第35話 3年生 夏季休暇
お待たせしました。投稿再開させていただきます。
マーティンとエヴェリーナ嬢のことが落ち着き、僕たちは前期試験の勉強に取り掛かった。試験が終われば、夏季休暇に入る。3年生からは、落第点を取れば補講に出て再試があるらしい。
「3年生は専攻学科が多いから、皆で助け合う科目も少ないな。先輩方のノートが回って来たらいいけど……、今年はどうかな?」
授業を持つ担当教官によっては、試験範囲が毎年同じ傾向になるらしく、そういう科目は先輩たちが後輩にノートや過去の試験用紙を回してくれる。お礼はその先輩によって違うが、大体は高級な菓子などをノートと一緒に返還する者が多い。
「ねぇ、ドートン先生の薬学専攻の先輩、何処かにいないかな?僕の知り合いにはいないんだ……」
コーディーが困った様に溜息をつくと、クリスが持っていた鞄から数冊のノートと試験問題を取り出して、コーディーの前に出した。どれも薬学のノートのようだ。
「ええ?これ全部??」
「ああ、先輩たちが貸してくれた。お礼は休みの日に、街に一緒に行って欲しいって」
クリスが何でもないことのように微笑んだ。ノートに書かれている氏名は、どれも女性のものだった。高級菓子ではなく、クリス本人を所望する、ということだ……
「相変わらずモテるな。名前を見るかぎり、美人で有名な先輩ばかりだ」
マーティンの言葉に、クリスはフッと笑って言い返した。
「運命の恋人が出来た男が、何言っているんだよ。エヴェリーナ嬢に言いつけるぞ。マーティンが羨ましがっていたって」
「うっ、それはやめてくれ」
マーティンが本気で焦ってクリスの肩を抱いた。クリスは楽しそうに笑っているし、コーディーもノートを手に入れて満足そうだ。そこで僕はハッと我に返った。
「あれ、もしかしてだけど、僕だけ……?」
そう、僕だけ学園に入学して、恋や愛と関わり合っていない。好きな子も、いいと思った子とも出会えていない。出会うイベントすらなかった。クリスは除外するにしても、コーディーは婚約者のアリス嬢と順調だというし、僕と同じだと思っていたマーティンは、運命の相手が現れて一足飛びに恋人ができた。
「どうした?」
「もう3年生の半分が過ぎようとしているのに、僕だけ女生徒と関わっていないんだ。友人すらいない、と今さらだけど、気づいたんだ」
「何だ、本当に今さらだな。キースは1年生から部活動やクラス代表をしていたし、3年生からは副寮長もしているんだ。成績も学年トップをキープするために、勉強も頑張っていたら、どこに知り合う時間があるんだ?」
クリスが、時間が無くて当たり前だと言ったので、僕はクリスを睨んだ。
「クリスだって、白の魔法使いの仕事をしているのに、関わり合っているじゃないか……」
「別に関わりたいわけじゃないさ。あっちが寄って来るだけだ」
ニヤリと笑われて、僕はぐぅっと声が漏れた。確かにクリスから女生徒に関わり合いに行ったことはなかったように思う。つまり……
「……僕がモテないってことなのか?」
「いや、それは違うかな?キースは付け入る隙がないんだよ」
コーディーが僕を励ますように肩を叩いた。
「そうだな。隙がない鉄壁の貴公子。アドキンズ侯爵家の嫡男で、成績優秀、性格もいいし容姿も整っている。誰もがお近づきになりたいはずだ。ただ、残念ながら近づく隙が無い。常に俺たちが近くにいるし、そこら辺の美女より綺麗なクリスがいるんだ。キースは女性の理想も高いんじゃないかと、勝手に予測して敬遠されているのさ」
マーティンの言葉に、僕は複雑な心境になった。勝手に作られた理想の貴公子像のために、女生徒に距離を取られているのだとしたら、僕にはどうしようもないじゃないか。
「キースが運命の相手を求めるなら、それは無理やり出会うものではないんだよ。出会うつもりがなくても、その時が来たらきっと出会えるさ」
マーティンの実感がこもった言葉に、僕は不思議と納得してしまった。
「そうか、わかった。待つよ、その運命の相手を」
僕の言葉に、クリスがニヤリと笑った。
「ふ~ん、必要なら女生徒を紹介しようかと思ったけど、運命の相手を待つのなら、それはやめておくよ」
クリスの言葉に、僕の決心はすぐに揺らぎそうになったが、ぐっと我慢した。
「……、待つ、今はいい……」
前期試験は、無事に終わり僕たちは夏季休暇に入った。リアとの約束があるクリスが、アドキンズ侯爵領に来るのは夏季休暇の後半になった。流石に前回のように一か月滞在することは出来ず、半月ほど滞在予定だ。休暇の前半は白の魔法使いの仕事を片付け、終わり次第領地に行くと言って、クリスは王宮へ向かった。
マーティンは、領地にいる両親にエヴェリーナ嬢とフレデリックを紹介するそうだ。エヴェリーナ嬢はエリシーノ国の精霊の加護持ちだ。マーティンと出会い、真実の愛を育んでいる最中だが前途は多難だ。
緑の精霊が真実の愛を認めれば、呪いのような加護は無くなるが、エヴェリーナ嬢が精霊の愛し子であることには変わりがない。彼女と結婚するには、いくつかの越えなければならない壁がある。まずはマーティンの両親を納得させるところから始めるそうだ。
コーディーは、婚約者の領地で後継者になるための勉強を始めている。卒業後は王宮の医務官になる予定だが、アリス嬢と結婚後時期を見て爵位を継ぐため、現在はそのための準備に追われている。久しぶりに婚約者に会えると、コーディーは幸せそうに帰っていった。
僕は、後期に開催される寮対抗戦の打ち合わせ会議に参加してから、リアの待つアドキンズ侯爵領へ帰る予定だ。
寮対抗戦は、僕が1年生の時は宝探しで、2年生は雪合戦だった。演習場に氷魔法を使える生徒や教師が雪を降らせ、積もった雪を使って寮対抗で雪合戦をした。
1年生の宝探しの時は赤のフェニックス寮が優勝したが、2年生の雪合戦は緑のグリフォン寮が優勝した。勝因は、平民が雪や寒さに我慢強かったことだろうか。最初こそ赤のフェニックス寮も戦略を立てて優勢に戦いを展開していたが、多くの貴族や金持ちの子息は長時間雪の降る寒空に耐えられなかったのだ。
北の地域に位置するタランターレ国だが、雪の降る季節、貴族は暖かい屋敷に籠ることが多く、直接雪に触れる機会はほとんどない。例に漏れず赤のフェニックス寮の寮長アルベール先輩は、火属性のためなのか特に寒さに耐性がなく、無意識に炎魔法を出してしまい退場になった。寮対抗戦は魔法禁止なのだ。そこからあっという間に統制が崩れ、わが寮は残念ながら敗北した。
寮対抗戦の種目は、その年の寮長、副寮長が集まり話し合いで決める。ちなみに雪合戦を提案したのは、緑のグリフォン寮の副寮長だったそうだ。つまり、彼の作戦勝ちだ。優勝賞品として、魔法学園長に1年間食堂にデザートが無償提供される権利を希望したそうだ。どうやら彼は甘党だったらしい。
このことからも寮対抗戦は、会議でどれだけ自分たちの寮に有利な条件を出すかが重要だということが分った。今年の会議は荒れるだろう。アルベール先輩は就職先も決まっているので、今年も去年の雪辱を果たすため参加する気満々だ。新しく寮長になったギルバート寮長には、それがかなりのプレッシャーになっているようで「胃が痛い、ハゲそうだ」というのが、ここ最近のギルバート寮長の口癖になっていて少し気の毒だ。
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