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第7話 禁書庫の出口

 クリスが本棚の中の本を指さした。

「え、そんなまさか?」

 クリスが本棚から本を抜き取り、本を開くとそこには見たこともない魔法陣が描かれていた。魔法陣も古代文字なので、僕にはさっぱり理解できなかった。

「出口の魔法陣のようだ。出たい者は、この魔法陣に同時に触れること。最大人数は6名まで。そんなことが書いてある」

「罠とかではないよね?」

「取り敢えず触れてみたらどうだ?どの道このままでは迷子確定なんだしさ」

 コーディーとマーティンが魔法陣を覗き込んで、クリスと僕を見た。

「悪意のある魔法陣には見えないな。悪質な魔法陣は、禍々しい感じだし、その場合は更にとんでもない場所に飛ばされたりするはずだけど……」

「クリスがそう言うなら、大丈夫かもな。クリス、そのままその本を机に置いて。皆、手を本の上に、せーので触れようか?」

 皆が覚悟を決めて頷いたので、僕が掛け声を掛けた。

「じゃあいくよ。せーの!」

 皆が同時に魔法陣に触れると、魔法陣は眩しい光に包まれた。僕は眩しさに慌てて瞳を閉じた。


「なんかクラクラするな……、ここは、元の場所か」

 視界がまだチカチカしているが、ぼんやりと見えたのは初めに入った図書館の景色だった。

「戻って来られたようだな……。革袋の禁書も、一緒に持ちだせたようだ」

 マーティンが袋を覗き込んでニヤリと笑った。

「え?見て、この本、先ほどまで古代文字だったのに、現代語に変化しているよ」

 コーディーが持って来た本には【解毒に効く魔法薬、禁術全集】と書いてあった。マーティンが取り出した本には【王族が隠している醜聞備忘録】、クリスの本には【禁術、呪術全集】、僕の本は【闇魔法の考察】と書いてあった。

「おい、クリス。禁術、呪術は拙いだろ……、どうするつもりだ?」

「ああ、やってはいけないことを知っていれば、遭遇した時に対処できるだろ?勿論、僕は試さないつもりだよ。あくまで、参考にするだけさ」

「そうか、それならいいけど。マーティンも、王族の醜聞を知ってどうするんだ?バラしたら拙いだろ?コーディーが一番真面なの、持って来たな」

「俺は一人で読んで、笑うためだけに持って来たんだ。バラしたって、皆信じないだろ?コーディーが持っているのも禁術が載っているんだろ?」

「そうだね。助けるための術には、対価がいるものもあるから、それが禁術指定されている可能性もあるね」

「じゃあ、キースのが一番真面なのか?」

 僕は本をパラパラとめくって見たが、その字を追うごとに少し後悔した。

「いや、多分これも真面じゃない。禁書庫にある本なんて、どれも薦められるものではないのかも?参考程度に読んで、なるべく早く返却した方がいいな」

 人を闇に轢きずり込んで、どこまでやれば人格が破壊できるかの考察……、研究対象を闇魔法で破滅させた事例集その1、その2・・・・・・、いや、駄目だろ。

 僕たちは10日後に、もう一度ここへきて、皆で禁書庫に行くことを約束した。悪意のあるものは、身近に置いておくとよくないし、それだけで呪われそうな気がしたからだ。


「はい、赤のフェニックス寮の4名、退館ですね」

 僕たちは入館時に貰った革袋を司書に返却して、退館記録に時間を書き入れた。思っていたより、時間は進んでいなかった。

「たぶん、禁書庫にいた時間が止まっていたのかもしれないな。3時間を超えていてもおかしくないはずなのに、たったの1時間だなんて……」

「不思議な場所だったもんね」

「そうだな。光があるのに影がないなんて、現実とは思えない。返却に行くのも、ちょっと気が重いな」

「返却しなければ、それなりに危険が付きまとうよ。この本は禁書。基本持ち出し禁止なんだ。10日で返す、そう誓ったから図書館の外へ持ち出せたんだよ」

「え、そうなの?」

「その証拠に、本の裏表紙を見てみて」

 クリスの言葉に、僕たちは裏表紙を見た。そこには先程までなかった紙が貼ってあった。『返却日は10日後まで。過ぎればそれぞれに罰が下るので注意すること。紛失した場合は、更に重い罰が課せられる』紙には、そのような内容が書かれていた。

「げっ怖すぎる。10日後じゃなくて、5日ぐらいで返しに来ないか?ギリギリだと、禁書庫に入れなかった時に、拙いだろ?」

 マーティンが嫌そうにそう言ったので、僕たちは同意した。

 持ち出した本は、それほど分量もないので5日あれば読めるだろうし、参考になるかと言えばならない気もする。そこまで熱心に読み込む必要もないだろう。


 5日後、僕たちはもう一度図書館にやって来た。皆少し寝不足なのか、目の下に隈ができている。

「なんだか疲れたな。紛失しないか気になるし、5日で読むとなると、睡眠時間を削ることになるし、当分禁書に関わりたくないな……」

 結局【闇魔法の考察】に書かれていたことは、実際に使えそうなものはなく、闇魔法でおこなってはいけないことばかりだった。真に受けて、本に書いてあることをすれば、人として終わる気かするので、今後の戒めとしては参考になったと思う。僕が溜め息交じりに感想を言うと、皆もそれぞれ感想を聞かせてくれた。

「俺は昔の王族に幻滅した。まあ、今の王族は真面だということが分かって、良かったかな?」

「僕は魔法薬が万能でないことが分かったから、薬草学も勉強しようと思った。それが分かって良かったかな」

「禁術、呪術は代償が大きいと、改めて分かった。使うことはないだろうけど、解呪方法を確立できるよう、今後研究しようと思う」

「じゃあ、禁書を返しに行こうか。来週から試験だから、そろそろ本格的に勉強しないとな」


 クリスが図書館の本棚で見つけた入口と書いてある本を開いて、僕たちは5日ぶりに禁書庫に入った。

「不思議だけど、やはり時間は止まっているような気がするね。ほら、置いておいた乾パンが、5日前と同じ状態で残っているよ」

 僕たちがここを出る時に、革袋の中に入っていた乾パンを一つ、机の上に置いておいた。乾パンは5日前と同じ固さで、そのまま机の上にあった。

「父さんの書いた手紙も、劣化しないまま残っているから、そうなんだろうな」

 僕たちはそれぞれ持って来た本を返却して、そのまま禁書庫を後にした。誰一人として、次の本を持ち出そうとしなかった。


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