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第21話 キースの誤算

 魔法学園長にクリスと僕で一連の流れを報告して、僕たちはその後のことを学園長たちに任せることにして、後期試験対策に忙殺されていた。後期は学科試験に追加で実技試験が実施される。

「もう覚えるのやめたい……」

 コーディーが魔法薬の本をバタンと閉じた。各自専攻している学科を中心に図書館で勉強していたが、魔法薬は薬草の種類が多く、暗記が得意なコーディーですら音を上げるようだ。

「魔法薬学、クリスもとっていたよな?暗記は大丈夫なのか?」

 僕の質問にクリスはニヤリと笑った。僕たちは少し嫌な予感を覚えながら、クリスの言葉を待った。

「魔法薬は、施設にいた時に作らされていたから、大概のものは覚えている。施設では薬草も育てていたんだ。結構いい稼ぎになるらしいよ」

「いい稼ぎ?確か、施設は国の機関で費用は国が出資しているだろ?親の寄付も多いから、稼がなくても……」

「それは職員が、給金以外に稼ぐためだよ。魔力暴走を起こす子供は総じて魔力量が多い。魔法薬を作らせると魔力も消費されて魔力暴走も起こしにくくなる、だからこれは僕たちのためだって言っていたかな?」

「おいおい、どこまで腐った機関なんだよ……。今は粛清されているから、まともな施設になっていること祈るばかりだな」

 クリスのいた施設は、いろいろ問題の多い施設で、僕が父さんに報告して粛清が行われたばかりだ。今は常識ある施設長が赴任して、魔力暴走で苦しむ子供たちは健全な環境で保護されているはずだ。


 無事に後期試験を受け、実技を明日に控えた午後、僕たちは寮の食堂に来て昼食を取ろうと席に着いた。各自の前には温かいスープとメインの肉料理、パンと果物が並んでいた。難関の学科試験を受け終わり、気が緩んでいたし、まさか学園の寮で出される食事を警戒することはしていなかった。

 僕は温かいスープを掬って、口の中に運んだ。飲み込んだ瞬間、ピリリと口の中が痺れた気がした。いや、実際に舌の感覚がないし、口の中に胃からせり上がるように血が溢れてきた。

「ぐぅっ…み、んな、食べるな、毒だ……」

「おいっキース!!!」

 焦った様に叫ぶマーティンの声が遠のいていくのを聞きながら、僕はそのまま床に崩れ落ちて気を失った。次に目を覚ましたのは寮にある医務室のベッドの上だった。薄っすらと夕日が差す室内で、僕は痛む喉を押さえて呻いた。

「キース、目が覚めたか?気分はどうだ?」

「……」

 大丈夫だと伝えようとしたが、喉を傷めたのか声が上手く出なかった。

「ああ、無理しなくていいよ。毒の刺激と毒を吐かせるのに無理をさせたから、声が出にくくなっているんだと思う。水は飲めるかな?」

 コーディーが水の入ったグラスを差し出したので、僕はゆっくりと水を飲み干した。喉は痛むし、気分が悪いので、完全に毒は抜けていないのかもしれない。

「ああ、クリスは今、学園長に呼ばれて席を外している。先ほどまではずっといたんだぜ」

 僕がキョロキョロとしていたので、マーティンが察して状況を説明してくれた。どうやら僕が倒れてすぐ、クリスが僕に毒を吐き出させる魔法を使ったようだ。速やかに、寮生に毒が混入している可能性を伝え、僕以外はスープを飲むことはなかったそうだ。

 調べた結果、毒は僕たち4人のスープにだけ入っていたらしい。その毒を特定して、クリスは解毒薬を作り僕に飲ませたそうだ。

 急に医務室の外が騒がしくなり、僕たちが入口を見ると、泣き出しそうな顔のリアと母さんが立っていた。

「キース、大丈夫?事態が事態だから、特別に面会の許可を頂けたの。リアが、どうしても一緒に行くと言って聞かなくて、連れて来たのよ」

「おにいさま、しなないで……」

 大きなペリドットの瞳から、ポロポロと涙を流しながら、リアは駆け寄ってきて僕の胸に小さな手を当てた。胸から温かい光が体全体に広がり、ずっと僕を苦しめていた気分の悪さと喉の痛みが消えていった。

 隣でリアの癒しの光を見て、コーディーが小さく息を飲んだ音がした。

「リア、癒してくれてありがとう。僕は死なないよ」

「しなない?よかった……」

 安心したように、リアはそのまま瞳を閉じて眠ってしまった。母さんがリアを抱き上げて、僕に困った様に微笑んでから、そのまま医務室を出ていった。

 父さんは魔法学園長室で、今回の事件のことを話し合っているそうだ。このまま母さんたちは父さんと合流して帰るそうだ。母さんが出て行って、暫くするとすれ違いでクリスが帰って来た。

「よかった、キース。顔色が良くなっているし、完全に毒が抜けているみたいだ」

「ああ、さっきまでキースの妹のリアちゃんがいたんだよ。キースを癒して眠ってしまったから帰ってしまったけど、リアちゃんの癒しの光は、規格外に素晴らしいよ」

「へぇ、確かにすごく綺麗な魔力の残滓だね。本気でキースの妹に会いたくなったよ」

 コーディーが興奮したようにクリスに報告して、クリスも僕に残っている魔力の残滓を見てリアに興味を示した。

 僕はここで見たことは他言無用にして欲しいと皆に頼んで、改めてクリスをリアに近づけないでおこうと誓った。最近は、クリスの女性関係もさほど乱れてはいないようだが、それでも僕の可愛い妹が間違ってクリスに惚れてしまっては困る。

 それに、リアのことは出来るだけ誰にも知られない方がいいのだ。

 母さんも光属性だが、リアほどの癒しは施せないと言っていた。リアが特別だと知られれば、癒しの光を求めて皆がやって来るかもしれない。幼いリアには負担が大きいし、魔力暴走を起こす頻度も上がっているため、出来るだけこの事実は秘密にしておきたかった。

 皆が分かったと頷いたのを見て、僕は安心してクリスを見た。

「それで、どうしてスープに毒が混入していたんだ?」

「学園長は、混入した毒は魔法学室から盗まれたものと一致したと言っていた。盗んだのがバックスなら、闇魔法で混入も可能だろう。キースを恨んで殺害しようとした、と考えるのが妥当だろう」

「自業自得なのに、僕を恨むのか……、それに僕以外も巻き込もうとしたなんて、本当に許せない」

 毒は4人全員のスープに混入されていたそうだ。僕が一番先にスープを飲んでいたから、僕が毒に倒れたが、他の友達が飲んでいた可能性を考えると、ぞっとした。

「問題は、魔法学室から盗まれたのはその毒だけではないってことだ。今回失敗したと知れば、バックスはまたキースを狙うかもしれない。今回の毒より、さらに厄介な薬品も盗難リストに上がっているらしい」

「厄介な薬品?」

「【呪いのしずく】という薬品らしい。浴びれば、呪術同様体が呪いに侵され、死に至るらしい」

「【呪いのしずく】って、確か禁書庫の本に記載されていたよ。禁術で生成されるもので、解呪方法がないって書いてあった。なんでそんなものが魔法学室に保管されているの?駄目だよね?」

「昔の教官が研究目的で生成したけど、処分に困ってずっと魔法学室に保管されていたらしい。解呪されない、という条件があるので、それを浴びると厄介だ。そこで僕が作ったこの魔道具、なんだけどさ」

 クリスが懐から手の平サイズのブローチを取り出して、僕たちに見せた。


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