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第27話 渋々妹に会わすんだよ

「クリス、冬の休暇は一緒に僕の領地に行くぞ!」

「は?」

 2年生の後期もいろいろあったが、無事に終了式を迎えた。結局僕とクリスの噂が消えたかどうかは、怖くて確認できていない。現況僕には、2年経った今も恋人と呼べる人はいなかった。何故だ?

 情緒が不安定なクリスをこのまま置いて行くことが不安だった僕は、秘かに父さんに伝書蝶を飛ばしてクリスの状況を相談していたのだ。

「魔法研究所での白の魔法使いの仕事は、一か月は休んでいいと既に許可をもらっている。休暇全部を休むことは出来ないけど、幸い父さんの頃からの職員がまだ多く在籍している。今なら父さんもフォロー出来るし、クリスの精神状態を考えたらこのまま無理に職務を続けるのは無理だと判断された」

「なっ、そんな勝手に、そんなこと頼んでないだろ⁈」

 今にも倒れそうな顔色で、クリスが苛立ったように僕に詰め寄った。

「ああ、頼まれてない。でも、自分でも分かっているだろ?ずっとまともに食べることも寝ることも出来ない、相変わらず強烈な香水の匂いをさせて……、このままここに残って仕事することなんて無理だろ?」

「……そんなこと、やってみないと…」

「いや、ここはキースの言う通りにするべきだと、俺は思うぞ」

「僕も思う。クリスは自分のことを、もう少し大事にしないと駄目だよ」

 マーティンとコーディーの言葉に、クリスがグッと押し黙った。

「僕だって、渋々妹に会せることにしたんだ。本当は、一生クリスにだけは会わせるつもりが無かったのに……、仕方なくなんだ。だから、クリスも僕の決心に感謝して、素直に僕と一緒に領地に行くべきだ……」

「なんだ、その投げやりな態度は…、ははは……、そうか渋々か。じゃあ、絶対に嫌がらせで行かないとな」

 クリスの言葉に、マーティンとコーディーがニヤリと笑った。僕は来ると言ったクリスに安堵し、同時にクリスにリアを会わせることに、少し複雑な心境で苦笑いを浮かべた。


「おにいさま、おかえりなさい」

「ただいま、リア。元気でいたかい?」

「げんきよ。あの、うしろのひとは、おうじ、さま?」

 ポッと頬を染めて、リアが僕の後ろにいるクリスを見上げた。キラキラとしたペリドット色の瞳に、見た目は完璧な美少年が映っている。だめだ、リアが穢れてしまう。僕は咄嗟にリアをクリスから引き離そうとした。

「王子ではないよ。僕はクリスティアン・エイベル。君のお兄様の友達だよ」

「クリス、ティ、アンさま?おにいちゃまですか?わたしはオーレリアです」

「オーレリア嬢。そうだね、おにいちゃまって、呼んでくれたら嬉しいな」

 クリスの外面のいい笑顔に、リアは素直に頷いて花が咲いたようにパッと微笑んだ。その笑顔に、隣にいたクリスがハッとしたように固まった。

「クリス、リアは俺の妹だ。絶対にやらん!」

「……オーレリア嬢、将来が恐ろしい破壊力、素敵な笑顔だね」

「おにいちゃま、つかれてる?リアがなおすね。ほら、わらって」

 リアは僕が止める前に、パッとクリスの手をとって癒しの光を出した。隣でクリスがハッと息を飲む音がした。そういえば、前に医務室で僕を癒した時にクリスはいなかった。後で口止めしないと……

「オーレリア嬢、ありがとう。なんて優しい癒しの光を出すんだ……、これは、キースが会わせるのを躊躇う気持ちが分かったよ……」

 そう言いながら、クリスは瞳からポロポロと涙を流した。僕が驚いてギョッとしている間に、リアはぎゅっとクリスを抱きしめた。阻止できなかった……

「まだいたい?だいじょうぶ?」

 クリスは遠慮がちにリアのするままにしている。リアは、クリスの背に小さな手を回して、よしよしと撫でている。今すぐ引き剥がしたい衝動を我慢して、リアがするままにした。きっと、クリスが立ち直るきっかけはリアが握っている気がした。

 そのまま眠ってしまったリアを、クリスが宝物のように抱っこしたまま屋敷に入った。出迎えた両親にリアが癒しの光を使って眠ってしまったと説明した。

「あらあら、重かったでしょう?ありがとう、クリスティアン君。よく来たわね」

「二人ともおかえり。今日はゆっくりして、明日からは鍛えるから、二人とも覚悟しとけよ」

 息子を迎えるような両親の言葉に、クリスがゆっくり緊張を解くのが分かった。

「お世話になります」

 僕とクリスは、そのままリアの部屋に向かい、クリスがベッドにそっとリアを寝かした。リアがぎゅっとクリスの服を掴んでいたため、仕方なくそうするしかなかったのだ。


 次の日から、父さんは宣言通り僕とクリスを容赦なく鍛えた。母さんはクリスの落ちた食欲を取り戻させるため、消化によく、栄養のある食事を積極的に作った。侯爵家だが、母さんは趣味だと言って使用人だけに任せず、僕たちに料理や菓子をよく作ってくれていた。

「おかあさま。おいしいね」

 今日は、母さんが焼いたスコーンを庭に持ってきて、皆でお茶をしていた。リアはジャムとクロッテッドクリームをたっぷりぬって、小さな口をあけてスコーンを頬張っている。

 クリスも控えめにジャムをぬったスコーンを食べている。ここに来てからは、食べる量はまだ少ないが、吐き戻さずに取れるようになっていた。落ちた体重も体力も順調に戻っているようだ。

「おにいちゃま、こっちのジャムもおいしいよ。はい、あーん」

「な、リア、そんな、あーんはお兄様にするんだろ?」

 リアは僕をチラリと見てから、クリスの口元にスコーンを差し出した。クリスがドヤ顔でリアの差し出したスコーンを食べている。

「本当だね、リアのくれるものは全部美味しいよ」

 僕は満面の笑みで、リアにお礼を言うクリスをぎっと睨んだ。当初クリスはオーレリア嬢と呼んでいたが、いつの間にか愛称呼びになっている。

「おにいさま、おかおがこわい」

「本当だね。キース、どうかしたのかい?」

 クリスの言葉に、両親もクスクスと笑っているが、僕の心中は穏やかではなかった。クリスの美貌が幼女にも通じることは理解したが、このままでは危惧した通り、本当にリアの初恋はクリスになってしまう……

「よし、クリス。今から走り込みに行くぞ!」

「え?今、お茶をしている、よね?走れる服装でもな……い」

 僕はぐっとクリスの腕を引いて、そのままクリスを連れ出した。せめて距離だけでも引き離したい一心だった。リアはクリスを取られて不満そうに僕を見たけど、気がつかないフリをした。

「ほら、行くぞ!」

 仕方なさそうにクリスが僕について来る。よし、このまま滞在中は出来るだけ接触を減らせば、リアの初恋は守れるはずだ。僕の計画は、直ぐに頓挫してしまうのだが、この時はリアの瞳にクリスを映すことを阻止することに必死だった。


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