大図書館の幽霊の噂
「…で、まずどこに行くか決めてんの?」
サギリはテーブルの上で小さな猫用のサンドイッチを食べながらラズリルに聞いた。
ちょうど昼時という事もあってラズリルのお気に入りの喫茶店モカロで昼食をとっているところだ。
大通りに面しているため人通りが多いが、天気も良くテラス席はとても気持ちがいい。
「えーっと、とりあえず海が見たいです。あと空の国にも行ってみたいし…色々行きたいとこあります」
向かい合って座るクロは何も頼まずにただぼーっと通りを行き交う人々を眺めている。正確には仮面をしているため、どこを見ているかは詳しく分からないが。
「ふーん。まあ何でもいいや。早く行こうぜ」
「まだ食べ終わってないですっ」
急かしてくるサギリを軽く睨んでラズリルは大好きなパストラミビーフのサンドイッチを口に運んだ。
しばらくこの大好物が食べれなくなるのか、と思うと少し寂しくなる。
一方でさっさと食べ終わったサギリは助けを必要としている困り人探すように辺りを見回していた。
そこまで食に興味がなく、腹が満たされれば何でもいいようだ。
そんなに都合よく困ってる人なんていないよなー、とラズリルは長旅覚悟をした。
「そういやこいつの仮面、そこの出店で適当に買ったんだけどこの街今祭りでもやってんの?」
「ああ、私達、魔女見習いをお見送りするためのお祭りですよ。毎年この時期やるんです」
魔法が盛んな国ですからね、とラズリルは楽しそうに通りを行く人々を見つめた。
この国はどこに行っても魔法に関する事ならばお祭りごとになる。ましてや魔女を目指すための卒業試験など、とても大きな行事の1つだ。
もし優秀な魔女がこの街から生まれたら街の知名度も上がり、発展に繋がるだろう。
だから今は魔女学校リズコッタの卒業試験を応援するという名目でお祭りを開催している最中なのだ。
「…っていうか大魔法使いのお弟子さんなのに知らないんですか?」
「外のそーゆー話題に興味がない」
ラズリルの中でサギリに対する不信感は募るばかりだった。
この国で暮らしていれば卒業試験を鼓舞するお祭りなんてかなり有名な話のはずだが…
遠くを見るサギリを横目にラズリルはサンドイッチを食べ、カフェオレを飲み終えた。と、その時、
「ねー大図書館にお化けが出るって噂知ってる?」
後ろの席から話し声が聞こえた。
「知ってるー!それ先輩達も話してた!深夜に見回りの人が女の子のすすり泣く声とか、物音を聞いたってね…」
一瞬だけちらりを後ろを振り返る。魔女学校の生徒ではないようだ。他の学校の生徒らしき女の子が2人、お喋りをしていた。
(幽霊…)
ラズリルは身体を戻したが耳はその2人の方に傾けたまま青ざめた。
「こわ~!もう図書館行けないじゃん!」
「昼間は出ないらしいんだけどね、夜に近くを通った人が図書館の窓から変な光を見たり、すすり泣く女の声を聞いてるんだって」
「やばーい!」
怖がっているのか面白がっているのか分からないがどうやら盛り上がっているようだ。
せっかく大図書館に行って次に行く所を下調べしようと思ってたのに・・とラズリルは大きくため息をつく。そんな彼女の姿を見て、クロは首を傾げた。
そろそろ行こうと席を立とうとしたその時、
「館長さんすっごく困ってるらしいよ」
女子生徒の最後の一言で目を大きく見開いた。
まさか最初に見つけた困っている人の困り事が幽霊だなんて想像もしていなかった。
聞かなかったことにしようかな・・・とラズリルがちらりとサギリを見ると、さっきまでテーブルにいたはずの黒猫の姿はもうなかった。
慌てて辺りを見回すとすでに少し離れた花壇の上におり、こちらをじっと睨んでいる。
「さっさと行くぞ。たまご」
「え!?たまご!?」
「魔女見習い、つまり魔女のたまごだろ。行くぜ」
急いで椅子にかけていたマントを手に取り、走ってサギリの後を追う。
ラズリルはきちんと喫茶店の階段を使ったが、階段を使うという思考がないのかクロは身軽にさっと花壇に手をつき飛び越える。
近くの通行人やテラスにいた人がざわつき、注目を集めた。が、今はそんな事はどうでもいい。
「やだー!幽霊なんて相手にしたくないよー!」
ラズリルは走りながら人目を気にせず大声で叫んだ。
が、先輩猫はそんなことはお構いなし。猫しか通れないような道をぴょんぴょんとジャンプして駆けていく。
この街には小さい小舟が1つ通れるくらいの川が街中を流れている。
そのため橋が至る所にあるのだが、その橋の下の小さな道ではないレンガの上を渡らされたり、入り組んだ狭い路地裏を右に左に進んでいく。
後ろなどお構いなしだ。
「大図書館の場所なんで知ってるんですか~!魔法ですか~!」
息を切らしながらラズリルは前を行くサギリに向かって声を上げる。
すぐそこに大図書館の建物が見えていた。




