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第39話 4年生前期

 冬の休暇が終わって、僕たちは4年生になった。

「キース寮長、おはようございます」

 後輩の寮生が、僕に挨拶をして元気に寮を出ていった。僕は予定通り、指名されて赤のフェニックス寮の寮長になった。そして結局、今年のクラス代表も僕に決まってしまった。そこは誠に遺憾である。

「どうした、ぼんやりして。急がないと授業が始まるぞ。何か考え事か?」

 僕が寮の出口に立っていると、クリスが後ろから来て声を掛けた。

「ああ、5年は長いと思っていたけど、もう4年生かと思っていた」

「そうだな。5年生は授業もほとんどなくなるから、そう考えれば、今年で学生生活はほとんど終わるな」

 5年生は就職先を決めるため、卒業研究以外の授業はほぼ無い。4年生で補習課題を出され、それでも落第した場合、その授業は取らないと卒業できないが、そのような場合でも多くても2つか3つくらいだ。それ以上なら、そもそも5年生に上がれないのだ。

「今年は前期に、4年生の魔法大会があるから忙しくなるな。ほら、行くぞ。遅刻する」

 クリスに促されて、僕は慌てて足を踏み出した。


「さて、今年は君たちも4年生だ。皆も知っての通り、4年生では魔法大会がある。それぞれ、属性別にトーナメント形式で行われ、優勝者には魔法学園長より賞品も出るぞ。勿論、成績優秀な者には、王宮各部署からのスカウトもある。皆、気合を入れて頑張るように」

 魔法学園長の優勝賞品は、貴重な魔石だという噂がある。王宮からのスカウトも魅力的だ。先生の言葉に、生徒は皆盛り上がっている。

「属性が2つ以上ある者は、どの属性にエントリーするか選択するように。今回、複数参加は認められないので、慎重に検討するように。出し忘れに気をつけろよ」

 年度によっては、複数属性を持つ者はエントリーも複数認められていたらしいが、大抵の者が魔力切れをおこし棄権するらしい。試合も同時進行なので、エントリーが重なるとどちらかを棄権することになるため、リスクの方が多い気がする。僕は隣に座っているクリスを見た。

「クリスはどうするんだ?」

「ああ、氷魔法を使いたいから、水属性でエントリーしようと思っている。キースは闇属性。マーティンが風属性。コーディーが光属性だから、皆で戦わなくて済む」

 クリスの言葉に、聞き耳を立てていた水属性の生徒たちがゲッと声を漏らした。二属性持っている生徒は、水属性以外を選択するかもしれない。水属性の優勝者は、何かが起こらない限り確実にクリスになるだろう。

「闇属性は戦い方が地味だから、盛り上がりにかけそうだけど、その点では風や火、水は派手だよな。アルベール先輩の時は、試合会場がもうすぐで炎上するとこまでいったから、ある意味盛り上がっていたよな」

 僕の言葉に、モリス先生が慌てて手を上げたので、皆が先生の方を注目した。

「そうだ、今年から会場を破壊した時点で失格になるぞ。詳しいルールは後で配るが、そのアルベール・ブルックスの試合以降、破壊禁止の事項が追加された。君たちも戦い方は、十分に配慮してくれ。魔法大会の度に、会場を修繕する予算は残念ながらないからな」

 ちなみにアルベール先輩の時は、破壊禁止のルールはなく、ブルックス公爵家が破壊した会場の修繕費用を全額支払い、今後のことも考えて、ブルックス公爵の厚意で保護魔法の込められた魔石が追加されたそうだ。

 勿論その事実は置いておいて、当時のルール的にはアルベール先輩は失格にならなかったため優勝していた。決して忖度ではないはずだ。

 今後も破壊される可能性を考えて、生徒が大暴れしないように破壊禁止のルールが追加されたそうだ。破壊した場合、即失格だ。ただし、破壊に至る経過はちゃんと考慮してくれるそうだ。

「やむを得ずだと判断されれば、失格にはならないが、判断は厳しいと思え。つまり、破壊しないように頭を使って戦えということだ。威力に頼り過ぎると、結果的に破壊してしまって失格になる可能性が高いぞ」

「破壊してしまった場合、修繕費はどうするんですか?」

 生徒の質問に、モリス先生は困った様に頭を掻いた。

「基本的には魔法学園で修繕費用は賄う予定だ。ただ、明らかな破壊行為には、費用の一部を請求することもある。まあ、その辺りのこともルールには書いてあるので、しっかり読んでおくように」

 

 僕たちはそれから一か月間、模擬形式の試合を繰り返し、魔法大会の準備に追われた。そして、無事に会場を破壊することなく魔法大会を終えることが出来た。

「っていうかさ、会場を破壊するなんて、頑張ってもほとんどの人間が無理だと思うんだよ」

 大会が終わった後、風属性部門3位になったマーティンが、呆れたようにそう言った。確かに会場はかなり広く、ブルックス公爵が魔石を追加したこともあり、かなり強固な防御結界が張られていた。ほとんどの生徒が破壊の心配をすることなく戦えたはずだ。

「まあ、例外はいたけどな……」

 僕の言葉に、コーディーとマーティンがクリスの方を見た。

 クリスの出た決勝戦、勝ち上がってきた隣のクラスのクラークは、初めからクリスを目の敵にしており、必要以上に激しい攻撃を繰り出してきた。クリスは防御魔法で防いで、相手にはしなかったが、あそこでクリスがキレていたら、間違いなく会場は破壊されていただろう。

「あとで分かったんだが、クラークの婚約者がクリスのことを好きになったらしくて、婚約者と揉めていたらしい。心当たりは?」

 マーティンの問いに、クリスがそっと目を逸らした。

「……ない、とは言えないけど、誰のことか分からないな。婚約者のいる相手とは関わっていないからね」

 残念ながら、誰かの婚約者がクリスのことを好きになって揉めることは、割とよくあることだった。憧れや、淡い恋心ならいいのだが、本気になってしまう女生徒も少なくないのだ。その場合、怒った相手の婚約者が抗議に来ることがある。クリスとしては、不可抗力のため迷惑な話なのだが、今回はそれが魔法大会の決勝戦で魔法攻撃として行われたようだ。

「クリスが負けるわけはないけど、勢いで破壊して失格になったら、笑い事にならないからな……、無事に勝てて良かったよ」

「理由が分かって、何故あんなに怒っていたのか理解したけど、それって僕のせいじゃないよね。それで、その婚約者とはどうなったの?」

 マーティンが、呆れたように手を振った。

「クラークのやつ、あの試合で怪我をしただろ?相手の婚約者も反省して、今は大人しくなったそうだ。ただ、クラークは納得していなくて、もしかしたら婚約破棄するかもしれないな」

 その魔法大会で準優勝したクラークは、急にモテだしたらしい。他の男性に熱を上げる婚約者より、自分のことを好きだと言ってくれている女生徒に気持ちが傾きだしているそうだ。

「それって、結局自分も婚約者を愛していなかったってこと?それはちょっと嫌だな」

 コーディーの言葉に、確かにそうだなと思った。だがしかし、それより重要なことがある……

「準優勝したクラークがモテてるなら、闇属性部門で優勝した僕だって、モテていいと思うんだけど、どうして誰も来ないんだ⁈」

 僕の心の叫びに、皆は可哀そうなものを見る目をして無言で微笑んだ。クリスが、僕からそっと目を逸らしたのが、地味に一番傷ついたけど、それは悔しいから言わなかった。


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