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第6話 魔法学園の図書館

「はい、では赤のフェニックス寮の1年生4名、今回が初めての入館ですね。名前をここに記入してください。3時間経っても戻らない場合、迷子になったものとみなして捜索活動が開始されますので、3時間以内に一度ここに戻ってきて下さい。延長する場合も、申請が必要です。もしも出口を見失った場合、出来るだけ4人は離れないようにしてください。バラバラになると捜索活動も大変ですので」

 図書館の入り口に司書がいて、入館記録に4人の名前を書き入れた。普通の司書は館内にいるはずだが、ここはベテランの司書でも迷子になる可能性があるので、決まった時間にしか館内に入らないそうだ。

 入館に際しても注意事項を聞いた後、僕たちは4人で図書館の中へ入った。ちなみに迷子になると、発見されるまでに、最低でも3日ほどかかるそうだ。司書から渡されたのは、簡易の食糧と水が入った革袋で、入館した時に受け取り、退館した時に返却するそうだ。

「それにしても、図書館に入るだけなのに物々しいな。魔法が解けないなら、潰して新しく建てればいいのに」

 革袋を肩にかけながらマーティンが溜息をついた。魔法がかかったままの図書館は、生徒たちにとっては行かなくてはならない場所であり、厄介な場所でもあった。

「伝統ある建物なんだってさ。中に所蔵されている魔法書は、この図書館にしかない貴重なものも多くて、そのほとんどが禁書目録の魔法で、この図書館の外に持ち出せないらしい。最近では、第二図書館を建てる案も出ているけど、結局ここにある本はここでしか閲覧できないそうだよ」

 珍しくコーディーが事情を説明してくれた。なんでも、この図書館には、魔法薬の本も多く所蔵されていて、気軽に通えないか調べたそうだ。新しく建つ予定の図書館にも、魔法関係の新しい本は揃えられるそうなので、建てばこの図書館の利用者も減る予定なのだそうだ。

「でも、たまには迷子になるのも楽しそうだけどな」

 この後自分が言ったことに少し後悔することになるなんて、この時は思ってもいなかった。僕は暢気に、革袋を持って図書館の中へと入っていった。


「えっ……?」

 目的の本を見つけ、各自が必要な内容を写し、そろそろ帰ろうかと思っていたところで、図書館が大きく揺れたような気がした。カチリと何かがはまる音がした瞬間、古めかしい図書館の室内がぐにゃりと曲がって見えたような気がした。

「これ、拙いんじゃないか⁈」

 マーティンが焦って僕たちを見た時には、既に出口に向かう廊下が消えていた。クリスが何か呪文を唱えたが、途中で詠唱を中断して首を振った。

「クリス、何をしようとしていたの?」

 コーディーが不安そうにクリスを見た。僕たちは先ほどまでいた図書館ではない、別の図書館に入り込んでしまったようだ。本は棚にびっしりと並んでいるが、いつの間にか、壁の色も窓の形も全く別のものになっていた。

「外に転移しようと思ったんだけど、途中で弾かれた。無詠唱でなかったのに、阻まれるなんて初めてだ」

 僕は闇魔法で影に入る試みをしようとしたが、そこでハッとした。

「ここ、影がない……」

 図書館なので、本を守るために直射日光は避けるように設計されているが、それでも先ほどまでは外の光を感じる程度には明るかったのだ。室内には魔石のランプがあり、周りの景色はちゃんと見える。光はあるのに、僕たちの影がないことがおかしいのだ。

「これって、迷子になったと考えていいのか?」

「たぶんそうかも?魔法が使えないなら、結界魔法か何かかな?」

 コーディーが不思議そうに周りを見渡した。クリスは本棚の中にある本を手に取って、興味深そうに読んでいる。

「クリス、何を読んで……、って、これ古代文字じゃないか?」

 クリスが開いていたのは、現在は使われていない古代文字と言われるものだった。一昔前までは、古代文字を解読して最古の魔法を読み解く授業もあったらしいが、最近は現代語に訳された本が出回っているので、古代語は文字を研究する学者や長老級の年配者しか習得していない。勿論僕も読めない。

「読めるのか?というか、古代語の本なんて、この図書館には所蔵されていなかったはずだ」

「少しだけなら読める。禁書と呼ばれる魔法書は、大概古代文字だから……、というか、ここは禁書庫ではないかな?」

「禁書庫??」

「ほら、そこに表札があるだろ。古代語で禁書庫と書いてある。それに、この本は禁術が載っている。人を呪う方法は、流石に禁止されているだろ?」

「こわっ、禁書庫なんてこの図書館にあったかな?」

「無かった……、迷子にならないために、この図書館の配置図は事前に確認していたけど」

「禁書庫があるのは、王宮にある図書館だけのはずだよ。父上と一緒に、一度だけ入室の許可を取って行ったことがある。でも、ここはそことは違う」

 コーディーが周りを見て首を振った。王宮にある禁書庫は、こんなに古代語の本はなかったらしい。ここの本は、ほとんどが古代語のようだ。

「いたずらした生徒?多分その者が、この禁書庫を封印したようだ」

 クリスが壁に貼ってある古びた紙を指さした。そこには何かが書かれていたけど、古代文字だった為、僕には読めなかった。

『ここに禁書庫を封印する。探し求める生徒よ、ここにある知識を求める者よ。よく考えるがいい。ここにあるものは厄災だ。持ち出せば、世界の平和は揺るがされ、汝の身にも厄災は降りかかるだろう』

「って、書いてあると思う。この禁書庫を求めた覚えはないけど、何かに反応したみたいだな」

 クリスが嘆息して周りを見渡した。

「俺は、世界を揺るがすような情報が欲しい、って考えていた」

「僕は、皆が助かるような魔法薬が欲しいって思っていたかも?」

「僕は、闇魔法を極めたいって思ったかも……」

「そうか、僕は僕の知らない魔法を知りたいとは、思ったかもしれないな……」

 つまり、皆がそれぞれに、この禁書庫に迷い込む動機はあったようだ。

「厄災、って言われたら、逆に意地になるよな。求めたものがここにあるんだったら、探すよな?」

 僕たちは皆で頷き合った。クリスに探したいものを提示して、各々が探し出した本を革袋に入れた。

「ここは図書館だ。借りた本は責任を持って返しに来ること。まずはここから抜け出すことに専念しようか」

「帰ったら、古代文字勉強しないとな……。まずは脱出」

「さあ、ここから出るための何かが、ここにはあるはずだよな?」

「ねえ、ここに別の手紙が……」

 禁書庫の机の上に、紙が置いてあった。何かのノートを破って走り書きしたような文字だ。

「この筆跡、どこかで……、出るためのヒントは、この禁書庫の中にある、……って、最後のサイン、マーカスって、父さんか?」

 どうやら、学生時代に父さんもここへ来たことがあるようだ。そんな話、聞いたことがなかった……

「なあ、この本の背表紙に、古代文字で出口って書いてあるんだが、まさか、だよな?」


いつも読んでいただきありがとうございます。

よければブックマーク、評価もしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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