第32話 運命の相手
「それにしても、エヴェリーナ嬢はこんなにキラキラ輝いていて、さすが精霊の加護持ちは別格なんだな」
マーティンが感心したように言った言葉に、僕たちはピシリと固まった。
「あ、あの、マーティン様。エヴェがどのように輝いて見えているか、参考までにお伺いしてもいいでしょうか?」
フレデリックは内心焦っているはずだが、ごく自然にマーティンに質問をした。僕とクリスはその様子を黙って見守ることにした。
フレデリックは、先ほどクラスの紹介の時に一つだけクラスメートに聞いたことがあった。『エヴェリーナのことが、光輝いて見えている方はこの中にいらっしゃいますか?』クラスの中に、光って見えると答えた者はいなかったので、その場はそれで終わったのだが……
「どのようにって……」
マーティンがフレデリックの問いに、エヴェリーナ嬢の方をじっと見た。エヴェリーナ嬢は緊張したように、身じろぎもできずにマーティンの方を見た。
「そうだな、銀色の光の中に、薄く緑がかった光が混じっていて、とても綺麗だ、と思うけど。これ、なんのための質問なんだ?」
「あ、えええっと、そうですね、なんとなく、そう、なんとなく気になっただけです。気にしないで下さい」
「あ、マーティン。そういえばコーディーは?」
「ああ、そうだ、コーディーのところに行く途中だったんだ。今年もコーディーがクラス代表になって、先生に手伝いを頼まれていたから、手伝おうと思ってさ」
どうやら隣のクラスのコーディーも、クラス代表3年目に突入したようだ。担当教官が持ち上がりだからと言って、クラス代表まで持ち上がる必要はないはずだ。僕は絶対後期はクラス代表を辞退しようと、そっと心に決めた。
「そうか、じゃあ早く行った方がいいね。僕たちも二人を校内案内している途中なんだ。また、あとでね」
「おう、じゃあまた後でな」
僕たちは少し強引にマーティンを見送って、ホッと息を吐いた。
「それでは改めて、フレデリック。先ほどの件、説明してもらえるかな?」
クリスがフレデリックの方を見て、有無を言わさない雰囲気で微笑んだ。
「はい。伝承によると、運命の相手には、緑の加護が光って見えるそうです。エヴェが運命の相手を見つける方法はないので、今まではエヴェの声に反応しない男性を闇雲に探すしかなかったのですが……」
「声に反応しない?今の話だと、マーティンがエヴェリーナ嬢の運命の相手だと言っている様に聞こえるけど、それで合っている?」
「はい、まさにマーティン様が今のところ最も有力な候補です。後は、エヴェの声を聞いて惑わされなければ、確実にそうだと断言できます」
「運命の相手って、出会った瞬間に恋に落ちるのかと思ったけど、全然普通だったよ?本当にマーティンで合っている?」
「それは、今後の発展に期待ですね。運命の相手と言っても、エヴェの声を聞いても惑わされず、相性がいい相手なだけで、いきなり恋に落ちたりはしません。幸いエヴェの方は、マーティン様のことを気に入っているようなので、マーティン様には運命の相手だとは言わないで欲しいのです。出来れば自然に想い合うことが理想なので……」
エヴェリーナ嬢は恥ずかしそうに、ポッと頬を染めて頷いた。マーティンはクリスの美貌に隠れて目立たないだけで、友人の欲目で見なくても、十分に格好いい男だと思う。エヴェリーナ嬢の第一印象は良いようだ。
幸いマーティンにも決まった婚約者はいないし、早く彼女が欲しいと言っていた。だからと言って、いきなりエヴェリーナ嬢が運命の相手だと言われても、「はいそうですか。婚約しましょう」とはいかないだろう。
「分かった。僕たちは秘かに見守ることにするよ。エヴェリーナ嬢、健闘を祈る」
エヴェリーナ嬢はコクリと頷いて、可愛らしい笑顔を見せた。おそらくだが、彼女の容姿はマーティンの好みにぴったりと合っている様に思う。あとは、出来るだけ話せる機会を作って、お互いを知ることが出来れば、案外上手くいくような気がした。
「コーディー、今日もマーティンは一緒じゃないのか?」
一人で昼食を取りに戻ってきたコーディーが、お手上げだという仕草をしたので、僕たちは顔を見合わせて仕方ないかと苦笑いを浮かべた。
今日もマーティンは、エヴェリーナ嬢と一緒に昼食をとっているようだ。昼食以外でも、放課後寮に戻らなければならない門限ギリギリまで、マーティンは帰ってこないことが多くなった。
最初こそ、偶然を装って二人を会わせてみたり、話す機会を設ける手助けをしていたが、二人は予想以上に相性が良かったのか、途中からは僕たちが何かするまでもなく、急速に仲を深めていった。
当初心配していた声の問題も、初めてエヴェリーナ嬢が話しかけた時点で、惑わされることなくあっさり解決していた。少し離れた場所で、忘却魔法をかける準備をしていたクリスが少しだけ間抜けに見える程に……
「マーティンは、恋で周りが見えなくなる輩とは違うと思っていたけど、真実の愛とやらの威力は凄まじかったようだな」
クリスの言葉に僕たちは激しく同意した。緑の精霊の加護がそうさせているのか、二人が本当に真実の愛で結ばれているからそうなのかは分からない。でも、マーティンとエヴェリーナ嬢の幸せそうな様子を見ていたら、呪いのような加護も悪くないような気がしてくるから不思議だ。
「あとは、厄介なことを出来るだけ速やかに排除すれば、案外早く精霊の加護の問題は解消されそうだけど……どうしようかな」
「マーティンの隠れファン、何とかしないと危ないよね」
マーティンのことを秘かに想っていた令嬢たちが、急に現れマーティンと急接近したエヴェリーナ嬢を良く思わないのは仕方ないことだと思う。しかし、その中の過激な令嬢たちが、エヴェリーナ嬢に嫌がらせをしているのは看過できない。
マーティンもそれには気づいていて、エヴェリーナ嬢が気づく前に何とか処理していたようだが、その行為も回数を重ねるごとに悪質になり、マーティンだけで防ぐのが難しくなっている。
「このままだと、エヴェリーナ嬢が怪我をするか、怒ったマーティンが令嬢に怪我をさせるか。どっちが早いか分からないな。もちろん、そうなる前になんとかしないと……」
「さっさと婚約すればいいじゃないか」
クリスの言葉に、コーディーがそれは無理だと首を振った。
「それも、少し問題があるみたいだよ。マーティンは伯爵家の嫡男だから、エヴェリーナ嬢の住むエリシーノ国には行けない。でも、エヴェリーナ嬢は緑の精霊の加護持ちだから、留学期間が終われば国に帰らなければいけない。真実の愛で加護が消えると言っても、精霊の愛し子だという事実は変わらないらしいから、エリシーノ国が、エヴェリーナ嬢をタランターレ国に嫁がせる許可を出すことは難しいって」
「やっぱり、真実の愛も精霊の加護も、面倒くさいな」
クリスの呟きは聞かなかったことにして、僕たちはマーティンの隠れファンをどうするか相談することにした。婚約、結婚も大事だが、当面の問題解決の方が急務だ。マーティンは友情にも愛情にも熱い男だ。自分の大切なものを害されたら、きっとか弱い令嬢でも容赦しないだろう。




