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「役立たず鑑定士」と捨てられた俺、全部鑑定したら勇者より強くなった  作者: 愛田茶々


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第13話 理を逸脱する少女

「おはようございます、依人さん。……あら、今日は『薬草採取』じゃないんですか?」


昨日、カイトとの邂逅のあとに新調した棍棒を手に、俺はギルドを訪れていた。

受付のいつもの窓口で受注書を出すと、受付嬢のルティアさんが意外そうに目を丸くした。


「ええ。今日は『ゴブリン討伐』を受けようかと」


「珍しいですね。依人さんといえば毎日、最高品質の薬草をきっちり仕分けて納品してくれる『薬草の人』として有名でしたのに」


 ルティアさんの視線が、俺の隣で緊張気味に杖を抱えているエリナへと向く。

 彼女の指には、先ほど渡した『静寂の銀環(サイレント・リング)』が鈍く光っていた。


「なるほど、パーティの初陣ですね。応援していますよ、依人さん。エリナさんもご無理をなさらずに。こちら受注票です」


 ルティアさんの温かい言葉とは裏腹に、背後からは氷のような視線が突き刺さっている。

 談話スペースから聞こえてくるのは、隠そうともしない嘲笑や、吐き捨てるような私語だ。


「おい見ろよ、あの『お荷物』がまた行くぞ」

「今度はあの薬草野郎と組んだのか?弱者同士、仲がいいこった」


 エリナの肩が、びくりと小さく震える。


 どうやら彼女のギルド内での立場は、俺が想像していた以上に劣悪なものらしい。


 彼女が一体何をしたというのか、それもおいおい聞いてみるとしよう――。


 俺は無言のまま、エリナの背中にそっと手を添え、促すように歩き出した。


──────


 リーフェル近郊、亡霊の森。

 ここは低ランク冒険者もお世話になる狩り場で、奥に進むにつれて難易度も高くなる。


 入口付近で、ゴブリン狩りができるというわけだ。


「依人、私……やっぱり少し不安よ。私の魔法、ちゃんと当たるかしら」

エリナが指輪をはめた左手を胸に当て、小刻みに震えている。


「まあ、相手はゴブリンだ。俺もソロで狩ったことがあるし、肩の力を抜いていこう」


努めて明るく声をかけると、エリナも少しだけ笑みを浮かべる。


 事前に打ち合わせた陣形は、極めてシンプルだ。

 俺が前へ出て敵の注意を引きつける「壁」となり、その隙にエリナが後方から得意の属性魔法を叩き込む。

だが、俺も本来は前衛職ではない。できれば不意打ちを狙いたいところではある。


ガサリ、と前方の茂みが大きく揺れる。


「――来たわね」


エリナが息を呑むのと同時に、三匹のゴブリンが濁った鳴き声を上げて姿を現した。

 薄汚れた肌に、下卑た笑いを浮かべた小鬼たち。


「ギギッ、ギィ!」

 棍棒を振り回し、獲物を見つけた歓喜に喉を鳴らしている。


 俺は一歩前に出ると、先日ゾルタンから奪った『威圧』を薄く展開した。


「エリナ、攻撃を頼む!」

「ええ! ──『ウィンド・ショット』!」


エリナが杖を突き出し、魔力を練り上げる。


直後、彼女の杖先から放たれた風の弾丸が、俺の『威圧』に怯んだ一匹のゴブリンに向かって一直線に飛んでいく。


間違いなく命中する、そう確信したその弾丸は。


──標的に触れる直前、空中で不自然に「歪んだ」。


本来ならゴブリンの頭部を撃ち抜くはずの軌道だったそれは、まるで物理法則を拒絶するように、右へ大きく逸れた。


(……え?)


一部始終を見ていた俺は戸惑った。なんだ?結界のようなものでも張られているのか?

たかがゴブリンだぞ、まさか。


考えながら、俺はエリナの前に躍り出て、ゴブリンが振りかざしていた棍棒を叩き伏せる。

続いて、その腹部へ重い突きを食らわせてやった。


と同時に、残り二体のスキルを『強奪』し、無力化する。


ちらりと背後のエリナを振り返ると、彼女は魔法を放つ体勢のまま、石像のように固まっていた。


「大丈夫だ、もう一回打ってみてくれ」


 先ほどの現象を解明するべく、観測者のスキルを発動したまま俺は精神を集中した。


「わ、わかったわ。......ファイアバレット!」


 今度は、火の玉が練り上げられ、ゴブリンに向かって放出される。


俺の目には、エリナの杖から対象のゴブリンへと繋がった黄金の糸が見えていた。

火の玉はその糸の上を滑るように進む......かと思いきや。

着弾の直前、黄金の糸がプツンと、音を立てるかのように切れた。


同時に、火の玉は軌道を変え、霧散してしまった。


どうやらここにヒントがありそうだ。

だが、ゆっくり考えている暇はない。隙ができたエリナを狙い、二匹のゴブリンが殺到する。


俺は咄嗟に横から棍棒を食らわせて、まとめて二匹を叩き倒した。


「ふぅ.......ひとまず、やったな」


「そうね......」


元気がない様子のエリナ。先ほどの不自然な現象は、きちんと解明する必要がある。

そう思っていると、彼女がおずおずと口を開いた。


「あのね、依人。ちゃんと話しておこうと思うんだけど」


「私、昔から攻撃があたらないの。たまに当たることもあるんだけど......。原因は、たぶん私が持っている『不確定未来』のスキル。呪われたスキルよ。これのせいで、私はパーティをすぐに追い出されて、今じゃギルド内でも煙たがられてるわ」


ああ。今朝のギルドでの嫌な視線はそれか。


それにしても『不確定未来』──呪われたスキルだって?以前鑑定したときは、そんなものはなかったはずだ。


「呪われたスキル......そんなものがあるのか。ちょっと、鑑定してもいいか?」


「ええ、いいわよ」

不思議そうに首をかしげる彼女。


──『鑑定』。


【名前】 エリナ

【種族】 人間

【職業】 調律師

【レベル】 12

基本ステータス

【HP】320/320

【MP】170/170(17000/17000)

【筋力】41

【防御】36

【敏捷】66

【魔力】180

【精神】90

スキル

『火属性魔法Lv6』『風属性魔法Lv8』『水属性魔法Lv4』『並列詠唱Lv3』『魔力障壁Lv3』『不確定未来』


(おお。前回と違って情報が全部見えるようになってる。観測者のおかげか?)


 それにしても。魔法のレベルが軒並み高い。相当な努力を積んできた証拠だ。

『並列詠唱』は、数打ちゃ当たると考えた彼女なりの工夫だろう。


「これか、不確定未来」


「えっと、事象の確定を拒絶し未完成の未来を強引に引き出す、か。どういうことだろうな」


「え、スキルの詳細まで見えるの?」

驚いた様子のエリナ。


「すごい......。私でも、スキル名がわかるくらいなのに」


この世界の人は、自分のステータスを確認することはできる。


といっても、俺たち召喚された勇者みたいに、自分でステータスオープンして見るわけではなく、ギルドにある魔法石に手をかざして見るのだそうだ。


「ここまではな。おそらく、事象がランダム発生になる、みたいなことだろう」


「なあ、エリナ。さっき攻撃が当たるときもあるって言ってたよな?それって、がむしゃらに魔法を連発したときなんじゃないか?」


「あ、確かにそうかも......。狙いを定めず、適当に連発している時のほうが、よく当たっていた気がする......」


「やっぱりか。実はさっきの戦闘で、俺の鑑定士の目がその理由を捉えていた......と思うんだ」

「どういうこと?」


「うまく説明できないけど。大丈夫。次の戦闘ではエリナの攻撃がうまくあたるようにしてみせる!」


そう言って、始終浮かない顔だった彼女を力強く励ます。

これは単なる虚勢ではない。俺には勝算があった。


黄金の糸がプツンを切れたあの一瞬。おそらく、この『不確定未来』が強制発動し、世界から「命中」という結果を奪い去ったのだ。

ならば、その瞬間に割り込み、俺が因果を繋ぎなおせばどうなる?


俺らは意気揚々と森の奥へ進んでいった。

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