第12話 不意の訪問者、意外な事実
それから、俺たちはそのまま受付へと向かい、パーティ登録を済ませた。
肝心のパーティ名がなかなか決まらず、二人して「ええっと、どうしよう……」と真剣に悩み始めてしまったので、ひとまずは『未定』として登録しておくことにした。
「じゃあ依人、また明日ね。……楽しみにしてるわ」
明日、初仕事としてギルド近くの森でゴブリン討伐をこなす。そんな簡単な約束を交わして、俺たちは別れた。
宿に戻った俺は、ベッドに腰を下ろして早速自分のステータスを確認する。
レベルもかなり上がったし、ちゃんと確認しておかないとな。
【名前】久遠 依人
【種族】人間
【職業】鑑定士
【レベル】15
基本ステータス
【HP】470/470
【MP】240/240
【筋力】72
【防御】88
【敏捷】122
【魔力】92
【精神】165
スキル
『粘液Lv1』『物理耐性Lv1』『自己再生(小)』『棍棒術Lv1』『鑑定Lv10』『観測者Lv1』『斧技Lv1』『重装歩兵Lv1』『威圧Lv1』『指揮Lv1』『蛮力の咆哮』『解読者』
(......強くなった。最弱から、「並の冒険者」の域くらいには届いたんじゃないか?)
拳を握り込むと、以前の自分では考えられないような確かな力が宿っている。
ステータスの高揚感を落ち着かせ、俺はスキルの詳細を確認することにした。
まずはスライムから得た『粘液』。
効果は「体表から粘り気のある液体を分泌・射出する」……か。
……うん、今のところ使い道がまったく思い浮かばない。これについては、そっと意識の隅に追いやっておこう。
問題は、もう一つの方だ。
鑑定スキルのレベルが最大に達したことで覚醒した、上位スキル『観測者』。
【観測者:世界を構成する情報の深層(因果)へのアクセス権。】
(......なるほど、さっぱりわからん)
だが、『因果の強奪』と同じ文字が含まれている。
あの発動時に見える「情報の糸」が何かこれと関係しているのだろうか。
さらに、ゾルタンから奪い取った戦士系のスキルも見ていく。
【重装歩兵Lv1:装備の重量を軽減し、身体への負担を緩和する。】
【威圧Lv1:覇気により格下の対象を戦慄させ、一時的に能力を低下させる。】
【指揮Lv1:パーティメンバーの連携力を高め、能力値を上昇(小)させる。】
このあたりは、持っているだけで効果があるパッシブ系だ。ソロでもパーティでも腐ることはないだろう。
そして、実は一番気になっていたやつ。『蛮力の咆哮』だ。
【蛮力の咆哮:肉体のリミッターを一時的に強制解除する。】
【効果:300秒間、全ステータスを200%上昇させ、痛覚を遮断する。効果終了後、24時間の[極度の疲労]状態に陥り、全ステータスが90%減少する。】
まさに禁忌の切り札。使いどころを間違えれば、その日が俺の命日になるだろう。
積極的に使いたいものではないが、いざという時には頼りになるかもしれない。
これで一通りスキルは把握できたか。
あとは......武器の手入れでもしようか?そういえば明日も棍棒で戦うなら、もっとカッコいい棍棒を調達したいな。
あれこれ思いを巡らせているときだった。
コン、コン。
静かだが、妙に耳に残るノックの音がした。
エリナだろうか?いや、彼女にこの宿は教えていない。
となると......。
(......ゾルタンの残党か?)
静かに息を潜め、腰の短剣に手をかける。
ドアを睨みつけ、神経を研ぎ澄ます。
「夜分に失礼。……『レゾナンス』の元メンバー、依人殿とお見受けする」
心臓が跳ねた。
勇者パーティ時代の俺を知っている、王都の人間。
「誰だ?」
警戒しながらドアを開けると、そこには夜の闇を纏ったような男が立っていた。
濃紺の外套、顔の半分を覆う仮面。そして、フードの隙間から覗くのは鋭く尖った「獣の耳」だった。
「……鑑定」
【名前】カイト
【種族】獣人(黒豹種)
【年齢】26
【職業】影使い
【レベル】48
(……レベル48……!今の俺が逆立ちしても勝てない相手だ)
獣人、いるんだな。
「勝手に覗くのは感心しませんな。……とはいえ、その『眼』が本物だと確信できましたよ」
カイトは音もなく部屋に滑り込んできた。足音はおろか、衣擦れの音すらしない。
獣人特有のしなやかな動作は、まるで影そのものが動いているようだった。
「そう警戒なさるな。私はサイラス閣下からの伝言を預かってきたに過ぎぬゆえ」
考えてみれば、こんな隠密行動や暗殺に優れてそうな奴が、堂々と部屋をノックして入ってくるわけないよな。
俺を殺すつもりなら、気づかれないうちにやるはずだ。
それに、サイラスの名前を聞いて、少し安堵した。
あの人は信頼できそうだ。その部下ということなら敵意はないだろう。
「サイラスさんの知り合いか。それで、用件は?」
「閣下は、君がこの街に『とんでもない少女』が誕生した事を懸念しておいでだ。依人殿も知っておられる、銀髪の少女。彼女の魂には、呪いの余波で膨大な魔力が定着してしまった」
「……え?」
たしかに、あの日鑑定でみたときは[MP17000/-]と表示されていたんだよな。
そのときは呪い状態だったから、呪いの魔力を享受しているものだと勝手に思っていた。
「どうやら、呪いを取り除く際に、どういうわけか魔力だけが彼女に定着してしまったらしい。そしてその強大な光は、良からぬ蛾を寄せ付ける」
そう言って、カイトは懐から、煤けた古い指輪を取り出した。
「獣人の鼻でなくとも嗅ぎ取れる程の魔力量だ。閣下は、今の彼女が目立つのは得策ではないとお考えだ。この指輪──『静寂の銀環』を彼女に持たせろ。閣下が特別に用意した、魔力の波形を偽装する一級品だ」
「それを付けている限り、彼女の魔力量は百分の一程度にまで遮蔽される。王都の探査網にも引っ掛からないだろう」
急な話に頭が追い付かない。
え、なに?エリナって今、危険人物みたいな扱いになってるの?
MP総量17000は目立つし、裏から守ってくれたサイラスには感謝したい。
指輪を受け取り鑑定すると、確かにカイトの説明通りの代物だった。
「助かる。サイラスさんに礼を伝えてくれ」
「承知した。それから、もう一つ警告だ。勇者・陽斗たちが隷属の腕輪をはめられた。彼らはもはや王国の使命を全うする道具に過ぎない。いずれ対峙することになろうとも、決して慈悲は持たぬことだ」
カイトは窓際へ歩み寄り、一度だけ振り返った。
「これは閣下の伝言ではなく、私個人の願いだが」
と前置きして、カイトが続ける。
「食われるなよ、依人」
では失敬、と言い残しカイトの姿が、窓の向こうへ影に吸い込まれるように消える。
あとにはなにも残らず、まるで一時の夢でも見ていたかのような。
ただ、カイトが最後に残した言葉だけが、冷たい澱のように部屋の空気に混じっていて、依人の手には間違いなく彼から受け取った指輪が握られていた。
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翌朝。
エリナと待ち合わせた俺は、まるで結婚指輪を渡すみたいで気恥ずかしいなともじもじしながら、『静寂の銀環』をエリナに渡すことなる。




