第44話 4年後期その2
不定期投稿ですみません。
気がつけば、4年生の後期も寮対抗戦と後期試験が終わり、残るは5年生の卒業式参列だけとなっていた。
寮対抗戦は、健闘したものの結果は僅差で2位だった。ちなみに優勝は、いつも2位になっていた白のユニコーン寮だった。悔しい気持ちは勿論あったが、寮生が頑張ってくれたことは十分伝わってきたし、僕としては思い残すことはなかった。
意外だったのは普段冷静な副寮長のエルマーが、悔し泣きをしていたことだ。きっと彼は来年寮長になって、この雪辱を果たすことだろう。
寮対抗戦後、満身創痍の状態で後期試験に臨み、何とか落第生を出すことなく僕たちは5年生に進級することが決まった。例年は2、3人の落第生がいるそうなので、僕たちの学年は頑張ったと言っていいだろう。
卒業式は、後期試験の5日後に行われる。あまり遅いと、王都近郊以外の領地は雪が積もる地域も多く、領地に帰宅することが困難になる生徒もいるためらしい。
僕たち4年生は、5年生の卒業式に在校生として出席するので、終業式が終わった後も屋敷に帰らずに寮で過ごしていた。
5年生は退寮式も終わったので、ほとんどの生徒が寮を出ている。残っているのは、卒業後遠方で就職が決まっている生徒だ。魔法騎士団や近衛騎士団、王宮関係の就職の場合、タウンハウスや官舎で生活することになる。寮よりは環境も整っているので、卒業するまでに引っ越す生徒が大半だ。
「5年生がいないだけで、寂しく感じるな。まあ、4年生以外は休暇に入っているから、少ないのは仕方ないけどさ」
寮の娯楽室で、閑散とした室内を見てマーティンがぐっと伸びをした。給湯室からお湯を持って来たコーディーが、4人分の紅茶を入れてテーブルの上に置いてくれた。
「ありがとう。コーディーのブレンドティー、美味しいから嬉しい」
「これは、アリス直伝なんだよ。特産品の茶葉と薬草にもなるハーブを入れてあるんだ。健康にもいいし美味しいから、領地の主要産業の一つなんだ」
後継者教育も順調なのか、コーディーが楽しそうにいろいろなハーブティーとブレンドティーを見せてくれた。コーディー自身も、最近は熱心に紅茶やハーブティーの研究をしているそうだ。
「あ、そうだ。来年の卒業式後、予定を空けておいて欲しいんだ。僕が卒業するタイミングで、アリスと結婚することになったからさ。是非皆には参列して欲しいんだ」
「おめでとう。勿論参列させてもらうよ」
「めでたいけど、やけに急ぐんだな?」
マーティンの言葉に、コーディーは少しだけ悪い顔で微笑んだ。こういう顔をする時は、コーディーが何か企んでいることが多い。
「う~ん、そうだね。本当は卒業後、僕の仕事が落ち着いてからと言っていたんだけど、デビュタントしたアリスが、僕の予想以上にモテてさ。ちょっと外野が鬱陶しいんだよね。侯爵家の一人娘だろ?大人しそうなアリスなら、強引に迫れば僕から鞍替えするんじゃないかって、勘違い野郎が領地にいるアリスに手紙や贈り物を贈って来るんだ。勿論即刻送り返すし、抗議文も送るんだけどキリがなくってさ。ってことで、さっさとアリスを自分のモノにする方向で、義父とも話がついたんだ。ちょうどよかったよ。ずっと遠距離恋愛なのが不満だったしね。マーティンの情報のお陰で、憂いも払拭できたし心置きなく挙式の準備が出来るよ」
「……そ、そうか、情報が役に立ってよかった、んだよな?」
笑顔で頷くコーディーを見て、僕たちは内心、きっとコーディーがそうなるように仕向けたんだと思った。口には出さないけど……
「マーティンがエリシーノ国に出発する前に、挙式と披露パーティーをするからさ、皆で参列してくれると嬉しいな」
幸せそうなコーディーに、僕たちは皆で頷いた。
「勿論、喜んで出席させてもらうよ。おめでとう、コーディー」
5年生の卒業式を無事に終え、僕たちは領地へ帰った。今回はクリスも一緒に帰ったが、滞在は5日だけだ。5年生になる準備と研修先になる近衛騎士団への挨拶、面談などが既に休暇中に予定されているのだ。
「お兄様はいいけど、クリスお兄様はもう少しいて欲しいのに……」
すっかり美少女になったリアが、僕に冷たいのはきっと気のせいではない。すっかり家族のようになったクリスは、自分の家のようにリビングで寛いでいるし、その隣には可愛い妹が幸せそうにちょこんと座っている。
「いや、それはどうかと思うよ。リアは僕の妹だよね。お兄様は僕だよね?」
「お兄様は、お兄様よ?クリスお兄様もお兄様よね?」
「うん、そうだね。僕もリアのお兄様だよね」
クリスが勝ち誇った様にリアの頭を撫でている光景に、僕は何故か負けた気分になって、持っていた手紙をぐしゃりと握り潰してしまった。
「……キース、その手紙は?」
「あ、ごめん、クリス宛の手紙だった……。さっきこちらに届いていたんだ」
「伝書蝶じゃないということは、正式な手紙だね」
クリスが手紙を受け取り、そのまま開封して読み進めていく。綺麗な顔の眉間にどんどん深いシワが寄っていくので、内容はあまりいいものではないようだ。
「ごめん、キース。急なんだけど、今から僕は先に帰るよ。リアもごめんね。次はゆっくり出来るようにするからね」
「理由を聞いても?」
「ああ、いいよ。色の魔法使いの会合の予定が早まった。うちの聖女が見つかっていないことが。ガレア帝国から問題視されているから、その対応だと思う。見つかっていないと言うだけで、当のガレア帝国の赤の魔法使いは、毎度欠席しているんだ。意味があるとは思えないけど、我が国の聖女のことだから、文句も言えないけどね」
赤の魔法使いは、ガレア帝国の帝王が務めているらしい。今の帝王は人前に出ることを極端に嫌がるらしく、色の魔法使いの会合にはいつもガレア帝国の代理魔法使いがやって来るそうだ。
「今回はタランターレ国で会合を開くから、準備を前倒しして対応するから、魔法研究所から至急戻って欲しいってさ」
「そうか、それなら急がないとな。リアも、笑顔で送り出せるな?」
「はい、クリスお兄様。次、会えるのを楽しみに待っています。お元気で」
「ああ僕も、リアの体調が悪いのが心配だよ。早く元気になってね。次はリアに似合う髪飾りをお土産に持ってくるからね」
リアの魔力暴走の頻度は、以前より明らかに多くなっている。今は両親がずっと側にいて、発作が起こればすぐに対応が出来るので、数日寝込むだけで済んでいるが、もしものことを考えると僕も不安になる。
クリスの言葉に、嬉しそうに微笑むリアを見て、僕は不安な気持ちにそっと蓋をした。クリスが王都に戻って2日後、僕も王都に向けて領地を出た。
「今日から研修に参加させてもらうことになりました。キース・アドキンズです。よろしくお願いいたします」
休暇の間、近衛騎士団の研修に参加することになった僕は、少し緊張しながら自己紹介をした。




