第41話 4年生夏季休暇
魔法大会、闇属性部門で優勝した僕は、希望通り近衛騎士団のスカウトを受けることが出来た。相変わらず恋愛関係には縁がないが、まずは将来の就職先が大切だ。そう、きっとそうだ。
魔法大会が終わると、夏季休暇前に行われる前期試験対策に追われる。特に4年生の生徒は必死だ。2つ以上の落第科目を取れば、5年生には上がれないのだ。スカウトをもらえた生徒であっても、5年生に上がれなければ、スカウトの話は無かったことになる。
5年生は卒業研究発表会のための研究授業以外は、就職活動と就職先での研修に使用していいので、卒業してはいないが、ほとんどの生徒は学園以外の場所で活動することになる。そう言う意味でも、4年生は学生らしく生活する最後の時期となる。
「なんだろう。学生生活は充実しているのに、当初の目標が果たせていない気がする……」
図書館で必要な書籍を探しながら、僕は少しだけ現状の不満を吐露していた。一緒に書籍を探していたマーティンが、黙って僕の肩を叩いた。
マーティンは、エヴェリーナ嬢と順調なようで、昼食や放課後に仲睦まじそうに一緒にいる姿を見かける。嫌がらせをしていた女生徒は、あれからも鳴りを潜めて現れていないようだ。
コーディーは、入学当初ぽっちゃり癒し系だったのが、規則正しい学生生活と食生活ですっかり痩せ、後輩の女生徒から可愛い先輩として憧れの対象になっているようだ。恋文も貰っているようだが、アリス嬢がいるのでその場で断っているそうだ。
クリスは相変わらず多方面からモテていて、何度かつき合っていたが、あまり長続きはしていないようだ。
「自分より綺麗な男性が隣にいるのに耐えられなくなった」
「見ているのと、実際につき合ってみるのとでは、違っていた」
理由はそれぞれ違うようだが、そのような言葉と共にクリスが振られるようだ。きっとクリス自身を好きになるのではなく、クリスの外見に惹かれた女生徒としかつき合っていないからだと、マーティンとコーディーがクリスに説教をしていた。
僕からしたら、告白されるのも別れるのも経験が無いのだから、それすら羨ましい……、なんて思わない、絶対。
夏季休暇は、白の魔法使いの仕事と、前半にはリアが待つアドキンズ侯爵領へ滞在予定なので、クリスは忙しすぎて彼女もいないようだ。本人曰く、今は彼女にかまっている暇がないらしい。
「それで、キースは運命の相手を待っているの?行動はしなくていいの?」
図書館を後にして寮に向かう途中で、コーディーが気になるように僕を見た。
「行動すると言っても、意中の令嬢がいないんだ。知り合う機会を作る暇もないし……」
クラス代表と寮長、騎士部の活動と成績を維持するための勉強もあるのだ。どこに好みの女性を探す暇があると言うのだ……。そう、これは決して言い訳ではない。
「意中と言っても、知り合うことをしなければ好意すら生まれないだろ?」
「クリスみたいに、知り合っても長続きしないなら同じだろ?僕はじっくり出会うからほっておいてくれ」
「そうか、それは残念だ。控えめな令嬢が、僕にキースを紹介して欲しいと言っていたんだが……」
「え?」
僕が驚いてクリスを見ると、クリスは手に持っていた手紙のようなものを破いて、僕の目の前でパッと炎魔法で燃やしてしまった。
「一応言ったからね。それにしても、この手紙、怪しい呪いの気配がしたし、控えめな令嬢はお薦めしないな」
「怪しい呪い??」
「どうもキースに想いを寄せる令嬢の多くは、控えめと言えば聞こえはいいけど、少し想いを斜め向こうに示す方が多いようだね……」
コーディーの言葉に、僕は意味が分からず首を傾げた。
「まあ、今はいいご縁がないってことで。ほら、寮に戻って勉強の続きをしよう」
誤魔化すようにコーディーに背を押されながら、僕は寮の門をくぐった。
前期試験が終わり、僕たちは夏季休暇のためにそれぞれの領地に戻った。今回はクリスも一緒に領地に帰ってきた。
夏季休暇後半には、王都で社交や夜会に出なくてはならないので、領地に滞在できる期間は短い。デビュタントを終えた貴族の令息は、学生とはいえ意外と多忙なのだ。
気がつけば、僕も17歳になっていた。両親は、僕の誕生日会を派手に行い、そこで婚約者を見つければいいと提案したが、来てもらった令嬢から選ぶのは違う気がしたので断った。まだ17歳になったばかりだ。卒業まで1年半もある。きっと僕の運命の相手はまだ学園に入学していないか、他国にいるのかもしれない。
「お兄様は、ロマンティックな出会いを夢見ているのね。まだお子様ね」
僕が両親に断っている様子を見て、妹のリアがそんなことを言っていたなんて、この時の僕は知らなかった。リアの隣で優雅に紅茶を飲んでいたクリスが、急に咽たので怪訝に思っていたくらいだ。
「リア、それはお兄様には言ってはいけないよ」
「はい、それは分かっています。言ったらお兄様が泣いてしまいます」
コソコソと二人で何かを話していたので、僕がじっと見ると、クリスが慌てて手を振ってきた。何でもないと言いたいようだ。
「残念ね。キースの誕生日パーティーなんて、子供の時以来開いていないでしょう?私たちもなかなか王都には出られないから、いい機会かと思ったのよ」
「気持ちだけ頂いておきます。この歳で誕生日パーティーは少し照れくさいですし……。リアが8歳になった時にしてあげて下さい」
この国では16歳で成人するので、ちょうど半分の8歳で、盛大に誕生日を祝うことは珍しいことではなかった。僕が8歳の時も、王都で盛大に祝ってもらった記憶がある。
「そうか、来年はリアも8歳か。父様たちがリアのために盛大に祝ってやろうな」
父さんの言葉に、リアが嬉しそうに父さんに抱きついた。
「そうね、リアならどの色のドレスが似合うかしら?今から注文したら、サイズが合わないかもしれないわね。でも、女の子の誕生日パーティーは華やかでいいわ」
両親の関心が、僕からリアの誕生日パーティーに移ったことに内心ホッとして、少し冷めてしまった紅茶に口をつけた。
入学当時は、運命の相手を見つけるのだと息巻いていた僕も、流石に17歳になって気づいたことがある。
「運命の相手は、そんなに簡単に見つかるものじゃないから、見つけられたら運命なんだ……」
「ん?何の話だ?」
クリスの問いに、僕は何でもないと首を振った。相変わらずクリスの周りには女性の影が多い。今は精神的にも安定していて、娼館通いもしていないようだ。白の魔法使いの仕事も学園生活も順調だが、どこか危うい雰囲気が常に付きまとっているような気がする。それでも今は幾分、昔より前向きになったと思う。
「お互い、がんばろうな」
「だから、何の話だよ?」
「ん~、まぁいろいろだよ」
僕の言葉に、クリスは納得できないような視線を寄越したが、僕は一人納得して紅茶を飲み干した。
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