第48話 卒業
「――――、これまで学んできたことを力に、僕たちはこの魔法学園の卒業生として、これからも頑張っていきます。最後になりましたが、これまで支えてもらった家族、共に学んだ友、ご指導くださった先生方に感謝申し上げます。卒業生代表、キース・アドキンズ」
壇上で挨拶を終え、僕は礼をして席に戻った。
卒業代表だということは、無事学年首位を守り抜けたということだ。卒業研究発表会の結果は非公開だった為、代表挨拶の依頼が来るまで落ち着かなかった。父さんも卒業式で挨拶をしたと言っていたので、秘かに目標にしていたのだ。
「アドキンズ先輩、あの、髪を一本、いただけませんか?」
「え?髪??」
卒業式を終え、会場の外に出てきた僕たちは、後輩や同級生の女生徒に囲まれていた。クリスは後輩の女生徒に花束や手紙を貰っていた。僕の前にも珍しく女生徒が来たのだが、言っている意味が分からない。髪って、欲しいものなのか?
「ああっと、ごめんね。そういうモノは、あげては駄目だって、キースは厳しくご先祖様に言われているんだよね。そうだよ、ね?」
「え?ご先祖??」
コーディーが僕の腕を掴んで後ろに隠して、変な言い訳をしている。ご先祖様?でも、髪を欲しいなんて、ちょっと怖いので、コーディーの言い訳に乗ることにした。
「そうなんだ。ごめんね……」
女生徒は残念そうに去っていった。その後も、手作りのクッキーや手編みのマフラーをくれようとした女生徒のことも、マーティンやクリスが横から出てきて、僕が受け取る前に断っていた。
「だめだ、呪術の気配がする。あっちは、絶対髪が編み込んであるぞ……」
ザワザワとしていて、クリスの言葉は僕には聞こえなかったが、マーティンが僕から女生徒を離そうとしているので、何か理由があるのかもしれない。
「ごめんね。僕たち急いでいるんだ。祝ってくれてありがとう」
コーディーの笑顔に、「コーディー先輩、可愛い!」と女生徒から黄色い悲鳴が上がった。クリスも愛想よく手を振ってその場を上手く切り抜けている。
「そんなに急いでたっけ??」
「今だけ急いでこの場を離れてくれ。最後だからと、いつもなら大人しくしているキースのファンが、ここぞとばかりに暗躍している気配がする」
「僕のファン?暗躍??」
僕に女生徒のファンがいたなんて初耳だ。僕が後ろを振り返ろうとしたら、マーティンが背後を遮って周りを警戒した。
「終わりよければすべてよし、と言うだろ?今更、変な食べ物とか呪物に触れて体調を壊すとか、嫌だろ?」
「変な食べ物?呪物??」
「キースには、まだ運命の相手は早いってことで、今日のところは早めに帰宅しよう。リアちゃんも王都に来ているんだろ?」
コーディーの言葉に、僕は今朝両親に言われたことを思い出した。
「あ、そうだ、クリス。今夜予定が無ければ、我が家に来ないか?一緒に卒業の祝いをしようと、両親が言っていた。リアもクリスに会えるのを楽しみにしていた」
退寮式も終わり、クリスはエイベル伯爵家が所有していたタウンハウスで生活していた。僕はアドキンズ侯爵家のタウンハウスに住んでいるが、空きが出次第王宮の隣にある近衛騎士団の寮に引っ越す予定だ。
「予定はないから、一度帰宅してから伺わせてもらうよ」
「そうか、じゃあ、そう言っておく。皆、今度はコーディーの結婚式で会おう。そのあとはマーティンの壮行会だね」
皆でもう一度魔法学園を眺めて、僕たちは学園の正門を一緒に出た。これからはそれぞれ目指す場所は違う。それでもこの4人で5年間一緒に学べたことは、今後もそれぞれの力となり助けとなることだろう。
「じゃあ、コーディーの結婚式で会おう」
「ああ、アリス嬢にも楽しみにしていると言っておいてくれ。エヴェも一緒に参列するから。ついでにフレデリックもな」
「フレデリックは、ついでなんだ……。分かった、皆、当日はよろしくね」
5日後、王都の神殿でコーディーとアリス嬢の結婚式が執り行われる。幼馴染同士だが、互いに想い合って婚約、そして結婚。まさに僕の理想そのものだ。
学園生活は充実していたが、結局僕の運命の相手は学園にはいなかったようだ。それだけは入学当時の期待が大きかっただけに、残念な結果だと思う。
いつか僕の運命の相手が現れて、きっと幸せな結婚をする。それを信じて、今は友人の結婚を心から祝おうと思う。
「お兄様、クリスお兄様、卒業おめでとうございます」
リアがそれぞれに綺麗な花束を渡してくれた。朝に庭師と一緒に摘んだ色とりどりの花を、リアが花束にしたのだと、母さんが教えてくれた。
「ありがとう、綺麗だね」
「最近は庭に出られるほど元気になって、僕も嬉しいよ」
リアは、王都まで来られるほど、体調が安定しているそうだ。このまま成長と共に、魔力暴走が収まってくれればいいと願わずにいられない。
「よし、じゃあ、乾杯しよう。クリスは白の魔法使い、キースは近衛騎士団、輝かしい門出に乾杯」
嬉しそうに父さんがグラスを掲げたので、僕たちもグラスを掲げた。料理長が張り切って作った豪華な食事に、母さんが朝から作っていたというケーキも並んでいる。
「ケーキは、リアも手伝ってくれたのよ」
「凄いなリア。とっても美味しそうだよ。食べるのが楽しみだ」
少し恥ずかしそうにリアがクリスを見て頬を染めた。そんなリアを見た父さんが焦って、リアは嫁にはやらんと言って、母さんに本気で怒られていた。
「いいな、キースの家族はいつも仲がいい」
怒られている父さんを見て、クリスが微笑ましそうに僕を見た。確かにうちの家族は仲がいい。だから僕も父さんたちのような出会いを夢見て学園に入学したのだ。結果は惨敗だったけど、いずれ共に笑い合える相手を見つける所存だ。
「クリスもうちの家族同然だろ?父さんたちもそう思っているから、今日ここにクリスを呼んだんだ」
「そうだと嬉しいな。キース、いつも僕を支えてくれてありがとう。君と出会えたこと、マーティンやコーディーと出会えたことが、僕の学園生活の一番の僥倖だったよ」
いつも少し捻くれているクリスが、今日は素直に僕にお礼を言った。僕もクリスを見て微笑んだ。
「僕の方こそ、クリスがいたから辛いことも頑張れた。ずっとライバルでいてくれてありがとう。これからも、変わらずライバルでいてくれよ」
いつもお読みいただきありがとうございます。
このお話も、コーディーとアリスのSSを含めると、残り2話となりました。
不定期投稿ですみません。来週月曜日、水曜日投稿予定です。
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