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第31話 緑の精霊

「確か10歳です。僕たち二人、森で迷子になったんです。その時に精霊様がエヴェを気に入ったらしいです」

「らしい?」

「当時、僕は気を失っていて、気がついた時には、エヴェの髪の一部が変化していました。その後、大人たちが探しに来て、精霊様の加護だと大騒ぎになったんです」

「……あのさ、もしかして、エヴェリーナ嬢は話せないのかな?さっき、自己紹介の時もフレデリックが話して、エヴェリーナ嬢は一言も話していなかったよね?」

 最初から彼女の態度には違和感があった。でもモリス先生は、エヴェリーナ嬢が喋れないとは言っていなかった。だから、喋れないのではなく、話さないのではないかと思ったのだ。

「それは……」

 フレデリックは、エヴェリーナ嬢を見て事情を話すかどうか、伺うような素振りをした。エヴェリーナ嬢は静かに頷いて、首に着けていたペンダントをクリスに見せた。

「それは魔道具かな?微かに魔力を帯びている」

「これは、声を封じるための魔道具です。事情があって、エヴェは話すことが出来ないんです」

「事情……?」

「緑の精霊の加護は、魅了、なんだろ?」

 フレデリックが、事情を話すかどうか迷っている間に、僕たちの後ろから声が聞こえた。

「え?マーティン?」

「緑の精霊が気になって、さっき図書館に行ってきたんだ」

「調べたのですか?いや、でも、緑の精霊のことが載っている本なんて、エリシーノ国にもほとんどないのに?」

「ああ、裏技みたいなもんだ」

 どうやらマーティンは、図書館の禁書庫に行ってきたようだ。あそこであれば、精霊関連の禁書も揃っていたのだろう。

「緑の加護を得たものは、声で人を惑わす。と書いてあった。つまり、禁術の魅了のようなものだよな?」

「……あの、この方は?」

「あ、ごめん。僕たちの友人のマーティン・ユーイング伯爵令息だよ。情報収集が趣味なんだ。身元は確かだし、言いふらすようなことはしない。それは僕が保証する」

 不審者を見るような目でマーティンを睨んでいたフレデリックは、僕の説明に少しだけ緊張を解いた。

「エヴェの声を聞いた者は、男女年齢関係なくエヴェを妄信的に愛してしまうのです。森に救助に来た大人たちがエヴァの声を聞いた途端に、いきなりエヴェを奪い合いました。幸い、加護の力は血縁関係にある者には効果がありませんでしたが、事態を重く見た祖父がエヴェに話すことを禁じたんです」

「緑の精霊は、自分の気に入った人間に加護を与える。緑の精霊はその人間を愛している。だから、他の人間も同じように愛するよう魅了をかける。その方法が声だったんだな。でもその時、魅了にかかった大人たちはどうなったんだ?」

「緑の魔法使いである祖父が、忘却魔法をかけてエヴェの声を忘れさせました」

「なるほど、声を聞いた記憶を消すのか……。だが、忘却魔法は高度な魔法だ。誰でも使うことは出来ない、だから魔道具で話すことを禁じたのか」

 エヴェリーナ嬢が困った様に俯いた。10歳の頃から話すことを禁じられ、15歳になった今も話すことを禁じられている。それは加護というより、呪いのようだ。

「精霊の加護は、ずっと続くのかな?」

「いえ、言い伝えによると、真実の愛で加護は消えるそうです」

「真実の愛⁈」

「それはまた、面倒くさい話だ」

 クリスの率直な感想に、僕は慌ててクリスの脇腹を肘でついた。思いのほか強く当たったようで、クリスは小さく呻いた。

「あ、気にしないでいいですよ。本当に面倒なのです。国内でその真実の愛を探そうとしたのですが、精霊の加護のせいで、エヴェの奪い合いは起こっても真実の愛には至らず、何度も騒動を起こすエヴェはすっかり呪いの娘扱いで、国内の男性からは嫌厭されてしまったのです。それで、国外に望みをかけました」

 声を聞いた男性が、エヴェリーナ嬢を愛したとしても、それは加護のせいであって真実の愛ではない。それに声に魅了された男性を、エヴェリーナ嬢が愛せるかと考えると、それも無理な気がした。

「国外といっても、タランターレ国以外にも国はあっただろう?どうしてここなんだ?」

 マーティンの問いに、フレデリックは一瞬迷ったようだが、諦めたように僕たちを見た。

「我が国では、いろいろな場面で魔女の占いを頼ることがあります。緑の魔法使いの妻、つまり僕たちの祖母も占いを得意としている魔女です。その祖母が占った結果、エヴェの運命の相手はタランターレ国の魔法学園にいるという結果が出ました。それで、3年生から急遽留学することになったのです」

「魔女の占いで運命の相手を……?」

 タランターレ国でも占いをする者はいるが、あくまで占いは占い。当たるとは限らないものだ。女生徒が恋占いをしたり、試験前には試験問題を占う奴もいるらしい。それが当たるなら、苦労はしない。

「もちろん魔女の占いはあくまで占いであって、絶対ではないと分かっています。それでも、その占いに頼るしかないほど、我が家は追い詰められている状況です。詳しい事情までは、ここではお話しできませんが、ご助力いただけると非常に助かります。この国に来たもう一つの理由は、この学園に白の魔法使いがいたからなのです」

 真剣な眼差しでクリスを見るフレデリックとエヴェリーナ嬢に、クリスは若干引き気味の様子だ。顔には面倒なことには関わりたくないと書いてある気がする。

「もしかして、声に惑わされた生徒を、クリスに忘却魔法をかけてもらおうと思っている、とかかな?」

 僕の問いに、フレデリックは気まずそうに頷いた。エヴェリーナ嬢も申し訳なさそうに項垂れている。

「急遽留学が決まったので、祖父から受けていた修業が間に合わず、僕の忘却魔法は中途半端な状態でしか発動できないのです。下手に使うと、エヴェの声だけでなく、自分が誰だったかも忘れてしまうので、祖父には使わないように厳命されています」

「それは怖いな……、間違っても僕たちに使わないで欲しいな。ところでクリスは忘却魔法、使えるの?」

「ああ、一応使えるよ。施設で面倒ごとに巻き込まれた時、忘れさせる方が手っ取り早いと気がついてから練習して、12歳くらいで習得した」

「エヴェの声を聞いた部分だけ忘れさせるには、細かい技術が必要になりますが……」

「ああ、分単位では試したことないけど、1時間単位でなら可能だ。だけど、常に僕がいることは不可能だよ。僕は白の魔法使いの仕事もしているしね」

「もちろん分かっています。基本的には、エヴェは喋りません。万が一、なにか起こった時に、クリスがいてくれると、心強いと思っているだけです」

「まあ、そういうことなら、わかったよ」

「ありがとうございます!」

 二人はホッとしているが、それだけではここに来た目的が果たせないはずだ。学園にいる男子生徒だけでもかなりの数だ。まさか一人一人に確認するわけにもいかないだろうし、声を封じられているエヴェリーナ嬢が、どうやって運命の相手を探すのか気になった。話しかける度に、クリスに忘却魔法を使わせるわけにもいかないだろうし、人道的に考えても忘却魔法を使うのは最後の手段だと思う。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

よければブックマーク、評価もよろしくお願いいたします。

エヴェリーナ嬢のお話は、エヴェリーナ嬢を主人公にして、別のお話で書きたいと思っています。

なので本編では、サッと状況説明することが多くなります。想像力でカバー、よろしくお願いいたします。

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