表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/44

第28話 伯父夫妻とその息子

「やめて、はなしてあげて!」

 庭で遊んでいたリアの悲痛な叫びに、図書室で勉強していた僕とクリスは慌てて庭の見える窓へ近づいた。屋敷から見える庭先で遊んでいたはずのリアが、誰かに向かって怒っているようだ。身長はリアより高いが、まだ子供のようだ。

「ああ、そうか今日から伯父夫婦が来るって、父さんが言っていたな……。あいつ、従弟のブラッドリーか?」

 白の魔法使いの仕事で領地に戻れなかった父さんが、久しぶりに領地に戻って来たので、祖父母の墓参りも兼ねて訪ねて来ると言っていた。

 伯父夫婦の息子は、やっと授かった一人息子のため、伯母が甘やかしてかなり我儘な子供に育っているようだ。優しい伯父は、伯母の実家に婿入りして子爵になったので、気の強い伯母の言うことには逆らえない。

 ブラッドリーは、リアに何かを見せて揶揄っている。リアはその何かを放せと怒っているようだ。リアがブラッドリーに怒っているのが気に食わなかったのか、ブラッドリーがリアを叩こうと手を上げた。

「リア!」

 隣で見ていたクリスが、パッと転移魔法を発動した。次の瞬間にはリアの隣に立っていた。突然現れたクリスに、ブラッドリーは驚いて尻もちをついた。

 僕は少し行儀が悪いが、図書室の窓を乗り越えてリアのいる場所へ駆けつけた。闇魔法で影を使う手もあるが、昼間の庭先には僕が移動できるほどの影は少ない。不便だ。

「君、伯父上のところのブラッドリーだよね?僕の可愛い妹に何しようとしていたのかな?」

 確か僕より5歳下のはずだから、ブラッドリーは10歳だ。5歳のリアを虐めるなんて、いくら子供だと言っても許せるはずがなかった。

 クリスの足元に縋りついていたリアが、僕の方を見てブラッドリーの手元を指さした。ブラッドリーの手には、ぐったりとした蛙がぶら下がっていた。僕は無言でブラッドリーの持っていた蛙を助け出して、そっとリアへ手渡した。

「かえるさん、だいじょうぶよ。なおしてあげる」

 リアは蛙を手の平の上に乗せたまま瞳を閉じた。ほんの一瞬のことだ。ブラッドリーは、怒っている僕の視線を避けて下を向いていたので、癒しの光を見ていなかったようだ。

 元気になった蛙は、リアが近くの池に放してあげていた。

「ふんっ、つまらない奴。どうして怖がらないんだ。このチビ!」

 蛙を見せても怖がらないリアに悪態をついて、ブラッドリーはそのまま屋敷の方へ走って行った。隣でクリスが氷点下になりそうな冷気を発していたが、流石に子供を凍らせることは我慢したようだ。

「何なんだ、あのソバカスクソガキは。次やったら、凍らせてもいいよな?」

 本気で凍らせそうなクリスに、僕は慌てて釘を刺した。

「あれでも、伯父上の大事な息子なんだ。僕としても、従弟を凍らされると困るかな……」

「リアは、やっつけてもいいとおもう。かえるさんのかたき、うとう」

 リアとクリスは意気投合していたが、流石にやっつけるのは却下しておいた。父さんに事情を説明して、苦情を入れてもらうことで、一応納得してくれたようだ。

 伯父上は心優しいのに、残念ながら息子は苛烈な伯母に似たようだ。父さんが言った苦情も、翌日には忘れてリアを虐めていた。流石に我慢できなかったので、こっそり影に引きずり込んで泣かせてやった。

 次の日から、僕を見るたびに怯えていたけど、その次の日にはケロッと忘れてリアを追いかけ回していた。怒ったクリスは、ブラッドリーの足先を少しだけ凍らせて転ばせていた。足先を凍らされたブラッドリーを見た伯母が、金切り声で僕に文句を言ってきた。いつの間にか、凍っていた足は解凍されていたので、伯母は文句を言い足りなさそうにしながら、ブラッドリーを連れて屋敷に戻っていった。

「なんで僕なんだ?クリスがやったんだろ?」

 キンキンする耳を押さえて、僕はジトっとクリスを見た。人を惹きつける美貌のクリスには、気の強い伯母でも、面と向かって文句が言えなかったようだ。

「次は凍らせるって言ったんだ。懲りずにやったあのガキが悪い。そうだろ、なあ、リア……?」

 クリスがリアを見て、慌てて駆け寄った。僕はリアの様子を見て、急いで闇魔法を発動した。

「クリス、父さんを呼んできてくれ!魔力暴走だ」

 クリスはそのまま転移魔法を発動して消えた。リアはぎゅっと胸を押さえて、苦しそうに蹲っていた。最近は、魔力暴走を起こすことも少なく、元気そうにしていたので僕も油断していた。

「リア、大丈夫だ。すぐに父さんが来るからな」

 リアの暴走している魔力をコントロールしながら、僕はリアに声をかけ続けた。意識を失ってしまえば、魔力は一気に暴走してしまう。苦しくても意識を繋ぎ留めることが必要だった。

「キース、リアの様子は?」

 転移魔法でクリスと一緒に現れた父さんは、リアの側にきてリアの胸に手を当てた。

「意識を失わないように、頑張ってくれてます。先ほどよりは、少し落ち着いたように見えますが……、僕が見た中では、酷い魔力暴走だと思います」

「何があった?」

「ブラッドリーがリアを追いかけ回していたので、少し懲らしめました。リアは、追いかけ回されて走っていましたし、その事に伯母様がかなり怒っていたので、その様子を見て驚いたのかもしれません……」

「ああ、またあの子か……。今日、墓参りに行くと言っていたから、終わったら速やかに帰ってもらおう。よし、落ち着いてきたから爆発はないだろう、部屋へ移動しよう」

 父さんがそっとリアを抱き上げて、そのまま影に入った。僕たちも、急いでリアの部屋へ向かった。

「あのクソガキ、山奥にでも転移させてやろうか……」

 クリスの怒りを感じて、僕も同意しそうになったが、まだ子供のブラッドリーがこうなることを知っていたはずもない。10歳の子供を、遭難させるわけにはいかず、僕はクリスを必死で止めた。

 でも部屋に入って、ぐったりとベッドに寝ているリアを見たら、僕は沸き上がる怒りを鎮めることが難しくなった。相手は子供だ、影に閉じ込めればすぐに半狂乱に……

「キース、凄く怖い顔になっている……」

 クリスの声に、僕は自分の中で渦巻く憎悪を認識してハッとした。

 結局伯父夫婦と息子は、事情を知った母さんの逆鱗に触れ、その日のうちに領地から追い出された。伯父だけが最後まで平謝りで、結局ブラッドリーと伯母は不服そうな顔のまま馬車に乗って去っていった。

「途中で事故にでも合わせるか?」

「いや、いい。僕、伯父上のことは好きなんだ。あの家族はどうかと思うけどね」

「そうか?妻と子供にもペコペコして、何も言えない大人だと思うけどな」

「伯父上は、凄く優しくていい方なんだ。政略結婚相手が、最悪だっただけだ。僕は絶対、恋愛結婚するんだ!目指せ、運命の出会い。そして幸せな結婚!」

 リアは3日ほど寝込んだが、その後は元気に外で遊べるまでに回復した。予定していた一か月の滞在は、あっという間に過ぎ、僕とクリスは王都へ戻ることになった。

「おにいちゃま、つぎのおやすみも、まってます。ぜったいあいにきてね」

 リアは照れくさそうに、クリスに手作りの花束を渡した。クリスは花束を受け取って、「必ず来るよ」とリアの手にそっと騎士がするようなキスをした。

 僕は、妹の兄離れを嘆きながらも、クリスの清々しい笑顔に内心ホッと安堵していた。

読んでいただきありがとうございます。

よければブックマーク、評価☆いただけると、励みになります。よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ