第1話 鑑定士は役に立たないらしい
「鑑定士──?」
王城の広間でその言葉がでた瞬間。
空気が少しだけ冷えた。ひりつき、ぴりついた。
豪奢な装飾が施された玉座の前。
まさか自分が王の御前に立つ日が来るとは、夢にも思っていなかった。
しかし、そんなちょっとした感動を覚えたのは、ほんの一瞬でしかなかった。
──────
俺たち五人はたった今、異世界に召喚されたばかりだ。
"俺たち"とまとめたが、みんな見知らぬ顔だ。初めましての顔だ。
どうやら今は同じ立場にあるようなので、ここではひと先ず運命共同体、仲間という意味で"俺たち"とするのが正解だろう。
玉座には当然、王様らしい人が腰かけている。
そして、その横には王の補佐役らしい男が立っている。
神官と思しき人物が俺たちに対してなにやら長々と説明していたが、あまりにも急な展開に、内容はもちろん頭に入ってこない。
だが、召喚された五人が一人ずつ水晶玉に手を触れ、職業を鑑定していく段階に入ったあたりで、ようやく現実が脳に追いついてきた。
「勇者」
「剣士」
「魔法使い」
「僧侶」
順番に告げられる職業に、周囲の大人たちは満足そうに頷く。
拍手こそないが、空気は明らかに"あたり"を引いたそれだった。
そして最後に、俺の番。
やっと状況に追いついたばかりの脳内で、次の展開を期待していた。
(俺も勇者か?)
(残る職業は...暗殺者?盾使い?それとも武闘家だったりして?)
などと、根拠のない楽観に胸を躍らせる。
──そして、俺の番が来た。
そっと、水晶玉に手をかざす。
「鑑定士、です」
神官が、今度ははっきりと告げた。
しばしの沈黙が広がる。
王様は眉をひそめ、補佐役は首を傾げ、周囲の大人たちは互いに顔を見合せる。
「鑑定士?なんだ、それは」
ようやく沈黙を破った王様の問いに、神官が恐る恐る答える。
探り探り──そんな言葉がよく似合う口調だった。
「そのような職業は......我が国の、記録には、存在しませんな。ええ、聞いた事もございません」
(鑑定って、使えるのか?)
(戦闘向きではなさそうだな)
ざわ、と空気が揺れる。
「試しに鑑定スキルを発動してみよ」
神官に促され、俺は近くにいた騎士へと視線を向ける。
「......鑑定」
表示されたのは、
【ヒト】
──それだけ。
「......それだけ、です」
「ふむ……」
正直に伝えると、神官は露骨に興味を失ったような顔をした。
それからは、誰も俺の顔を見ないままに話が進んだ。
「それでは本刻をもってここに勇者パーティ【レゾナンス】を結成する」
王の宣言とともに、俺たちはそれぞれ案内された部屋で休む運びとなった。
どうやら俺は、この世界における不遇職らしい。
─────
翌日。
俺たちレゾナンスは、早速訓練に入った。
近くの森へ入り、魔物討伐の実地訓練という内容だ。もちろん王国騎士が同行している。
しかし、そこで俺に出来ることは、何もない。
とりあえず現れる魔物の鑑定を試みる。
【ゴブリン】
【スライム】
.......以上。
弱点もスキルも、何もわからない。
報告する価値すらない、無意味な情報だけだ。
「陽斗!そっちは任せた!」
「了解、達也!」
勇者である神谷陽斗と剣士である黒川達也は、初めて剣を握ったとは思えない動きで、魔物を切り伏せていく。
──いや、おかしいだろ、剣を持つのも初めてのはずじゃないか?しかも、扱っているのは長剣だ。
疑問に思ったが、すぐにその考えを振り払う。
スキルの恩恵。
それが、この世界の当たり前、なのだろう。
「陽斗殿、達也殿。一度退いてください。由奈殿、魔法の準備を」
騎士団長の号令に従い、前衛の二人が下がる。
迫ってくるゴブリン四体に、魔法使いの水瀬由奈が杖を向け、狙いを定める。
「───ファイアストーム」
火柱が吹き荒れ、ゴブリンたちはまとめて焼き払われた。
それを見て騎士団長は満足そうに微笑む。
「素晴らしい!低級の魔物ではまるで物足りませんな!もう少し奥へ進みますぞ!」
その日の訓練は、少し森の奥まで進み、フォレストウルフを数体狩って終了した。
俺は、訓練中ずっと鑑定を続けていたが、やはり名前しかわからない。
騎士団長が
「オークなど余裕ですな!」
「フォレストウルフは足が速いのでご注意を!」
と、親切丁寧に解説してくれるため、魔物の名前など伝えてもまるで意味がない。
俺の出番は最後までなかった。
─────
それから数日後。
勇者パーティ【レゾナンス】は再び王の間へ呼び出された。
理由はわかっていた。
他の勇者も、予想はついているだろう。
ただ、両者に違いがあるとすれば。
俺はその予想が外れていて欲しいと願い、他の勇者は的中していて欲しいと願っていた、その違いだけだろう。
その日、俺は勇者パーティを追放された。
──────
金貨数枚を渡され、衛兵に連れられ城の外へ追い出される。
城門を背にして、俺はため息をつく。
「......何しようか」
やることが無い。
というか何していいかわからない。
この感覚は、久しぶりだった。
まるでこの世界に来る前の自分に戻ったようだ。
嫌な気分に浸りそうになるのを払拭すべく、俺は顔を左右へ振った。
できることを考えてみよう。
スライムを狩る?
無理だ。力もなければ、仲間もいない。
森に寝床でも作る?
いやいや死ぬだろ。
王城に戻る......は論外として。
......お金はあるしとりあえず街へ行くか。
「自由になったわけだし。この世界を見て回るとしますか!」
無理やり元気に振舞いながら王都とは逆方向に歩き出した。
街道を二時間ほど歩くと、小さな露店街があった。
なんとなく、露店の商品を鑑定していく。
【鉄の剣】
...
【鉄の盾】
…
【薬草】
...
【ポーション】
...
見ればわかる情報ばかりだ。やはり鑑定は役に立たないのか?
ずらりと並んだポーションを通りすがりに鑑定し続けていると──
突然、頭の中に声が響いた。
【鑑定Lvが上昇しました】
「......え?」
周囲を見回すが、誰もいない。
まさかと思い、
「ステータスオープン」
【名前】久遠 依人
【種族】人間
【職業】鑑定士
【レベル】1
基本ステータス
【HP】42/42
【MP】18/18
【筋力】6
【防御】7
【敏捷】8
【魔力】6
【精神】11
スキル
【鑑定Lv2】【解読者】
──やはりだ。鑑定のレベルが2に上がっている。
もう一度、ポーションを鑑定してみる。
【HPポーション】
【品質:低】
(おお!さっきより表示が増えている!)
「もしかして...?」
「暇つぶしに鑑定しまくれば、強くなれるやつ...?」
頬が、自然と緩んだ
この世界にきて初めて、明るい未来が見えた気がした。
しかし、このときの俺はまだ知らなかった。
この鑑定という役に立たない行動が、勇者より危険な存在への第一歩になることを。
誤字脱字、文法ミスに変換ミス、重複なんでもござれ!
チャプター名とか、そもそも小説のタイトルからして、適当につけてるからあとで変更する可能性大。




