第46話 5年生前期
「皆さん、おはようございます。今日から5年生ですね。就職先が決まっている生徒は、卒業課題の提出、残っている科目のある者は、そちらも落とさないように気をつけてください。追試験はありますが、出題難易度は上がるので、出来るだけ本試験で全て合格点を取るように。特に、卒業課題は重要なので、テーマが決まった者は、担当教官としっかり相談しながら進めてください。こちらは、卒業課題発表会で披露するので、発表の仕方も考えながら進めてください。では、残り一年間、よろしくお願いします」
クラス担任のモリス先生が、僕の方を見てにっこりと微笑んだ。僕は心の中で、モリス先生の顔面を殴ってから立ち上がった。
「今年も、クラス代表になったキース・アドキンズです。5年生はほとんど登校しない生徒もいますが、何かあれば僕に言って下さい。と、いうことで、今年もよろしくお願いいたします」
結局モリス先生は、他の生徒をクラス代表にすることなく、ずっと僕をクラス代表にすることにしたようだ。毎年、次はやらないと言い続けたはずなのに、のらりくらりとはぐらかされ、気がつけばもう5年生だった。今更だから、今年は抵抗することなく甘んじてその役を受け入れた。いや、もう諦めた……
隣のクラスのコーディーは、ちゃんと3年生でクラス代表を次のクラスメートに引き継ぐことに成功していた。つまり、僕の要領が悪かったということなのか?
「いや、違うだろ?モリス先生が面倒くさがりなだけさ」
ブツブツと文句を言って歩いていると、隣で聞いていたクリスが正論を言ってきた。それを言ってしまったら、僕の立つ瀬がないじゃないかとむくれていたら、膨らんだ頬をクリスがつついた。
「きゃっ」
どこからか小さな悲鳴が聞こえて、僕たちは周りを見まわしたが、声の主は分からなかった。
「ねぇ、クリス。僕さ、たまに変な視線を感じるんだけど、特にクリスといると、いつもなんだけど。心当たりはあるかな?」
「あるような、ないような?僕は普段から、いろいろな視線を受けているから、どれが変なのか分からないな」
5年生になったクリスは、文句なしに見事な美青年に成長した。初対面では、美少女ですら敵わないほどの美少女だったが、4年間で身長も伸び、肩までだった艶やかな銀髪は腰までの長さになった。それが中性的な魅力になっているそうだ。(ファンの女生徒談)
「はいはい、モテる男は余裕があっていいね……」
「キースも実はモテているんだよ。ただ、表立って歓迎できるような令嬢がいないんだよね。呪いの恋文とか、自分の髪を練り込んだクッキーとか怪しい贈り物の数々、流石に看過できないから、全員マーティンたちと一緒に協力して追い払ったんだよね……」
「ん?何か言った?」
クリスが溜め息交じりに呟いた言葉は、残念ながら声が小さくて僕には聞こえなかった。
「卒業研究のテーマは天界樹にして、聖女の役割について調べようと思う」
「天界樹か、確かに興味深いテーマだけど、ちょっと壮大過ぎないか?」
僕のテーマに、クリスが難を唱えると、マーティンが賛成だと言うように手を上げた。
「俺はいいと思うぞ。確かに壮大だが、分担すればいいんだ。俺は天界樹信仰と精霊信仰について調べるつもりだ。それに、俺たちには禁書庫という強みがあるじゃないか」
「そうだね。じゃあ、僕は天界樹と光属性の親和性について調べようかな?」
「……分かったよ。じゃあ、僕は天界樹と白の魔法使いの役割について、考察するよ」
「ありがとう、みんな。よし、じゃあ、それぞれ曜日を決めて、禁書庫でおち合おうか。前期に進捗発表があるから、それまでに資料だけでも確保しておきたいからね」
僕たちはそれぞれの予定を出し合い、都合のいい日を決めていった。
マーティンは外交官見習いとして、現在は王宮の外務担当官の下について、いろいろと学んでいるそうだ。一年後、外交官見習いとしてエヴェリーナ嬢の祖国のエリシーノ国に赴任出来るよう、精進しているところだ。
コーディーは医官として王宮に勤めることが決まっているので、時間の許す限り王宮へ出向き、先輩の医官に教えを乞うているそうだ。数年は医官として働き、その後はアリス嬢の生家の領地を継いで侯爵家を盛り立てていく予定だ。
コーディーが医官でいる間は、結婚してアリス嬢と王都にあるタウンハウスで新婚生活を送る予定なので、現在タウンハウスは改装中らしい。幸せそうで何よりだ。
クリスは、5年生になって本格的に白の魔法使いの仕事をしていて、ほとんど学園に来ることがなくなった。寮には帰って来るので、話すのは専ら寮の談話室だ。たまに学園に来ることもあるが、ほとんど魔法学園長室にいる。前に何をしているのか聞いたら、「お茶を飲みながら、サボっている」と言っていた。ずっと魔法研究所にいると、気を使って疲れるのだと愚痴を言っていた。
僕は近衛騎士団で研修を定期的に受け、時間があるときは訓練に混じって体力強化に努めている。闇属性の僕は、近衛騎士団の中でも特殊な任務に着くことが多い第5部隊に配属が決まっているので、覚えなくてはならないことも多い。詳しいことは配属が正式に決まる卒業後だが、渡される資料を読む限り、かなり秘匿性の高い任務が多いようだ。
それぞれのテーマに沿った資料を集めるため、僕たちは禁書庫を利用しながら順調にとはいかないが、何とか前期の間に進捗発表が出来るくらいの資料を集め終わることが出来た。
前期最後に各テーマに詳しい専門の教官たちの指導が入り、その後は後期を使って卒業研究発表会までに論文を書き上げる。いつでも質問は出来るので、気になることは担当教官に聞きに行けるし、数名での共同発表も認められている。僕たちも、ある意味「天界樹」という大きなテーマの中からそれぞれテーマを決めて発表するので、共同発表だと言っても差し支えないだろう。
「天界樹か、確かに面白いテーマだが、大きなテーマ過ぎて要点がぼやける可能性もあるな。聖女の役割に絞って調べるなら、まあいいが、他のことまで範囲を広げないようにな」
担当教官に資料とテーマを提示して、何とかこのまま進めていいという許可をもらった僕は、ホッと肩の力をぬいた。マーティンも許可をもらったのか、資料を抱えて廊下で待っていた。
「許可、出たみたいだな。俺も許可もらったぞ。クリスは先に許可をもらって、今日はそのまま王宮に行くってさ。コーディーは、午後に審査予約だからまだ来てないな」
「そうか。じゃあ、寮に戻って共同研究部分の打ち合わせをしておこうか。マーティンと会える時間も限られているもんな」
「そうだな。外交官見習いなんて、ただの雑用係だからな。時間がいくらあっても足りないくらい雑務が多い」
「外交官見習いも大変だな。近衛騎士団も、体力と気力をゴリゴリ削られるから、昨日も一人辞退するって言い出した奴がいたよ……」
「ああ、聞いたよ。魔法騎士団も早々に辞退者が出たって言っていたし、例年通りなら、5年生の間に半分、良くて3分の2にまで減るらしいからな」
「卒業して正式に採用されるよう、兎に角今は頑張るしかないな」
「近衛騎士団は花形だからな。頑張って生き残れよ」
「う~ん、まあ、努力するよ……」
今週も不定期投稿ですみません。




