第22話 sideクリスティアンの決意
「ぐぅっ…み、んな、食べるな、毒だ……」
「おいっキース!!!」
目の前でキースが血を吐いて、床に崩れ落ちて気を失った。僕は動揺するより先に、キースに駆け寄り水魔法を使って胃の中のものを全て吐きださせた。口元に手を当てると、浅い息を繰り返しているが先ほどよりは落ち着いている気がした。
「クリス、キースは大丈夫なのか⁈」
マーティンとコーディーが、食堂の寮生にスープに毒が混入している可能性を伝え終わり、心配そうにテーブルに戻って来た。
「医務室の先生も呼んできてくれるように頼んだよ」
僕は分かったと頷いて、スープに手をかざした。水魔法と風魔法でスープに混入している毒を特定するため、じっと神経を研ぎ澄ました。
「毒の化合物か……、多分盗まれた魔法薬だな。コーディー、癒しの光を頼む。毒に効くかは不明だけど、解毒薬を作る時間を稼いでくれ。絶対に助ける」
「分かった」
コーディーがキースを癒すために、手を当てた。弱いながらも温かい光がキースを包み込んでいく。僕はそのまま転移魔法で自室へと飛んだ。簡易ではあるが、魔法薬を作るための道具は揃っていた。
「解毒に効果的な薬草数種類を、先ほどの化合物に照らし合わせると、この3種類だな……、後は混ぜて魔力で練り上げる……」
繊細な魔力操作を終えると、ガラスの器の中で解毒薬が生成されていた。それを持って僕はキースの元へと転移した。
寮の食堂には医務室の先生と、魔法学園長が来ていた。コーディーとマーティン以外の生徒は、食堂から出て行かされたようだ。
キースはぐったりとしていたが、毒を素早く吐かせ癒したお陰か、少しだけ回復している様に見えた。
「これ、解毒薬です」
医務室の先生に手渡すと、先生は解毒薬をサッと鑑定して頷いた。どうやら合格点をもらえたようだ。先生がキースの口に薬を流し込むと、ゆっくりではあるがコクリと飲み込んだ。
「あとはこの子の体力次第、エイベル君、転移魔法で医務室まで運んでもらっても?」
僕は頷いて、キースと先生を一緒に医務室まで転移した。追いかけるようにコーディーとマーティンもやって来た。暫くすると、学園長から呼び出しを受けたので、僕はキースをコーディーとマーティンに託して、学園長室へ向かった。
「クリスティアン君、君の機転のお陰で、尊い生徒の命が奪われずに済んだ。ありがとう。……それで、今後の対策なのだが、先ほどの毒が魔法薬室から盗まれたものと一致した。厄介なことに、盗まれたのはこれだけではないのじゃ」
魔法学園長が深刻な顔で僕に向き合っていると、扉を叩く音がした。学園長が入室許可を出すと、金髪にアクアマリンの瞳を持つ美丈夫が入室してきた。
「マーカス様……」
「クリスティアン君、息子を助けてくれたそうで、感謝するよ」
現白の魔法使いであり、キースの父親でもあるマーカス・アドキンズ侯爵が静かに怒りながら立っていた。
「いえ、キースはまだ危険な状態です。完全な解毒薬は作れていませんので……」
「ああ、そのことなら、今医務室に妻と娘が向かったから、もう大丈夫だと思うよ」
少し困った様に、マーカス様が微笑んだ。確か、キースの母親は光属性だと聞いている。多分、彼の母が癒しの光を使うのだろうと、僕は納得して頷いた。
「それで、俺の息子を殺そうとした犯人について、詳しく聞きたいと思い職場を放棄して駆けつけたのですが、学園長、説明してもらってもいいですか?」
マーカス様の怒りを感じたのか、学園長が引き気味に事の経緯を説明した。盗まれた薬品は3種類、一つが今回の毒殺未遂で使われた毒で、即効性の強い毒だった。
2つ目はこの毒の解毒薬で、恐らく毒を盛った後に解毒されるのを恐れて持ち出されたと思われる。
「そして最後3つ目だが、【呪いのしずく】と言われるもので、現在は禁術指定され作ることは出来ない薬品だ」
一昔前まで、研究目的で作られていたもので、この薬品を浴びると呪いを受け、最後は死に至るそうだ。研究というのは、この薬品の解呪薬を作ることで、現在は作ることは不可能だとされ、【呪いのしずく】を生成すること自体、禁忌とされている。
昔、研究が認められていた時に生成されたものが、一瓶だけ破棄されずに厳重に保管されていたそうだ。
「つまり毒殺に失敗したと知った犯人が、その【呪いのしずく】を息子に使う可能性があるというのですか?」
今にも学園長に掴みかかりそうな勢いで、マーカス様が学園長に詰め寄った。確かに解呪薬の無い呪いが、キースに襲い掛かるのは避けたかった。
「……その使用方法はどうやるのですか?」
「直接かけるらしいが、どうしてそんなことを聞くのじゃ?」
「直接、かける……、ということは、かからなければいいんですよね?」
「そうじゃな。かからなければ、呪われはしないな」
「そうですか、ではこんな方法ならどうでしょうか?」
僕は自分自身が施設にいた頃、他の子供に泥をかけられたくなくて作り出した魔道具を見せた。小さい頃から整った顔立ちをしていた僕を嫉んで、施設にいた悪ガキが僕に色々なものを投げ付けた。腹が立った僕は、反転魔法を応用して、ブローチ型の魔道具を作ったのだ。
「つまりこの魔道具は、かけようとしたものが、かけようとした本人に反っていくということか?」
「はいそうですね。用途は泥や汚物を避けるために作ったのですが、【呪いのしずく】が液体であるのなら、同じように投げ付けた犯人に反って行くはずです」
「そうか、それはいい方法だと思う。因果応報、犯人が俺の息子を殺そうとするのなら、呪いが跳ね返っても仕方ないだろう。……ただ、クリスティアン君にとっては、残念なお知らせがある。多分、今回の件で、君が白の魔法使い候補確定になるかもしれないな」
「は⁈」
マーカス様が気の毒そうに僕を見た。何度か顔を合わせて話をしているうちに、僕が白の魔法使いになることを避けたいと思っていることは気づかれていたようだ。
「当初は、君の年齢のこともあって、実績不足と心配する声も多かったんだ。君も乗り気でないなら、このままいけば、成人した候補者が指名されていた。その実績がさ、最近積み上がっているって気づいていたかな?」
「……?」
「無自覚に新しい魔術式を作っていたり、今回の魔道具もそうだけど、実際に白の魔法使い候補の中でも、頭一つ以上抜け出しているんだよ」
「ほう。そうですか、わが校から現役で白の魔法使いが誕生するなら、それは素晴らしいことですじゃ」
暢気に喜ぶ学園長の頭を殴りたい衝動に駆られながら、僕は決意を込めてじっとマーカス様を見た。
「今は自分のことより、キースの命の方が優先ですから」
「そうか、キースはいい友達に恵まれて幸せだな。ありがとう、クリスティアン君」
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