第49話 エピローグ それぞれの道
「マーティン、気をつけて行って来いよ」
「マーティンなら、目的を果たせると思うから、自分を信じて頑張れよ」
コーディーの結婚式に参列した5日後、マーティンの壮行会をした僕たちは、そのままマーティンを見送りに王都の外れまでやって来た。ここから馬車で1日行ったところにある転移門から、外交官2名と見習いのマーティンはエリシーノ国に行くことになる。
赴任の予定は最低でも2年、長い時はそれ以上になるそうだ。
マーティンは赴任している間に、エヴェリーナ嬢の家族と緑の精霊に結婚を認めてもらうつもりだ。まず、緑の精霊の試練に打ち勝って運命の相手として認めてもらい、緑の精霊の加護を無効化する。そして緑の精霊の愛し子のエヴェリーナ嬢をタランターレ国に花嫁として連れてくるのだ。
精霊信仰の強いエリシーノ国が、精霊の愛し子を他国に嫁がすことはほぼ無いことだそうだ。
「最悪、俺がエリシーノ国に留まって、婿になるさ。弟もいるし、その時は伯爵家を任せればいい……」
壮行会でそんなことを言っていたが、ずっと嫡男として育てられたマーティンは、人一倍責任感も強いし、伯爵家を大切に思ってきたことを僕たちは知っている。出来ることなら、エヴェリーナ嬢と共にタランターレ国に戻って、伯爵家を継ぎ幸せになって欲しい。ここで、祈ることしか出来ない自分の力不足が悔しい。
「それはそうと、どうしてコーディーとアリス嬢が荷物を持ってきているんだ?」
クリスの声に、僕は落ち込んだ思考から浮上した。そう言えば二人とも、旅に出るような格好をしている。
「実は、新婚旅行先をエリシーノ国にしたんだ。エヴェリーナ嬢とアリスが仲良くなって、招待してくれるって言うから、お言葉に甘えたんだよね」
二人は特別に外交官と一緒に転移門を使える許可をもらったそうだ。帰りは馬車になるが、行きだけでも転移門を使えれば、かなり時間が短縮されるはずだ。
「王宮の医務局に就職直後に、よく新婚旅行の許可がもらえたな」
クリスが感心するようにそう言ったら、コーディーが少し悪い顔で微笑んだ。
「エリシーノ国にしか自生しない薬草が結構あるんだ。医務局長に、エヴェリーナ嬢と知り合って招待を受けたって言ったら、是非行って来いってさ。だからこれは、出張でもある。勿論僕の中では、新婚旅行なんだけどね。医務局長が指定した薬草から数点、輸入できる交渉を取り付ければいいんだけど、エヴェリーナ嬢に事前に確認は取ってあるから、楽勝だったりする」
「……」
可愛い顔で微笑んでいるが、コーディーの周到さに僕たちは無言で頷いた。何も企まなさそうな顔をして、こういうことをしれっとしてしまう。味方なら心強いが、敵には回したくない人物の一人なのだ。
「医務局長が外務長官に話を通してくれたから、行きは外交官と一緒に転移門が使えるんだよ。時間短縮出来て良かったね」
アリス嬢は何も気づかないような顔で微笑んだが、実はアリス嬢も結構強かなことを僕たちは知っている。幼い頃からコーディーとずっといるのだ、コーディーの性格も理解した上で、気づかないフリをしているのか、本当に気づいていないのかは定かではないが、どちらにしても強者だということは間違いない。
「この機会を逃したら、新婚旅行に行く前に子供が出来ちゃうかもだし、本当に良かった」
「こ、子供……」
アリス嬢が真っ赤になって俯いたのを、コーディーが満足そうに見つめている。微笑ましい光景のはずなのに、何故か背筋が冷えた気がした。クリスもマーティンも同じような表情をしていたので、きっと気のせいじゃない。アリス嬢はきっとコーディーから逃げることは出来ないだろう……
「気の毒、じゃなくて、お幸せに……」
少し複雑な気分で、マーティンとコーディー夫婦を見送って、僕とクリスは帰路についた。
「じゃあ、また。お互いに頑張ろうな」
「ああ、同じ王宮内で仕事をしているんだ。会うこともあるだろうけどな。まあ、近衛騎士団はゆっくり話す時間はなさそうか?」
「そうだな。職場にいる時は立ち話も出来なさそうだな。じゃあさ、コーディーが帰って来たら、一度飲みに行こうよ。エリシーノ国のことも聞きたいしさ」
「わかった。じゃあまた連絡するよ。リアの8歳の誕生日も祝う予定だから、空けといてよ」
「そうか、リアももう8歳か。分かった」
「じゃあ、またな」
僕はクリスと手を振りあって別れた。
「お兄様、おかえりなさい。お父様とお母様も待っていたのよ。これから、私の誕生日に着るドレスのデザインを考えるの。お兄様も一緒に考えて欲しいの」
リアが幸せそうに笑って、両親の待つ部屋へ僕を連れて行った。
「おかえりなさい。待っていたのよ。どれも可愛いから迷ってしまうわ。キースの意見も聞かせて」
机の上には色とりどりの布や、デザイン画が置かれていた。
「どれを着ても、リアなら間違いなく可愛いさ。でも父様は、可愛いリアを独り占めしたいな」
親バカ発言に、母さんが呆れたように父さんを叱っている。これも仲のいい両親の日常だ。
この時は、リアの誕生日の日に、僕たちの人生で最大の試練が起こるなんて思ってもみなかった。
運命の日、僕とクリスは、それぞれの思いを胸に最善を尽くすことになる。
そして、再び会うことになるまで、長い年月がかかることになるのだが、勿論この時の僕は、この幸せな時間がずっと続くのだと信じて疑いもしなかった。
(おまけ 次回予告編)
「キース、ゴルゴール国の王都が見えましたわ」
シェリルが嬉しそうに声を上げたので、僕は昔の記憶から意識が浮上した。
ゴルゴール国とエリシーノ国に新婚旅行へ行く道中、馬車の中で妻になった元第一王女シェリルが、僕の魔法学園時代の話を聞きたがったので、懐かしい思い出を紐解いて語っていたのだ。
ゴルゴール国へ向かう長い時間の慰みになるかと何気なく話し出したが、話したいことは多く、熱心に話してしまった。シェリルが、退屈に思っていないかと心配になった。
「あまり面白い話ではなかったと思うのですが……」
「いいえ、学生時代の話は初めて聞いたので、とても興味深いお話でしたわ」
「それなら良かった……」
「ええ、それに、あなたに恋人がいなくて、本当に良かった」
美しい微笑みでシェリルが言った言葉が、少しだけ僕を傷つけたことは内緒だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本編は、今回で完結です。
最後におまけの予告編をつけています。次がシリーズ最後の投稿になる予定です。
マーティンとエヴェリーナ嬢のお話も書きたいと思っていますが、もう少し気長に待っていていただけると幸いです。
よければブックマーク、評価の方もよろしくお願いいたします。
残り一話、コーディーとアリスのSSを投稿して、今回は完結となります。よろしくお願いいたします。




