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第24話 ブローチの副産物

投稿、遅れてすみません。

「それで、バックスはこのまま呪われて死ぬのか?」

 教官に運ばれていくバックスは、禍々しい液体が完全に体に入り込んだのか、見るからにぐったりとして具合が悪そうだった。

 いくら自業自得とはいえ、人が呪いにかかって死ぬということは後味が悪い。勿論自分が呪われるのと、相手が呪われるかのどちらかしか選択できなかったので、そこは仕方ないとは理解しているのだが……

「ああ、多分なんだけど、死にはしないと思う。ブローチの効果の副産物というか、反転魔法の術式にわずかに浄化魔法が組み込まれているんだ。だから、【呪いのしずく】だったものが、相手に反って行く時点でわずかだけど浄化されている。まあ、わずかなんだけどね」

 クリスが必要に迫られてブローチを作った当時、泥や汚物をそのまま反転魔法でやり返すと、かかった本人が逆上して掴みかかって来ることがあったそうだ。

 そうすると、結果的に自分も汚れることになる。それで、反転魔法に浄化魔法を組み合わせて、出来るだけ泥や汚物が綺麗な状態で相手にかかるようにしたそうだ。

「やった本人は自業自得なのに、理不尽な奴が多くてさ。やり返される前に逃げようと思って、必死で転移魔法を習得したんだ」

 まさか転移魔法が、そんな理由で習得された事実に、僕は少しだけ遠い目をしてしまった。

「じゃあ、バックスは死なないんだな」

「死にはしないが、あれだけ厄介なものを浴びたんだから、普通の生活は送れないさ。学園の生徒を襲った事実も追加され、呪いの苦痛の中、一生牢獄で過ごすことを考えたら、死んだ方が楽だと考えるかもしれないけどね」

「自業自得、の一言で片づけていいのかわからないな……」

 僕が悪いとは思わないが、バックスに目をつけられ無理難題を押し付けられ腹が立った。ムカついて奴の不正を突き止め暴いた結果、命を狙われるほど恨まれた。少しやり過ぎた気もするが、その事に後悔はなかった。

 少し気が落ち込みそうな僕を、クリスが励ますように背中を叩いた。

「人を呪わば穴二つって、どこかの国のことわざでもあるだろ?人を呪い殺そうって考えるのなら、自分がやり返されて死ぬ覚悟もしないとな。自業自得で、いいんだよ」

 確か、人を呪い殺そうと思うのなら、相手の墓穴と自分が入る墓穴も掘っておけ、っていう意味だったか?出来れば、墓穴を二つ掘っている間に、呪うことを諦めて欲しかった。そうすれば、最悪ではない未来もあったかもしれないのに……

「そうだな」

「よし、じゃあ面倒だけど、事情聴取されに行こうか?」

 僕たちは魔法学園長室へ、報告も兼ねて向かうことにした。結果的に、学園全体を巻き込んでしまったので、学園長の説教を長時間聞くことを覚悟していた僕たちを待っていたのは、終始上機嫌な学園長だった。

「おお、災難じゃったな。バックスは今、王宮警備兵に引き渡した。もう二度と君たちの前には現れることはないじゃろ。それにしても、反転魔法に清浄魔法を込めるとは、流石は白の魔法使い候補のクリスティアン君。見事じゃった。来年度にはいい知らせが聞けそうじゃな、ふぉふぉふぉ」

 学園長特製の健康にいいお茶を振舞わられ、微妙な苦さに苦労しながら飲み干し、僕たちは報告を終えて学園長室を後にした。


「ねぇ、クリス。どうして学園長はご機嫌だったのかな?僕はてっきり、長時間説教コースを覚悟していたんだけど?」

「さぁ……。まぁ、怪我人も出ずに、無事に解決したからじゃないか?」

 若干笑顔の引きつったクリスに、僕は何の違和感もなかった。あの時の学園長の上機嫌の理由を知るのは、新学期に入ってからだ。


「お疲れ様。クリス、キース。学園長室、大丈夫だったのか?」

 あの後別れて、寮で僕たちの帰りを待っていたマーティンとコーディーに出迎えられ、僕たちは事の顛末を報告するためクリスの部屋に集合した。

「そうか、学園長がご機嫌で、お咎めがなかったのなら良かったよ」

「心配を掛けてごめん。二度とバックスが来ることはないから、安心していいと学園長も言っていたし、明日の終了式も予定通りあるそうだ」

「1年生も終わりか。あっという間だったな」

「クリスは休暇中どうするの?」

「ああ、一度領地に戻らないといけないんだ。伯爵になったのに、ずっと管理人に任せていたからね。報告書の確認だけはしていたけど、流石にこのまま放置できないからね。今回戻らないと、その後いつ戻れるか保証もないし……仕方ないよね」

「そうか、キースはどうするの?」

「短期間だけ、家族で領地に帰って、その後は王都のタウンハウスかな?騎士部の合宿もあるらしいから、そこは参加だし、冬は社交も少ないから、自主練するよ。今回のことで、まだまだ足りないって感じたしね」

「俺は雪が深くなる前に領地に戻って、領地の手伝いがある。タウンハウスに戻るのは、新学期ギリギリだな」

 夏は涼しいマーティンの領地は、冬は雪が多く降ることで有名だ。

「僕は婚約者のアリスの領地で過ごす予定だよ。後を継ぐための領地の勉強も、少しずつしているんだ」

 結婚後は婚約者であるアリス嬢の実家を継ぐことになっているコーディーは、少しずつ領地のことを勉強しているらしい。アリス嬢とは、学園にいる間会えないので、久しぶりの再会にコーディーも嬉しそうだ。

「今回の休暇は、皆それぞれ忙しそうだな。暫く会えないけど、皆元気で。新学期に会おう」

 次の日、僕たちは終了式に出席して、それぞれ帰路についた。


「おにいさま、おかえりなさい」

 タウンハウスに戻ると、母さんと妹のリアが出迎えてくれた。

「ただいま戻りました。父さんは?」

「おとうさま、ずっといそがしくて、おうちにいないの」

 僕に抱っこをせがみながら、リアが寂しそうに教えてくれた。リアの魔力暴走があるので、父さんが長く家を空けることはほとんどないはずだ。僕は少しだけ気になった。

「少し忙しくなったのよ。勿論、リアが不安定な時はすぐに帰宅できるようになっているの。最近、リアの調子がいいから、それもあって少し留守になっているだけよ」

 母さんが、僕に抱っこされているリアを見て微笑んだ。

「父さんは領地には戻れないの?」

「そうね、調整が出来ればいけるかもしれないけれど、多分今回は無理かもしれないわ。その時は、キースがリアの魔力暴走を抑える手伝いをして欲しいの」

「それは勿論そうするけど、そうか、一緒に帰れないんだ……」

 結局父さんは仕事を休むことが出来ず、領地には僕と母さんとリアだけで行くことになった。

 忙しそうにしている父さんとは、ゆっくり話す機会がないまま領地に向かう馬車に乗り込んだ。見送りで出てきた父さんは、何かを言いたそうだったけど、結局何も言わずに僕たちを送り出した。


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