第18話 進撃する鑑定士
ルーフェルに辿り着く頃には、沈みかけた西日が巨大な城壁を朱に染め上げていた。
ギルドの扉を開けると、そこには焦燥しきった表情のルティアがいた。俺たちの姿を認めた瞬間、彼女の顔がパッと明るくなる。
「依人さん! 月見草は……その、採取できましたか?」
「ええ。品質も良いものを揃えてあります」
俺が魔法鞄から、摘みたての瑞々しさを保った月見草の束を取り出して、ギルドカウンターへ置く。
「素晴らしいわ……! 本来なら夜間の探索となり、危険度が増す熟練者向けの依頼なのに。依人さん、あなた本当に何者なの?」
「たまたま俺のスキルに向いていた、それだけですよ。それより早く調合に回してください」
「わかったわ。けどその前に、これ。Eランクへ昇格よ、おめでとうございます」
ルティアから手渡されたのは、ランクが更新されたばかりの冒険者カード。
報酬を受け取った俺たちは、宿屋へと戻った。
────
その夜。
一日の疲れと、湖畔で見たあの不気味な記憶を癒やすように眠りについていた俺を、不穏な鐘の音が叩き起こした。
「──っ、何事だ!?」
窓の外からは、深夜とは思えない怒号と、石畳を駆ける無数の足音が響いてくる。
ただ事ではない雰囲気に、俺は急いで情報収集をしにギルドへ走った。
「依人! 街の正門の方で、大型の魔物が群れを成して迫ってきているみたい!」
ギルドの入り口付近で、すでに武装を終えたエリナが状況を説明してくれた。
その横ではギルドマスターのルーファスさんが声を張り、冒険者たちに防衛体制を指示している。
戻っていたのか、ルーファスさん。
「落ち着け!敵は正門に一直線に向かってきている!斥候によれば、敵は3km先──岩塊竜!ランクはBだ!その他にも多数の魔物を引き連れている!」
その名が出た瞬間、周囲の空気が凍りついた。
Bランクといえば、一都市の軍隊に匹敵する、災害級の脅威だ。
ルーファスさんがいれば大丈夫、と思ってるのは俺くらいだろう。
「ルーファスさん! 常駐しているBランクパーティ『蒼天の双翼』はどうしたんですか!」
「彼らは先日の調査の際に受けた傷で療養中だ。ポーションが効くまで戦地には出せん。だが、同じBランクパーティ重装旅団にはすでに前線に向かってもらっている。何としても岩塊竜を食い止めろとな」
「いいか!お前たちの使命はその他多数魔物の排除だ!絶対に街に魔物を侵入させるな!」
この場にいるのは、せいぜいCランクやDランクのパーティばかりだ。
「……勇者がいったのに、なんで魔物がすり抜けてきてるんだよ……」
「大丈夫、岩塊竜は重装旅団が食い止めてくれてるんだ……」
主力の一翼を欠き、頼みの綱である『重装旅団』は別行動でこの場にはいない。
彼らは一同に不安を抱えていた。
俺は隣に立つエリナと視線を交わした。
俺たちの実力は、公式評価ではまだEランクだ。だが──。
──エリナ、行こう。
そう言おうとした瞬間、こちらに視線を向けたルーファスさんに先を越されてしまった。
「依人、お前も前線に出てくれないか?重装旅団だけでは不安だし、それに……お前なら、何とかしてくれる気がしてな」
この男は、ずいぶんと俺を高く評価している。
うまくごまかしたつもりでいたが、実は俺の能力すべてバレてるんじゃないか?
「はい」
力強く返事をし、
──エリナ、行こう。
そう声をかけようと、振り向いたとき、今度は彼女に先を越されてしまった。
「差初からそのつもりよ。街の危機だもの、いかない手はないわ」
エリナの瞳には、怯えなど微塵もなかった。
俺たちは、不安に揺れる群衆をかき分け、正門を静かにくぐりぬけた。




