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第47話 5年生後期

 夏季休暇に入っても、僕たちはそれぞれの課題と研修に追われ、気がつけば後期が始まっていた。

「キース先輩たちは、今年の寮対抗戦ですが、出場されませんか?」

 寮の談話室で、卒業研究発表会の打ち合わせをしていた僕たちの元に、寮長になったエルマーが来たので、僕たちは打ち合わせを止めてエルマーを見た。

「そうか、もうそんな時期か……、それで、今年の種目は?」

「騎士と魔物ゲームに決まりました。去年は、5年生の参加は無かったですが、一昨年は参加されていましたし、僕としても先輩方が参加してもらえた方が心強いです」

 僕たちは困った様に顔を見合わせた。確かに、5年生は自由参加が認められている。しかし、後期の最後の方にある寮対抗戦は、研究発表会の迫った時期でもあるため、ハッキリ言って参加できる気がしない。きっと去年の5年生が参加しなかったのは、出来なかったと言った方が正しいのかもしれない。逆に言えば、5年生で参加したアルベール先輩がすごかったのだ。

「エルマー、そう言ってもらえて嬉しいんだけどね。残念ながら、参加できる余裕がないんだ。この資料の山、これをまとめて、研究発表会に提出するんだ……、ほら、無理だよね」

 目の下に隈をつくった僕たちと資料の山を見て、エルマーは現状を理解したのか、頑張ってくださいと言って去っていった。

「ああ、4年生、楽しかったな。あの時は、こんな1年後を想像出来てなかった。ギルバート先輩もあの時、大変だったんだと思うと、本当に申し訳なかったな。色々相談させてもらっていたし……」

「いや、多分こんなに大変なのは、テーマを天界樹にしたからだと思うけどな。まあ、やり始めたんだ。頑張って最後までやり切るしかないだろう」

 僕たちは資料の山を見て溜息をついた。この天界樹をテーマにした僕たちの研究発表が、後に僕がガレア帝国に行くことになるときに役に立つなど、勿論この時点では想像も出来ていなかった。


 寮対抗戦は、エルマーの頑張りもあって、赤のフェニックス寮が優勝に返り咲いた。雪辱を果たしたエルマーを労い、5年生も一緒に寮で打ち上げが出来たのもいい思い出になった。その後4年生以下の生徒は、後期試験に追われている。これも毎年のことだ。

 そして僕たちは、卒業研究発表会の準備を終えて、4人揃って久しぶりに談話室でのんびりとしていた。

「いや、本当に何とか形になって良かったよ。もう間に合わないかと思った……」

「まあ、安心するのはまだ早いな。研究発表会の評価、結構厳しい時があるそうだしな」

「でも、発表会の時点で落第させられた生徒はいないんだ。ここまで来たら、どんな結果になっても卒業は確約されたも同然だよ」

「取り敢えず、これでゆっくり寝られる。もう当分、徹夜はしたくない……」

 クリスの言葉に、僕たちは互いの健闘を称えて温かいココアで乾杯をした。


 卒業研究発表会は、生徒がそれぞれ一年間調べて研究した内容を発表する場だ。僕たちは4人で分担した天界樹に関する考察、そしてそれぞれが決めたテーマに沿った考察を発表した。

 流石にテーマが壮大な分、内容は広く浅くなった。その分、個人個人が決めたテーマはなるべく深くなるように心がけた。

 僕は聖女が発現する条件や場所、そして祈りの条件などを調べて発表した。ただ、調べれば調べる程、聖女の条件は曖昧で、どうして祈りの場所がガレア帝国でなければならないのかも、疑問に思えてきた。そのことは次の考察として定義するにとどめた。流石に1年で解決できる問題ではない。今後の課題として残った形だ。

 マーティンは他国の天界樹信仰とエリシーノ国における精霊信仰の違いについて考察した内容を発表していた。エリシーノ国は森林が国土の半分を占めており、今でも精霊が多くいる地域だ。特に強いのが緑の精霊で、エリシーノ国では精霊を祀る神殿が多く存在している。同時に、天界樹は瘴気や魔物から国を守っている存在だが、エリシーノ国に天界樹を祀る神殿は存在しない。天界樹の維持は、始まりの天界樹に祈る聖女だけに頼っているのが現状だ。

 コーディーは、天界樹に祈る魔力は聖女のみにあるのか、光属性の魔力が天界樹に反応する可能性はないのか、その親和性について考察していた。実際に天界樹に近づく許可を経て、数名の光属性の生徒が祈りを捧げる試みをして、微弱ながらではあるが親和性を得ることが出来たと報告した。こちらも、1年間ではデータとしては不完全なので、結果だけを報告することに留めていた。

 クリスは白の魔法使いが果たす天界樹への役割について、自分が経験したことを中心に報告書をまとめていた。聖女がいない今、天界樹の状態を管理するのは白の魔法使いの役割となっており、毎日交代で魔法研究所の職員が状態を確認している。異常が見られた場合、対応するのは白の魔法使いの役割だ。現在、大きな問題は起こっていないが、タランターレ国の聖女が現在空席となっていることが、他国からも不安視されていることも事実だ。現在も捜索は続けられているが、見つかってはいない。


 始まりの天界樹の苗木から育った天界樹4柱、その天界樹を中心に4つの国が出来た。それは、どの国でも絵本や建国記として知られている。始まりの天界樹のあるガレア帝国に聖女を差し出すことで、それぞれの国は安定した守護結界を得て、瘴気と魔物から国を守ってもらっている。それも誰もが知っていることだ。

 僕たちが禁書庫で調べた時点で300年間、そうやって国は維持されてきていた。ただ、それ以前も天界樹は存在していたはずだ。その記録は、残念ながら禁書庫には無かった。

 天界樹の存在は国にとっては無くてはならないものになっている。そしてそれは、少なくとも300年間変わらない方法で維持されている。だからこそ、この状況を当たり前だと思っていることに、改めて警鐘を鳴らしたい。

「聖女が発現しなければ、いずれは破綻するかもしれない平和の上に立っている現状に、誰もが知っていながら、危険だとは思っていない。その事に疑問を持っていないと仮定するなら、それは危険なことだと考えました。天界樹の維持を聖女に頼っていることが、当たり前の現在だからこそ、一度その事に立ち返って備えることで、今後も平和を維持できるのではないかと考えました。残念ながら、現時点で有効な手段は見つかっておりませんが、引き続き模索していきたいと考えています。以上で発表を終わります」

 僕が4人を代表して、最後の締めの挨拶を終えると、その場にいた教官たちが手元の用紙に評価を記入していく。その後、何回か質疑応答が繰り返され、無事に応答を終えた僕たちは、緊張を解いて壇上を降りた。


「よし、とりあえず卒業研究発表は終わったな。後は、退寮式、卒業式とコーディーの結婚式か」

 マーティンの言葉に、コーディーがポンポンと肩を叩いた。

「マーティン、それだけじゃないよ。マーティンを送り出すための壮行会もするよ」

「え、俺のはいいよ。なんとか見習いとしてついて行く許可は下りたけど、どうなるかまだ分からないし……」

「まあ、そう言わずにやろうよ。皆で集まれるのもあと少しなんだからさ」

「そうだな。卒業したら、皆それぞれの道に進んで忙しくなるから、サボれる理由はあった方がいいな」

 クリスの言葉に皆で笑った。確かに、クリスは5年生になってほとんど学園に来ることがなくなった。聖女がいなくなった分、白の魔法使いとしての役割が多くなったからだ。

 聖女がいなくても天界樹が正常に機能する仕組みがあればと探したが、300年以前の記録はタランターレ国には無かった。始まりの天界樹があるガレア帝国になら、記録は残っているかもしれないが、あの国は聖女以外の他国の人間を受け入れていない鎖国状態だ。特に現帝王になってからは、その傾向が強くなったらしい。


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