第19話 寮対抗戦
10日後の正午、各寮の生徒が運動場に集まっていた。寮対抗戦に参加するのは、各寮に所属する1年生から4年生の生徒だ。公正を期すため参加人数は同数とされ、足りない場合は5年生の参加も認められている。
5年生の中で、就職が決まり成績に問題のない生徒の中から寮長が指名するらしい。5年生後期は、卒業に向けて就職先を決め、卒業単位を取得する必要がある。
ほとんどの生徒が、前期の間に就職先を決め単位取得をしているので、この時期に就職先と単位が取得できていない事の方が問題になる。
「ほとんどの5年生は、既に卒業後の就職先で研修に入っているから、参加できる人も限られているんだ。残っている先輩は単位不足で補習中か、卒業後就職せずに領地に戻る貴族くらいかな?」
マーティンの説明に僕たちは周りを見渡した。赤のフェニックス寮は一番人数が少なかったので、卒業後領主見習いになることが決まっている先輩2名が参加していた。白のユニコーン寮からは1名、青のドラゴン寮と緑のグリフォン寮は寮生自体が多いので、4年生は希望者のみで構成されるらしい。
「各寮、注意事項は確認したな。それでは10分後に開始する」
各寮の副寮長は運営に当たり参加は出来ないため、指揮を執るのは寮長だ。マーティンの予測通り、今回の寮対抗戦は【宝探し】だった。大小計50個の宝箱が、学園敷地の指定された範囲内に隠されており、大10点小3点が獲得できる。魔法は禁止で、違反者がいれば1名につき10点減点の上、その者は退場となる。
勿論、喧嘩なども同様に減点の上退場だ。つまり体力と作戦のみで、宝箱を時間内に多く見つけた寮が勝ちだ。ちなみに勝利した寮には、魔法学園長から希望した品物が贈られる。去年は白のユニコーン寮が勝ち、娯楽室にビリヤード台を設置してもらったらしい。
「フェニックス寮はいつもの4名の班単位で探すからな。くれぐれも不正はしないように。魔法を使ったら、分かるように指定した場所には魔法陣が隠れている。減点された奴がでたら、班の連帯責任だから、それぞれ4人で注意し合うように。今年は絶対に勝つ!分かったな!」
去年僅差で負けたのが余程悔しかったのか、アルベール寮長が皆に気合の入った言葉をかけた。僕たちは「はい」と返事をして、班に割り当てられた捜索範囲を確認した。
捜索範囲は寮のある東側、西側と図書館と職員室を除いた学園のほぼ全域だ。流石に闇雲に探すには広いため、班ごとに捜索範囲を指定されていた。
「僕たちが探すのは、南側の校舎か。美術室や魔法学の専門室も含まれていたな。立ち入り禁止の部屋は張り紙が貼ってあるし、鍵がかかっているから入るな、と」
「魔法学の部屋には、危険生物の標本や毒薬もあるから流石に入れないし、美術室には高価な絵画が数点保管されているから、こんな時にどさくさで紛失したら大事になるから立ち入り禁止だろうね」
「その部屋を除いても、南の校舎には部屋がいくつもあるんだ。探すだけでも骨が折れるぞ」
「魔法禁止なんて、魔法学園なのに理不尽だ」
クリスが、面倒だと溜息をついた。
「魔法なんて使ったら、宝探しなんてあっという間だろ?それじゃあ面白くない。第一魔法を使っていいなら、学園内では出来ないさ。この人数が一度に魔法を使えば、魔法学園が吹っ飛ぶぞ……」
「ああ、確かに……」
「若者らしく、体力勝負でやるしかないな」
開始の笛が鳴ったので、僕たちは南校舎に向かって一斉に駆けだした。
「よし、小宝箱発見!ここには2つだけみたいだな」
マーティンの立てた作戦通り、僕たちはまず南館の屋上を目指した。僕たちと同じように南館を目指す寮生が一階の教室に入っていくのを確認した後で、そのまま真っすぐ一番上まで駆け上がったのだ。
下から順に探せば、皆で奪い合いになる。その点、屋上にはまだ他の寮生は誰も来ていなかった。体力には自信があったが、それでも一気に5階まで駆け上がるのは大変だった。
「よし、次は4階だな。ここでどれだけ早く見つけて差をつけるかが勝負だ。おそらく2階までは他の寮生も探し出しているだろう。ここはまだ他の寮生が来ていない。今の内だ」
僕たちはそれぞれ別の教室に入って、宝箱を捜索した。机やロッカー、椅子の裏、カーテンの裏まで見て回った。
「見つけた。赤いから大の方か?」
小は緑色。大は赤色の宝箱で、中に入っている得点を書いた紙は、捜索終了後に確認するらしい。ハズレもあるらしいから、結局終了するまで得点は分からないのだ。
「こっちにも緑の箱があったよ。ここは探したから、僕は次の部屋を見てくる。そろそろ下が騒がしくなってきたから、急ぐね」
コーディーとマーティンがそれぞれ別の教室に入っていった。僕も見つけた赤い箱を鞄にしまって、他の教室を目指して走った。
「ここは魔法学の部屋か。立ち入り禁止の貼り紙はないのか?鍵は、かかってない、入っていいのか?」
僕が扉を開こうとすると、先に教室から誰かが出てきて勢いよく僕にぶつかった。僕は反動で尻もちをついたが、相手はそのまま廊下を走って行ってしまった。
「おいっ」
声を掛けようとした時には、その者の姿は見えなくなっていた。
「大丈夫か?」
背後からクリスの声がして、僕は慌てて振り返った。
「そこは立ち入り禁止だろ?」
「え、でも紙は貼ってなかったし、鍵は開いていたけど?」
「いや、僕は見た時には、立ち入り禁止の紙も鍵もかかっていたよ」
床を見ると、引き破られた紙が落ちていた。つまり、誰かが無断でここに侵入していたらしい。
「どうする?時間が無いから、知らせるのは後にして先に探すか?」
クリスは落ちていた紙を拾って、ドアに貼り直すと、溜息をついて首を振った。
「いや、ここに無断で入ったんだ。何かを持って出ていたらすぐに探した方がいい。これ、僕が探した宝箱だ。渡しておく。僕はこのまま本部に戻って、魔法学の部屋に誰かが侵入したことを報告してくる」
「分かった。気をつけろよ」
クリスが差し出した2つの箱を受け取って鞄にしまうと、僕はそのまま次の教室を目指した。コーディーとマーティンに合流すると、簡単に事情を説明して3階を目指した。
「1階は探しても見つからないだろうから、僕たちも本部を目指しながら道の途中にある宝探しをしよう」
終了時間までに、それぞれの寮が持っている箱の中に宝箱を入れないと、点数に加算されない仕組みだ。少し時間の余裕を持って、僕たちは本部のある中央校舎に辿り着いた。
「赤の箱が3つ、緑が6つで32点……流石に全部が当たりではなかったな」
箱に宝箱を入れると、入れた分の点数が表示された。合計は終了時に表示されるそうだ。半数ほどの寮生が本部に戻り、残りはこちらに続々と戻ってきている途中だ。
「クリスはどこだ?」
「見当たらないな。アップルトン先輩に聞けば分かるかな?」
僕たちは、運営本部にいる副寮長のアップルトン先輩の元へ向かうことにした。




