第20話 消えた魔法薬
「ああ、クリスティアンなら、魔法学の先生の元へ行ってもらっている。運営本部を離れるわけにはいかなくてな。多分今頃、魔法学の専門室で無くなった物がないか確認しているはずだ」
そろそろ寮対抗戦の終了時間も差し迫り、副寮長たちはそれぞれの作業に追われているようで、それ以上の情報は得られなかった。僕たちは仕方なく寮対抗戦の結果を待つことにした。
「結果を発表する。4位62点青のドラゴン寮、3位71点緑のグリフォン寮、2位77点白のユニコーン寮、1位は80点獲得、赤のフェニックス寮だ」
それぞれの点数が発表され、落胆と歓喜が入り混じった。2位が発表された瞬間、1位を確信したアルベール寮長が拳を突き上げた。僕たちもお互いの健闘を称え合った。
「ギリギリだったな。実際、宝箱の数だけなら、白のユニコーン寮の方が多かったらしい。運も味方してくれたってことかな……」
マーティンがホッとしたように僕とコーディーに囁いた。今発表されたばかりなのに、どこでその情報を得たのかと思っていると、クリスが僕たちのところに近づいてきた。
「おかえり。どうだった?」
「魔法薬数点が無くなっていた。詳しいところまでは、生徒には教えられないからと、僕だけ先に帰された」
「それで大人しく帰って来たのか?」
クリスがまさか、と言うように、手の平のものを僕たちに見せた。それはどこにでもある伝書蝶だった。
「これ、伝書蝶の紙だよな?……魔法陣が書いてあるな」
「魔法学の専門室の扉に、薄っすらと魔力の残滓があったから、それをこの紙に移してきた」
「魔力の残滓を移す?それで、どうするんだ?」
「まあ、それはこの場が解散になってからのお楽しみだな」
クリスがニヤリと笑ったので、僕たちは波乱の予感を感じながら、寮対抗戦の閉会を待った。
「それで、これをどうするって?」
各自解散となり、僕たちは寮に戻ってきてクリスの部屋に押し掛けた。
「この伝書蝶は、覚えさせた魔力を辿って飛んでいくようにしてある」
「は?そんな魔術知らないぞ」
「そりゃそうさ。僕の考えた魔術式なんだから」
クリスがさらりとそんなことを言ったので、僕たちは一瞬言葉を失ってぽかんとしてしまった。
「……おいおい、前から規格外だとは思っていたけど、やっぱり天才かよ」
マーティンが揶揄うようにクリスをつつくと、クリスが困った様に溜息をついた。
「別に大したことはない。施設で、よく僕の私物が無くなったんだよ。探さないといけなくて、考えついただけだ……」
「……そうか、それは災難だったな……」
魔術式を生み出した理由を聞いて、僕たちはクリスの苦労を知って心が重くなった。クリスは僕たちに気にするなと言って、伝書蝶に魔力を込めた。
伝書蝶はふわりと飛び、部屋の中をくるくると回ってから窓際へと飛んで行ってそこで止まった。
「このまま窓を開ければ、飛んでいくよ。ついて行けば、犯人の元へ辿り着けるがどうする?」
「そりゃ、行くしかないだろ」
僕たちは窓を開け、そのまま伝書蝶の後を追うことにした。寮対抗戦のあとは、特に予定はなく自由時間となっていた。寮対抗戦の後で体は疲れていたが、僕を突き飛ばして逃げた犯人を知りたい気持ちが勝った。
「おい、本当にこっちの方向で合っているのか?確かここを進んで辿り着くのは……」
伝書蝶は迷うことなく、学園の東側を目指して飛んで行った。西側にある男子寮から正反対に位置するのは女子寮だけだったはずだ。
「まさか女子寮なのか?いや、女子寮に行くまでに一つだけ建物があったな?」
「教官たちが使う研究棟か⁈」
伝書蝶はそのまま研究棟へ向かって飛んで行った。
「まさか犯人は教官の中にいるのか?流石に拙いだろ……」
「このまま追いかけて行っても、堂々と研究棟には入れないぞ。どうする?」
マーティンの問いに、クリスがじっと僕を見た。
「まさか影に入るつもりか?慣れていないと、精神力を持っていかれるぞ」
「取り敢えず、キースと僕が中に入るから、時間が経っても戻らない場合、マーティンとコーディーで学園長に知らせてくれ」
「大丈夫なの?」
「目的は伝書蝶が誰のところに行くのか見るだけだから、確認したらすぐに戻って来るさ」
「分かった。気をつけろよ」
僕たちは伝書蝶が研究棟へ入っていくのを確認してから、影の中へと入った。そして、そのまま研究棟の中にある影からそっと出た。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫ではないけど、僕しか伝書蝶の後を追えないから、仕方ないよね……」
闇に耐性の無いクリスが少し顔色を悪くしたまま、伝書蝶の後を探るように目を閉じた。暫くすると、目を開けて見つけたと言って、僕を引っ張って2階を目指した。幸い、教官とは出くわさなかったが、見つからないかとひやひやした。
「ここだな」
クリスが2階の奥の部屋の前で止まった。扉にはこの部屋の教官名が書いてある。
「ここって……、シリル・バックスの部屋じゃないか?」
「そうみたいだな。お前に追い込まれて辞めたはずだが、部屋はまだ残っていたようだ。魔力の残滓が残っていたから、伝書蝶はここへ来たみたいだな」
シリル・バックスは闇属性担当の教官だった。授業初日から僕を目の敵にして、逆に僕に不正を暴かれ辞めさせられたのだ。念のため影から部屋に入って確認したが、室内には誰もいなかった。
「金に困っていたようだから、魔法薬を売る目的で盗んだのならいいが、ここに恨まれている奴がいるからな、復讐目的だったら厄介だな……」
僕を見てクリスが面倒くさそうに嘆息した。
「いや、でもあいつは裁判中で、牢に入っているはずじゃ?」
ギャンブル依存症のバックスは、金に困って学園の金に手をつけていた。その証拠を集めて、僕がバックスを学園から追い出したのは記憶に新しい。
「逃げた、もしくは釈放された。取り敢えず、犯人はシリル・バックスの可能性が高い。このことは学園長に話しておいた方がいい。僕たちだけでこれ以上動くのはやめておこう」
「クリスらしくないな。自分たちで解決するのかと思った」
「犯人が生徒なら、そうしただろうけど、相手は元教官。それも犯罪者が絡んでいるなら、僕たちで動くのはお薦めしない。勝手に動いて、減点されたらアルベール寮長が怒り狂うだろう?」
「……確かに、アルベール寮長の怒りは勘弁して欲しいな。よし、学園長に丸投げしよう」




