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花を編む魔女  作者: しお
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大魔法使いの弟子

薄暗い建物の影の中からゆっくりと青い目の黒猫が姿を現した。

カラン、と音を立ててレンガ作りの地面に狐面が転がる。黒猫は目を丸くしているラズリル見た後、クロに目をやった。


「ふーん、お前らがあいつの言ってた二人組で間違いなさそうだな」


「だ、誰・・?」


黒猫の声は低いような高いような中間くらいの、聞きやすい声だった。

だが声からしてどうやらオスのようだ。


「これ使えよ。そいつの顔隠したほうがいいだろ」


ラズリルは眉間に皺を寄せ、おそるおそる猫が落とした狐面を拾った。

喋れる猫はまあ珍しいけど普通にいる。でも見ず知らずの人に仮面をくれる猫なんて聞いたことがない。


それに今一番気になってたクロの見た目をどうするか悩んでいたところにこんな都合よくちょうどいいものをくれるなんて・・



お面ありがとう、と口を開きかけた瞬間黒猫が言った。



「俺もお前らの旅に同行させてもらう」


「・・・えぇ??」


思わず声がひっくり返った。


「え、あの・・ちょっと待って君は誰?なんで旅のこと知ってるの?」


怪しい。怪しすぎる。この黒猫は一体何者なんだろう?

自然とお面を持つ手に力がこもる。その様子を見て黒猫の青い目は更に鋭くなった。


「とある奴に猫の呪いをかけられてる。解いてほしかったらリズコッタの魔女見習いと死神に似た護衛獣の旅に同行するよう言われた。ここで待ってたのもそいつがここにいればお前らが通ると教えてくれたからだ」


その仮面は人間に戻ってた時に買ったもんだ、と黒猫は言った。



もう一度簡単に話をまとめるとこうだ。


元々は人間だったが色々あって猫になってしまう呪いをかけられた。

その呪いを解くには何故だか分からないがラズリルとクロの旅、卒業試験に同行すれば良いとの事らしい。

仮面も準備するように言われ、ここで待つように言ったのも呪いをかけた人の指示だそうだ。


(・・その人何者なんだろう・・)


何でも知っているなんて普通じゃあり得ない。まるで大魔法使い様みたいだ・・。

まさかと思いつつ、とりあえず猫に名前を聞いてみることにした。


「ねえ猫ちゃん。名前は何て言うの?」


誰が猫ちゃんだと文句を言いつつ黒猫は口を開いた。



「俺はサギリ。大魔法使いの弟子だ」


「やっぱり!!」


ラズリルはしゃがみ込み、目を輝かせながらサギリという名の猫に近づいた。

あまりに素早い勢いにサギリはびくっとした。


「ほんとに弟子なのかどうかは怪しいけど色んな事知ってるのは大魔法使い様か大魔女様しかいないと思ってた!」


ラズリルはすぐに快くサギリの同行を許可した。

どうして大魔法使いが自分の旅にサギリを同行させるのか、そもそもこの話自体が本当なのか。

一瞬色んな謎が浮かんではきたけどそんなことはどうでも良かった。


もしかしたらサギリといればいつか憧れの大魔法使い様に会えるかもしれない・・!

それだけで理由は十分だった。



「ついてきてもいいから今度大魔法使い様に会わせてよ猫ちゃん!」


ウキウキしながら抱きかかえようとすると、サギリは手慣れた身のこなしでラズリルの手を避けた。


「俺のことはサギリ先輩と呼べ。あと敬語も使え。それから師匠に会えるかどうかは俺も知らん」


「え~・・じゃあなんかすごい魔法見せてください!」


「今は猫だから無理」


「え~・・・」


この人ほんとに弟子なのかな・・・と落胆しつつラズリルは立ち上がった。

そして静かに後ろに立っていたクロに狐面を渡し、付け方を教えた。クロは素直に指示に従い、自らの顔を隠すために狐面を付けた。



「うん、似合ってるよ」


クロは狐面から手を離すとラズリルの方へ顔を向けた。

お面をすることによって死神似の恐怖が軽減されると思ったが、声を発しないため少々の不気味さは消えなかった。

慣れるしかないようだ・・



「と、ところで何で猫の呪いをかけられてるんですか?」


「知るか」


「え、分かんないの?…本当は元々ただの猫ちゃんだったりして」


詳しい事は何も教えてくれず、大魔法使いの弟子なのに魔法も使えない。おまけに態度も偉そうで口も悪い。

思わずラズリルは小声でぼそっと呟いた。

が、どうやら地獄耳だったようでそれが聞こえたサギリはギロッとラズリルを睨みつける。

慌てて口を塞いで、ニコッと笑顔を向けてみせた。


生徒同士でなければ同行者はいてもいいと卒業試験の規則で決まっている。

頭を抱えていると嫌と言われても勝手についてくがな、と黒猫は言った。


怪しいけどまあただの可愛い猫ちゃんだしいっか・・とラズリルはため息をついた。

それに正直、話せる相手が出来るのはちょっといいかも。



「魔女試験って具体的に何するわけ?」


「え?あー…えっと、旅をしながらこの手帳にサインをもらうんです。困ってる人を助けて、その人達から」


ラズリルは自分でも改めて再確認するように手帳を取り出した。

この手帳をサインで埋めると魔女になるための帽子がもらえて、はれて魔女になれるとサギリに説明してみせる。


また旅に出て見聞を広げることも試験内容の1つだ。


「ふーん…適当に自分で書くか、その辺の奴に書いてもらえばいーんじゃね」


「そんなズル、すぐバレますよ」


サギリはまるで興味がなさそうに言った。

どうやら自身の猫の呪いを解いてもらうこと以外はどうでもいいようだ。

ぷくっと頬を膨らませるとサギリはわざとらしくため息をついた。


「まあいい。お前達は旅をしてさっさと卒業する。俺は何故だか知らんがそれに同行してお前達の卒業を見送ったら呪いを解いてもらえるってわけ。」


さっさと行こう、とサギリは薄暗い路地を足速に歩き出した。

クロを1度振り返ると相変わらず何も言わずにその場に立ち尽くしていた。仮面をしてしまったためもう目が合っているのかどうかすら分からない。



慌ててサギリを追うと小声でラズリルは1つ疑問に思っていたことを聞いた。


「あの…サギリ先輩。そういえばなんですけどクロの事怖くないんですか?」


死神に似てるのに…と。

まだ仮面をしていない時のクロを見ても普通だったし、最初死神に似た護衛獣についていくよう言われた時もビックリしなかったのだろうか。


「そいつは死神じゃない。あいつは死んだ。それだけだ」


サギリが振り返ることはなかった。

ラズリルはそうですね…と静かにうなづいて、路地裏を後にした。

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