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第25話 2年生新学期

 長い冬の休暇が終わり、僕たちは魔法学園の寮へと戻って来た。

「げっ、クリスが完全に男になってるよ。ちょっとショックだ」

 冬の間も順調に男らしく成長したクリスを見て、マーティンが残念そうに溜息をついた。入学当時、美少女だったクリスは、一年が過ぎ完全に男性になっていた。とは言え美少年に変わりはなく、イーストマン先輩が今朝もクリスを綺麗だ、好きだと叫んでいる声は聞こえてきたのだが……

「あ、そういえば、今年はイーストマン先輩の弟さんが入学してきたんだよね?」

「今年の新入生代表で挨拶したのが、確か……エルマー・イーストマン辺境伯令息だったな。赤のフェニックス寮に入寮するらしいが……」

 コーディーの問いに、マーティンが何処からか仕入れてきた情報を教えてくれた。新入生代表ということは、入学試験で首位だったということだ。騎士としても頭角を現す兄とは違い、弟は秀才のようだ。

「兄は白のユニコーン寮なのに、どうして弟は赤のフェニックス寮に入寮するんだ?」

 クリスが嫌そうに顔を歪めた。兄と同じように、弟からも同様に追いかけられる可能性を考えて、嫌だと思っているようだ。

「ああ、それはジョルジュ兄さんが、アルベール公爵令息と仲が悪いからですね。同じ寮に入ると、きっと揉めると分かっているので、兄が白のユニコーン寮を希望したんです」

 背後から突然声がして、僕たちは驚きながら振り向いた。そこにはイーストマン先輩に少し似てはいるが、背が低く線の細い少年が立っていた。

「君は……もしかして?」

「あ、突然話しかけてすみません。僕の名前が聞こえたので……。初めまして。僕はイーストマン辺境伯の次男、エルマー・イーストマンです。エルマーと呼んで下さい。先輩、特にエイベル伯爵……、エイベル先輩と呼ばせていただきますね。兄がご迷惑をお掛けしていると聞いています。申し訳ございません。僕は兄と同じ思考ではないので、警戒せずに同じ寮の後輩として、普通に接していただけるとありがたいです」

 エルマーは人懐っこそうな笑顔で、僕たちに挨拶をした。顔は似ていると思ったが、イーストマン先輩のような威厳のある騎士タイプではなく、おっとりとしていて文官が似合いそうな少年だ。

 クリスは偏見で発言したことを素直に謝って、珍しく人見知りせずに接している。まさかこの出会いが、クリスが大人になってからも、関わりを持つ貴重な人材になるなんて、この時の僕たちが知るはずもなかった。



 新入生を迎え、僕たちは2年生になった。実感は湧かなかったけれど、授業はそれなりに難しくなり忙しくなってきた。選択授業と実戦演習に追われて一か月が過ぎた頃、その知らせは突然やってきた。

「皆に言わないといけないことがある。15歳になった今日、白の魔法使いに正式に指名されることになった」

 僕たちの中で、クリスが一番早く15歳になった。

 その日の放課後、お祝いしようと4人で寮の食堂でささやかな会を開いている時だった。クリスが遠慮がちにそう告げたのだ。

 僕は突然の報告に、口に入れたケーキをごくりと飲み込んだ。コーディーとマーティンも同様にケーキを飲み込んで少し咽ていた。

「そ、そうか、それはおめでとう、でいいんだよな?」

 クリスが白の魔法使いになることを渋っていたことを知っている僕たちは、少しの動揺と共にそう言った。

「ああ、今は覚悟して受け入れているよ。マーカス様にはまだまだ及ばないけど、拝命する限りは全力で向き合うさ。といっても、学生の間は、補佐が数名ついてくれて、卒業するまでは仕事も減らしてもらえるらしい」

「そうか、卒業するまでは学園にいられるんだな。よかった」

「白の魔法使いとしての仕事があるときは学園を休むこともあるけど、魔法学園長が在校生で白の魔法使いになることに前向きで、学業を両立出来るように配慮してくれるらしい」

「ああ、あのじいさんなら、そういうの好きそうだな、むぐっ」

 コーディーが慌ててマーティンの口を塞いだ。学園長をじいさん呼ばわりは流石に拙いだろう。確かに魔法学園長は年齢不詳で、見た目はじいさんで合っている。そして、学生が活躍して、学園の名声が広がることが大好きらしい。

「駄目だよ。学園内でそんなこと言ったら、どこで聞いているかわからないからね……」

 魔法学園長は、学園のあらゆるところに耳を持ち、特に悪口には敏感だと、学生の間では専らの噂だ。

「来月、正式に発表されるから、何かと騒がしくなるかもしれない。皆にも迷惑を……」

「何言っているんだ。すごい事なんだから、誇っていたらいいんだ。俺たちだって、友達として鼻が高いさ」

「そうだよ。僕たちで授業の方は手伝えるし、気にせず頼ってよ」

「ああ、そうだな。頼ってくれ」

「皆……、ありがとう」

「さぁ、じゃあ、誕生日と白の魔法使い就任を祝って乾杯しようよ」

 白の魔法使いに指名されることは、家門にとっても栄誉なことだ。本来ならクリスの両親や親戚が祝いのパーティーを開くはずだ。だが、クリスの父は既に亡くなっており、後妻とはほぼ絶縁状態、親戚もずっと施設で育ったクリスとは接点がなく、現在も交流はしてないと言っていた。

「よし、クリスティアン・エイベルの15歳の誕生日と、白の魔法使い就任を祝って、カンパーイ!」


 一か月後、正式にクリスの白の魔法使い就任が発表された。魔法学園長のドヤ顔が少し鼻についたが、学園長の取り計らいのお陰もあって、学園生活に大きな混乱はなかった。

 ただ、今まで以上にクリスの人気が高まり、多くの女生徒に将来の旦那様候補として狙われるようになった。それが逆にクリスの女癖の悪さを改めるきっかけになったようだ。

「可愛い女生徒が、ハンターにしか見えなくなった。もう、当分そういうのはいいかな……怖い」

 待ち伏せ、追いかけ回され、媚薬を盛られそうになったり、身に覚えのないロマンスをでっち上げられ結婚を迫って来る女生徒は、確かに令嬢というよりは勇猛なハンターに見えた。

「マーカス様にも言われたんだ。白の魔法使いという地位は、僕の居場所になってくれると。たぶん今まで、女の子に甘えていたのは、自分の不安定な立場を誤魔化すために、居心地のいいところに逃げていただけだ。これからは反省して、学業と白の魔法使いに邁進するよ」

「ははは、クリスが愁傷なこと言っているよ。今日は槍でも降るのか?」

 マーティンの言葉に、僕たちは皆で笑った。クリスは宣言通り、その後は人が変わった様に女生徒とは関わらずに、学業と白の魔法使いの仕事を頑張っていた。


 前期は色々あったが無事に夏の長い休暇に入り、僕は両親とリアがいる領地に帰った。白の魔法使いを辞した父さんは、クリスが就任した後も補佐をしていたが、夏には完全にその職を辞して領地に戻っていた。

 領地に戻ったお陰なのか、リアの魔力暴走は減って安定しているそうだ。最近は、外でも遊ぶことが多くなっているようなので、僕が領地にいる間はリアと一緒にピクニックにでも行こうと思っている。


 休暇前半は領地で過ごし、後半は社交と騎士部の合宿に参加して課題をして過ごした。長いと思っていた休暇は、あっという間に終わってしまった。


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