第36話 寮長会議
「では、今年の寮対抗戦の種目決めの会議を始めよう」
各寮の寮長、副寮長が一堂に会し、円卓に座っている。昨年の緑のグリフォン寮副寮長セオ・エイマーズ先輩は、今年は寮長として出席していた。
「各寮、希望の種目があれば、挙手を」
議長役のギルバート先輩が、各寮に意見を促した。初めに挙手したのは白のユニコーン寮長だ。近年2番手、3番手に甘んじているため、今年こそ優勝したいという意気込みを感じられた。
「わが寮は、宝探しを希望する。前にもやっているし、運営方法も前例があるから進めやすいだろう」
前回、宝探しでは僅差で赤のフェニックス寮が優勝したが、獲得した宝箱は白のユニコーン寮が上だった。宝箱の中には得点にならない空箱が入っていたからだ。ある意味、運で優勝が決まる部分があった。
「ただし今回は、空箱は無しにして、獲得した宝箱で得点を決めたい」
白のユニコーン寮長の意見に、他の寮が少しだけざわついた。
「他の寮の意見や他の提案は?」
ギルバート先輩の言葉に、青のドラゴン寮長ウィリアム・ホール先輩が挙手した。
「わが寮は、騎士と魔物ゲームを提案します」
騎士と魔物ゲームとは、騎士チームが魔物チームを追うゲームだ。制限時間までに、騎士チームが魔物チームを捕まえ、捕まえた人数、逃げ切れた人数で勝敗が決まる。
「各寮、魔物と騎士、どちらもすれば、公平になると考えています」
平民の子供たちの間で、よく遊ばれているゲームだ。遊び慣れている平民の方が有利になるかもしれない。そう思っていたら、緑のグリフォン寮長が同意するように頷いて挙手をした。
「緑のグリフォン寮も、騎士と魔物ゲームがいいと思っています」
寮対抗戦の種目決定は投票制だ。各寮の寮長、副寮長それぞれが1票を持っている。前回は緑のグリフォン寮の提案に、青のドラゴン寮が同意して4票を獲得したらしい。
「やられた……」
小さな声でギルバート先輩が悔しそうに呟いた。おそらくだが、前回緑のグリフォン寮は事前に青のドラゴン寮と話し合いをして、協力関係にあったのではないだろうか?そして、今回はそのお礼として青のドラゴン寮の希望する種目にすると合意していた可能性が高い。
「赤のフェニックス寮は……、ボードゲーム大会を提案する。では、全ての希望が揃ったので、投票に移る」
トーナメント方式でボードゲームを提案したが、ボードゲームは貴族子息の遊びだ。平民の子供は知らないものも多いだろう。明らかに貴族有利な提案だと僕は内心思っていたが、赤のフェニックス寮を勝たせろというアルベール先輩の無言の圧力に、ギルバート先輩が出した苦肉の策だった。
「投票の結果、4票獲得した騎士と魔物ゲームに決定しました。各寮次の会議までに、運営方法を考えておいてください。では、これで解散……」
ギルバート先輩が、ぐっと老け込んだような顔で、会議を解散した。きっと夏の休暇中、どうすれば寮対抗戦に勝てるのかを考えて胃を悪くするのだろう。
「それにしても、セオ・エイマーズ先輩、凄くやり手だ」
後に、魔法学園を卒業したセオ・エイマーズは王宮の文官になり、平民の星と呼ばれる出世を果たすのだが、それはまだ未来の話だ。
「ただいま、リア。元気にしていたかい?」
会議が終わり、僕はそのままアドキンズ侯爵領へ帰ってきた。出迎えてくれた妹のリアは6歳になり、僕の予想を裏切らない美少女になっていた。ピンクの愛らしいワンピースがとても似合っている。
「お兄様、おかえりなさい。私は元気でした。お兄様も元気そうで良かったです」
「リア、背も伸びて言葉遣いもすっかりレディになったね……嬉しいような、寂しいような」
僕が褒めると照れくさそうに僕の顔を見て、落ち着かない様子で周りを気にするようにそわそわとしている。
「ああ、クリスは、夏季休暇後半に来るよ。前半は仕事が溜まっているそうだ。リアに会えるのを楽しみにしているってさ」
「そうですか……」
残念そうに眉を下げ、リアはそのまま屋敷の中へ入っていった。可愛いワンピース姿は、僕のために着飾ったのではなく、クリスの為だったのかと思うと、少し複雑な気持ちになった。
「クリスがリアに本気になることはない。ここは兄として、妹の初恋を静観する方がいいよな……」
下手に邪魔をして、お兄様のせいで失恋したと思われたら、ずっと恨まれそうだ。それは流石に辛すぎる。
クリスがリアを妹のように可愛がっているとしても、そこに恋愛が存在する余地はない。リアは可愛いが6歳だ。年上の守備範囲が広いクリスでも、子供には流石に手は出せないはずだ。(出した時点で僕はクリスを闇に引きずり込むつもりだ)
「よし、クリスが来ても、平常心で乗り越えよう」
夏季休暇の後半、クリスは可愛らしいウサギのぬいぐるみを抱えて、アドキンズ侯爵領へやって来た。リアはプレゼントされたぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめて、クリスにお礼を言って微笑んだ。
「ウサギとリアの組み合わせ、最高に可愛いな」
満足そうに微笑んだクリスの言葉に、僕は疑いの眼差しを向けてしまった。
「まさか子供も……、いや、まさかそれはないよな」
「何か言ったか?」
「いや、別になんでもないさ」
休暇中、リアはクリスによく懐き、どこに行くのも一緒だった。父さんと母さんも、久しぶりにやって来たクリスを歓迎して、家族同然に過ごしていた。僕だけがリアの初恋が実ることを心配して、悶々としていた。
「クリス、僕は君のことを信じていいんだよな」
「よく分からないけど、キースが僕を信じてくれるなら、僕は裏切らないはずだ」
「そうか、そうだよな」
父さんの特訓に二人で励みながら、僕は何度も自問自答した。
どうしてこんなにクリスとリアのことを気にしているのか?何度否定しても、二人が一緒にいる場面を見るたびに思うのだ。「今は違っても数年後、リアは美しい淑女になるんだ……その時は?」と。
「どうしたの?キース。ずっとリアとクリス君を見ているのね」
遊ぶクリスとリアの様子を見守っていると、母さんが僕の隣にやって来た。
「母さんは、運命の相手って信じますか?」
何となく口をついて出た言葉に、僕はハッとした。なんだ、運命の相手って……
「素敵ね。運命の相手なんて。そうね、私は信じているわ。だって、私にとって、あなたのお父さんが運命の相手だと思うもの」
父さんと出会う前、母さんには内々にだが婚約者候補がいたそうだ。でも、魔法学園で父さんと出会い恋に落ちた。婚約者候補だった男性との話は、父さんが現れたことで円満に解消され、父さんと結婚出来て幸せなのだと、母さんは堂々と息子に惚気話を聞かせた。僕はウンザリしながら、いつものセリフを言った。
「はいはい、何度も聞いています。幸せで何よりですよ、母さん」




