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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第14話 初勝利、不可解な現象


それからせいぜい十五分ほど歩いた頃だろうか。

まだ森の入口と言える、初心者歓迎のエリアだ。


だが、開けた場所に一際大きな影が蠢いていた。


「ギィィイッ!!」


通常のゴブリンより一回り大きく、錆びた大剣を担いだ個体がいた。さらにお供のゴブリンが四体。レベル15の俺とレベル12のエリナにとっては、油断できない数だ。


「こんなところに、ハイゴブリン、ですって......?」


エリナの言うとおりだ。ハイゴブリンは本来Dランクに相当する上位種であり、森の深部かダンジョンにでも行かない限り遭遇しないはずの魔物だ。


「まずいな、完全にロックオンされてる」

「雑魚から仕留めよう。まずは右側の二体だ、攻撃を頼む!」


「ええ、わかったわ!」


エリナが並列詠唱を開始し、二つの火球が同時に生成される。


──集中しろ。彼女に自信を持ってもらうためにも、ここは絶対に成功させなければならない。


俺は『観測者』を展開し、全神経を研ぎ澄ませる。


火の玉から伸びる二本の黄金の糸。

それが標的に届く直前、『不確定未来』が干渉し、糸が激しく震えるポイントを見極める。


──ここだッ!


俺は因果の強奪(テイク・オーバー)の要領でそのポイントへ干渉し、不確定な事象を強引に奪い去った。

黄金の糸は歪むことなく、真っすぐにゴブリンへと維持され続ける。


──成功だ。


そう確信した瞬間、火球が二体のゴブリンを正確に捉えた。


「グガァァァァッ!」


元々、スキルレベルの高いエリナの魔法だ。直撃さえすれば、ゴブリン程度を仕留めるには十分すぎる威力だった。


「やった!当たったわ!」


「いいぞ!その調子で左の二体も...ッ!」


その時、足元から土が生き物のように盛り上がり、俺の脚を絡めとった。


「しまっ......!」


二体のゴブリンに気を取られすぎた。

ハイゴブリンが土魔法を詠唱しているのに気づけなかった。


俺はバランスを崩し、その場に転倒してしまう。


「依人!?」


「俺は大丈夫だ!魔法でけん制を続けてくれ!」


まずはハイゴブリンを無力化させるのが先決だ。

俺は倒れ伏したまま、鋭い視線を向けた。


──『鑑定』。


【名称】ハイゴブリン

【種族】 魔物

【レベル】18

【基本ステータス】

HP:1170 / 1170

MP:120 / 120

筋力:105

防御:74

敏捷:38

 魔力:32

精神:32

【スキル】

『剣術 Lv2』『土属性魔法 Lv2』『生命力上昇Lv6』『指揮 Lv3』『野蛮な生命力』『自己再生(中)』


HPが非常に高い。だが、スキルさえ奪えばただのデカい肉塊だ。

俺は地面を這う姿勢のまま、右腕を突き出した。


「──『因果の強奪』(テイク・オーバー)!!」


それぞれのスキルから繋がる黄金の糸が、光の粒子となって俺の体内へと流れ込む。

同時に、脚に絡みついていた土の蔦が砂となって崩れ落ちた。

立ち上がりながらエリナに声をかける。


「よし、残りの雑魚二体もやるぞ!頼む!」


「ええ! ──『拡散炎波(ディフューズフレア)』!」


既に魔力を練り上げていたのであろう、発生が速い。

エリナが杖を掲げると、即座に炎の波が残りのゴブリン二体を吞み込もうと襲い掛かる。


俺は先ほどの要領で、『不確定未来』の干渉を奪い、その弾道を必中へと固定した。


ゴゴゴォォォォ!


逃げ場を失ったゴブリンが炎に巻かれ、一瞬で物言わぬ炭へと変わる。


残るはハイゴブリン一体のみだ。


「奴のスキルは全部奪った!だがHPが高い!エリナ、最大火力で撃ち込め!」


俺は、棍棒を携えてハイゴブリンの注意を引き、一撃離脱を繰り返して時間を稼ぐ。

そして、ついにエリナの杖に膨大な魔力が収束した。


「──いくわ!『ファイアバレット』!」


四つの巨大な火球が、ハイゴブリンに向けて放たれる。

今までは、四つ撃ってもすべて外れるか、運良く一つ当たれば儲けものだったはずだ。

だが、今は違う。


──その四つの火球、全部命中させてやるよ。


俺は右腕を伸ばし、観測者として、四本の因果をハイゴブリンの急所へと繋ぎとめた。


ドォォォォォォォン!!


四つの火球が一点で炸裂し、初級魔法とは思えない爆炎が吹き荒れる。

ハイ・ゴブリンは悲鳴を上げる暇もなく、上半身を消失させて吹き飛んだ。


「……やった。倒したわ!」


エリナの声が歓喜に震える。俺も張りつめていた緊張が解け、思わず頬が緩んだ。


だが、俺たちの勝利を祝う時間は、銀色の不気味な存在によって遮られた。


「……ッ!? なんだ、これ」


死んだハイゴブリンの傷口から、ドロリとした「銀色の液体」があふれ出してきたのだ。

それは地面にこぼれると、まるで意思を持っているかのように蠢き、森の奥へ向かって地を這うように消えていった。


「......なに、今の?」


俺の隣まで駆け寄っていたエリナが、不安そうに声を漏らす。


「あれは......」


俺は以前、リーフェルの村に着く前に一度これを見ている。

銀色のスライムのような液体で、地面にすぅーっと溶け込んだ、あれだ。


あのときは鑑定を弾かれたが、今回は鑑定に成功した。


【深銀の幼体】

説明:既存の生命力や魔力に寄生し、対象の秘めたる力を強引に引き出す性質を持つ。


(......ステータス表示がない。こいつは、生き物ですらないのか?)

寄生し、引き出す。

ハイゴブリンがこのエリアに不自然に現れたのはこいつが原因だというのか。


ふと、森の奥のほうから複数の足音が聞こえてきた。銀色の物体が消えていった方向からだ。

その足音は徐々に大きくなっていき......。


現れたのは、三人組のパーティだった。


「あんたら、冒険者か?すぐにここから離れたほうが......!」


リーダーと思われる茶髪の少年が叫びながら駆け寄ってくる。

だが、地面に横たわるハイゴブリンの無残な死骸を視界に入れると言葉を失った。


「これは、ハイゴブリン......あなたたちが、やったのですか?」

続いて、白いローブをまとった眼鏡の男性。体力がないのか、走り疲れてひどく息を切らし、額には大量の汗が滲んでいる。


そして、最後の一人。整った顔立ちの少女が、静かに周囲の状況を見極めるように目を走らせていた。

三人とも、歳は十五歳程度だろう。


「ええ、まあ。それより一体何があったんですか?」


俺が尋ねると、茶髪の少年は我に返ったように焦った様子でまくしたてた。


「そうなんですよ!森のすぐそこに、ハイゴブリンやシルバーウルフ......そんな上位種の魔物が多数目撃されたんです!それで俺たち、慌てて逃げてきたんですよ。早く、早くギルドに報告しないと!」


──上位種の魔物が多数発生だって?


やはり、先ほどの「深銀の幼体」と何か関係しているのか?


見上げれば、いつの間にか太陽は厚い雲に遮られ、森全体がどす黒い影に沈んでいる。

そよ風一つない静寂の中に、これから起こるであろう破滅的な厄災の予感が、重苦しい暗雲となって依人たちの周囲に立ち込めていた。


「......急いで戻りましょう。この森、やはり変よ」


エリナの不安げな声が、静まり返った森に虚しく響いた。

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