。
先頭に立つのは「ガルァ!」と喉を鳴らすフォレストウルフの群れ、その背後には岩石のような皮膚を持つシェルリザードが控えている。
「ざっと百近いか」
弱い魔物ばかりなので、思ったよりも大したことが無い。やはり脅威は岩塊竜ということなのだろう。
(どうやって魔物の群れを切り抜ける?早く重装旅団と合流しないと……)
一匹ずつ相手にするのは時間の無駄だ。
俺は隣を走っているエリナの腰に手を回し、ひょいと抱え上げた。
「ちょ、ひゃわっ!?な、何、依人!?」
「悪い、ちょっと我慢してくれ。──『跳躍』!」
蛙の魔物から奪ったスキルだ。スキルレベル1なので六メートルほどしか飛べないが、空中に生成した『泡沫足場』を蹴りつけ、俺たちは魔物の頭上に空中歩廊を築き上げ駆け抜けた。。
しばらく魔物の上空をジャンプし続けると、人の集団が見えた。
『重装旅団』だ。
「『不動の構え』!このまま前進するぞ!」
五人の重装戦士が大群の正面に盾を構え、「生きた防波堤」となっていた。
『不動の構え』による、スキル効果なのだろう。押し寄せる魔物の群れが、防波堤を避けるように、左右に散っていく。
俺たちは、その背後へと着地した。
「加勢に来ました!Eランクの依人です!」
「そうか!助かる!俺たちの後ろが安全地帯だ、ついてきな!」
大盾を構えたリーダーが声を張る。
彼らは、鶴翼の陣を敷き、鉄壁の守りを築き上げていた。
先頭に大盾使い、その左右に片手剣使いが二人、端に大剣使いといった布陣だ。
その中心に囲まれるようにして、依人たちが入り込む形だ。
しばらく進んでいくと、前方に巨大な岩のような動く物体が見えた。
岩塊竜だ。
「アレス、頼む!」
アレスと呼ばれた片手剣使いの一人が、巨大な恐竜に近づいていき、「『挑発』!」と叫ぶ。
ヘイトを取るスキルなのだろう。
「よし、かかった!」
「いいぞ!予定通り、北の岩場までおびき寄せる!」
ここで、体力を温存していた他の四名が戦闘を始める。
周りにいる岩トカゲを一撃で葬り去り、道を作る。
「こっそりと……岩トカゲのスキルをちょうだいしよう」
殲滅される前に、人知れず岩トカゲのスキルを奪う、抜け目ない依人だった。
────
重装旅団の見事な連携により、獲物を北の岩場まで引き寄せることに成功した。
ここでは、背中が崖になっているので正面だけに集中して戦いやすい、と判断してのことだろう。
なるほど、タイマンに持ち込むためにここへおびき寄せたというわけか。
俺たちは、改めて岩の巨躯に向き直る。
こうして対峙すると、かなりでかい。体長十メートルは超えている。
【名称】岩塊竜
【種族】 魔物
【レベル】42
【基本ステータス】
HP: 4400 / 4400
MP: 450 / 450
筋力: 410
防御: 680
敏捷: 45
魔力: 120
【スキル】
『土属性魔法Lv9』『反射Lv1』『魔力感知Lv6』『使役Lv4』『物理耐性Lv5』『魔法耐性Lv5』『大地の加護』
【大地の加護:地面に接している限り、HPが自動回復し続ける(微量)。転倒やノックバックを無効化する。】
「……!!これが、Bランクの強さか」
あまりの強さに、少し衝撃を受けた。
「こいつ一体だけなら俺らだけで十分だ!依人たちは背後に回って雑魚の掃討を頼む」
大盾を持つリーダーに指示され、依人とエリナは距離を取りながら背後へ回り込む。
リーダーの指示を受け、俺たちは岩塊竜の背後へと回り込む。
重装旅団の連携は見事だった。
大盾使いがヘイトを取り、その間に片手剣と大剣が間合いを詰める。
といっても、敵だって背後からの攻撃に無防備なわけもない。まずは片手剣使いが先陣を切って打撃を加えると、敵が反撃とばかりに尻尾を振る。片手剣使いはそれを盾で食らう。
そこに出来た最大の隙に、大剣が最大火力をぶち込む。
「せぇい!」
「おまけだ、こいつも食らいな!『カウンター』!」
一方的に攻撃を受けていた大盾が、噛みついてきた岩塊竜の頭を薙ぎ払う。
「ギ、ガァッ……!」
竜が苦悶の声を上げるが、その巨体は『大地の加護』によって持続回復している。傷口が徐々に塞がる。
一方の重装旅団も、スタミナには自信があると見え、まだまだ疲弊は見られない。
岩塊竜は、土属性魔法を駆使し、岩を四方八方へ攻撃したり、足場を隆起させバランスを崩させようとしているが、重装旅団も剣や盾で弾き返し、負けていない。
削り、削られの泥沼の消耗戦が続くかと思われた。
何度も斬撃を浴びせ、じりじりと岩塊竜のHPが削られ、やがて半分を切ろうかというその時。
岩塊竜が不意に攻撃をやめ、後ろへ大きくジャンプする。
そこから、息を大きく吸い込み──。
「来るぞ!重圧の咆哮だ!全員集まれ!」
大盾の怒号とともに、旅団が密集する。
「『鋼鉄の織』」
彼らを中心にドーム状の魔力障壁が展開される。土属性の上級防御魔法だ。
「──え?何が来るっていうんだ?」
仲間外れになった俺とエリナが呆然と立ち尽くした瞬間。
竜の口から、音を置き去りにした重力の奔流が解き放たれた。
「ちょ、何も聞いてないんですけど──!?」
咆哮が空気を圧し潰し、全方位に不可視の衝撃が広がる。
岩塊竜から多少距離を取っていた俺たちも、どうやら範囲攻撃らしいそれに、巻き込まれるしかなかった。




