第30話 3年生前期 精霊の加護持ち
「皆、元気だった?」
長い冬の休暇が終わり、春になって僕たちは3年生になった。
「おお、元気だったさ。それより、キースが赤のフェニックス寮副寮長に決まったんだって?」
3年生が副寮長、4年生が寮長。それがこの学園の伝統だった。例外だったのは、前寮長のアルベール先輩くらいだろう。彼だけは、3年生4年生連続で寮長をしていた。
流石に、最終学年である5年生は、後輩にその座を譲ったようだ。寮長は前寮長が指名することが通例で、副寮長は指名された寮長が指名する。
今年の赤のフェニックス寮長は、マッド侯爵家のギルバート先輩だ。彼は侯爵家の次男で、令息の交流会で何度か会ったことがある。指名されるほどの面識はないと思うが、フェニックス寮生の3年生の中に、僕より身分の高い令息はいない。コーディーも侯爵令息だが三男で、他にも次男がいた。嫡男の僕を指名するというのは、忖度以外の何物でもない気がする。
「新学年が始まる10日前に、突然知らせが来たんだ。噂には聞いていたけど、実際に来たらびっくりさ」
「順当にいけば、4年生で寮長になるのはキースか。楽しそうだね」
「皆、他人事だと思って……。副寮長も寮長もいろんな行事や会議に参加するから、大変なんだよ……僕は今から気が重い……って、なんか騒がしいな?今日は始業式以外何もなかったよな?」
学園の校舎入口付近に人だかりができていて、数名の生徒が囲まれているのが遠目にもわかった。
「ああ、留学してきた他国の生徒だよ。今年は身分も見た目もいい生徒が多いらしくて、縁を繋ぎたい生徒が群がっているんだろ?」
魔法学園は5年で卒業資格を得られるが、5年は長い。他国から留学してくる生徒は、5年間学ぶか3年間学ぶかを選択できるそうだ。ほとんどの生徒が、3年生からの中途留学を選ぶらしい。自国で2年魔法学園に通っていた生徒が、3年生でタランターレ国に移籍し卒業する5年生まで勉強する。卒業後は、タランターレ国で就職する者もいるし、自国に戻ってタランターレ国に関連する職業に就く者も多いらしい。
「今年は、エリシーノ国の生徒の中に、精霊の加護持ちがいるらしい」
「精霊の加護持ち?」
エリシーノ国は、タランターレ国より西にある国で、天界樹の信仰以外に精霊信仰が盛んな国だ。国土に広大な森林を有し、精霊や妖精の存在も確認されているらしい。精霊や妖精は、自分の気に入った人間に気まぐれに加護を与えるそうだ。
「へぇ、その加護って、何か特徴とか、特殊能力があるのかな?」
「特徴的なのが、髪の一部が加護した精霊の特徴になるらしい。緑の精霊なら髪の一部が緑に、風なら青に、だったかな?能力は加護された精霊の属性強化ぐらいで、二属性持ちとそう変わらないはずだ」
「マーティンがそんなに詳しいとは意外だね。隣国のことまで、興味があるの?」
コーディーの疑問に、マーティンがにやりと笑った。
「加護持ちが来る噂を聞いたから、休暇中に調べたんだ。エリシーノ国では加護持ちは大切に監禁されて、外に出ることがほとんどないと聞いていたから、留学してくるなんて本当に珍しい、興味が湧くだろ」
「今、監禁って言った?」
物騒な言葉に、僕たちはギョッとしてマーティンを見た。
「監禁は語弊があるか。家の中で大切にする。加護持ちがいる家は、精霊の守護があると信じられているから、奪われないように守っているってことになるのか?……まあ、監禁に近いことをしている」
「そうか、それは監禁だね……。でも、そんな人が留学することが出来たんだ。確かに珍しいね」
遠目だが、銀色の長髪の一部が緑に染まっている女生徒が確認できた。女生徒の前に、同じく留学生らしき男性が立っている。その姿は生徒というより護衛のようだ。
生徒たちが、自分たちの教室に移動しだした。僕たちは慌てて3年生の教室に向かった。クラスは基本的に持ちあがりだ。クリスと僕は、同じ教室に向かった。
一時はどうなるかと思ったけれど、クリスはどうにか立ち直りつつあるようだ。アドキンズ侯爵領から戻ってからも、大きな問題を起こすことなく、白の魔法使いの仕事をこなしていたらしい。
どうやら娼館通いも止めたようだ。ずっと悩まされていた、クリスから漂う強烈な香水の匂いから解放されて、僕たちは内心ホッとした。
「転入生を二人紹介する。エリシーノ国から留学してきた、エヴェリーナ・アンデル伯爵令嬢とフレデリク・アンデル伯爵令息だ。二人は双子の姉弟だ。3年間だが有意義な学生生活を送れるように、皆で手助けをするように」
「フレデリック・アンデルと姉のエヴェリーナ・アンデルです。よろしくお願いいたします」
エヴェリーナは長い銀髪の右側の一部分が緑色だ。フレデリックは短い銀髪だ。二人とも綺麗な灰銀の瞳だ。男女の差はあれ、姉弟でよく似ていて、どこか神秘的な美しい顔立ちをしていた。
「今日は、課題を提出したら解散だ。お、そうだ、クラス代表だが、例年通り、今期もキース・アドキンズ君、頼んでいいか?」
「モリス先生、いいかげん解放して欲しいのですが……。僕、今年は副寮長もするんです」
「おお、そうか。じゃあ、……前期だけ頼む!あと、転入生二人の校内案内も頼んだ!今から、会議なんだ。すまんな。簡単に、締めの挨拶もしといてくれ」
モリス先生は、皆から出された課題を急いで回収して、そのまま手を振って去っていった。丸投げにもほどがあるが、モリス先生は2年間、ずっとこんな感じだった。きっと、後期もクラス代表は僕になるだろう……
「例年通りクラス代表になったキース・アドキンズです。皆さん、よろしくお願いします。では皆さん、はい、解散!転入生のお二人は、僕とそこに座っているクリスティアン君が校内を案内させていただきます」
急に名を呼ばれたクリスが、嫌そうに僕を見たけど、僕は気づかないフリをした。
「アドキンズ侯爵令息、エイベル伯爵、よろしくお願いいたします」
「あ、キースでいいですよ。同じクラスになったのも何かのご縁です。僕も名を呼んでいいでしょうか?」
二人が頷いたので、僕は嫌がるクリスを引っ張って教室を出た。
「フレデリックは、どこの寮なの?」
「白のユニコーン寮です」
「そうか、僕たちは赤のフェニックス寮なんだけど、何か困った事があったら、いつでも訪ねて来てね」
「ありがとうございます。あの、もしかして、エイベル伯爵は、白の魔法使いですか?」
「ああ、そうだよ。僕のこともクリスでいいよ。敬語も使わなくていい、堅苦しいだろ?」
「ありがとう。実は僕たち、緑の魔法使いの孫なんです」
「緑の魔法使いといえば、グスタフ・アンデル殿か?父さんが白の魔法使いだった時に、一度だけお会いしたことがあるよ」
「キースは、マーカス様のご子息でしたか。僕たちも一度だけお会いしました。確か、エヴェが精霊様に祝福された直後だったかな?色の魔法使いの会合が、エリシーノ国であったんです」
各国の色の魔法使いは、定期的に会合をしている。天界樹を拝する国同士、親交を深めることが目的なのだそうだ。ただ、最近は「始まりの天界樹」を所有するガレア帝国は不参加らしい。
「エヴェリーナ嬢が祝福されたのは、何歳の時だったの?」
「……」




