第17話 腹を割って話そうか
コーディーが僕とクリスに歩み寄ると、そのまま光魔法で治療を始めた。
「僕が付与した防御用の魔法は、魔法攻撃に効果があるものにしたから、直接攻撃には効かないんだよ。殴り合いをする予定なら、そう言ってくれたらいいのに……」
「痛っ……、てて、コーディー、優しく治してくれよ……」
口の中が切れているのか、鉄の何とも言えない味がした。コーディーが手を患部に当てて癒しの光を出すと、少し痛みが和らいだ。
「僕は癒しの光はまだ苦手なんだよ。少しは痛みがましになるとは思うけど、ちゃんと医務室で先生に治してもらってよ」
いつも怪我をすると、リアがすぐに治してくれるので、それが当たり前だと思っていたが、どうやら違うらしい。このままタウンハウスに帰れば、リアが泣きながら癒やしてくれるだろうと考えると情けなくなった。怪我が治るまで、タウンハウスに帰るのはよそうと心に決めた。
「でも医務室に行くにしても、このまま泥だらけで歩いたら注目の的だぞ。クリス、疲れていると思うが、4人を医務室まで転移できるか?」
マーティンが僕とクリスの格好を見て、演習場の外を見た。見物に来ていた生徒は、先ほど教官が連れ出したが、演習場の周りにはまだ野次馬が残っているようだった。
「わかった」
クリスがすぐに転移魔法を発動した。上級魔法を、それも4人同時に転移するなんて、さっきまで全力で戦っていた僕の魔力は最低限しか残っていないというのに、それが可能なクリスの魔力の多さを改めて思い知らされ、ちょっとだけ落ち込んだ。
急に転移してきた生徒たちに、小言を言いながらも医務室の先生は二人の怪我を癒してくれた。
「魔力も含めて、完全回復は流石に無理だから、このポーションを飲み干してちょうだい。はっきり言って激マズだけど、喧嘩するような子には、これくらい我慢してもらわないとね。さあ、一気に飲み干してよ」
そう言って、何とも形容しがたい色のポーションをクリスと僕の前に突き出した。僕とクリスはお互いの顔を見てから、覚悟してポーションを飲み干した。
「うげっ、泥の味がする……、後味が苦すぎる~。みっ水を下さい!」
僕とクリスは差し出された水を一気に飲み干した。
「ハハ…アハハっ、マズすぎて、何だか笑えてきた」
向かいの席に座っているクリスを見たら、同じように笑っていた。
「……ごめん、クリス。勝手に腹を立てて、酷い態度を取ってしまった。僕は白の魔法使い候補になったクリスが羨ましかったんだ……」
「いや、こっちこそ、嫉妬して悪かった。僕もキースが羨ましかったんだ……」
「僕が羨ましい?」
「白の魔法使いのマーカス様が、キースの父親だろ?後継者の引継ぎで話す機会があって、こんなにいい男が父親だなんて、キースが羨ましくて、ズルいと思った」
「父さんか……、それは、確かに家族には恵まれているとは思うけど、こればっかりは、なんて言っていいか分からないな……」
マーティンがハッとしたような顔で僕たちを見た。悪だくみを思いついたような顔に、僕は嫌な予感しかしなかった。
「あのさ、いい考えだと思うんだけど、クリスがキースの妹を娶ればいいんじゃないか?そうしたらマーカス様が、義理の父親になるだろ?オーレリアは、将来絶対美しくなるはずだ、保証する」
「な、何言っているんだ⁉勝手に僕の可愛い妹を保証するな。どうしてこんな女たらしのクリスに、大切な妹をやらないと駄目なんだ?絶対ダメだ!」
「へぇ、キースの妹か。それはいいかもな」
クリスが冗談なのか本気なのか分からない態度で、僕の方を楽しそうに覗き込んだ。
「駄目だ!リアはまだ4歳だぞ。クリスは、まさか幼女もいけるとか言わないよな?そうだとしたら、友達をやめるぞ!」
僕が本気で焦っていると、クリスとマーティンが堪え切れないように笑い出した。
「マーティンもクリスも、キースを揶揄わないの。キースも、リアちゃんが可愛いのは知っているけど、ちょっとシスコンが酷いよ」
コーディーが呆れたように溜息をついて、医務室で騒がしくし過ぎたことを先生に謝ってから、僕たちを医務室から連れ出した。
寮に戻ると、寮生がチラチラとこちらを気にするように見ていた。魔法試合は滅多に行われないし、理由が気になるのだろう。
「当分は注目されるだろうけど、そのうち忘れるさ。気にするなよ」
マーティンが僕とクリスの肩を叩いて、自分の部屋へと戻っていった。コーディーも、僕たちに微笑んでそのまま部屋へと向かったので、僕たちもそれぞれの部屋へと戻った。
顔や腹についた痣は3日で完全に消え、生徒から向けられる好奇の目にも慣れた頃、1年生の魔法演習が本格
的に始まった。
「闇属性は人数が少ないので、1年2年合同授業になるぞ。俺は担当するシリル・バックスだ。バックス先生と呼ぶように。1年生は、俺が指導するが、2年生は実戦、というか、闇に馴染むことが目標だ。闇を拒否していては、その次には進めないからな……、と、そこの1年生、驚いた顔をしているが、質問があるなら挙手だ」
僕の方をバックス先生が指したので、僕は立ち上がって疑問に思ったことを口にした。
「1年生のキース・アドキンズです。2年生が闇に慣れることを目標にするのなら、1年生は何をするのでしょうか?」
「アドキンズ……、そうか、お前が噂になっている白の魔法使いの倅か。1年生は闇魔法の基礎、まずは影に入る訓練からだな。お前のことは聞いたぞ。最近魔法試合をして、演習場を破壊しかけていたな……。今の時点で影に入ることも、闇魔法もかなり使えるとか。さすがは闇属性で初めて白の魔法使いになった方の息子だとは思うがな、天才とバカは紙一重。お前がどちらか、俺が直接判断させてもらおうか?」
周りの生徒が奇異の目で僕を見るのが分かった。どうやら授業初日から、悪目立ちしてしまったようだ。今更、どうすることも出来ず、僕は先生の出した課題を黙々とこなしていくしかなかった。
「キース、大丈夫か?食欲がないようだが?」
目の前に置かれた食事に手をつけなかった僕に、クリスが心配そうに声をかけた。
「ああ、ごめん。ちょっと疲れているみたいだな……」
「最近どうしたの?ずっと暗い顔をしているよね」
コーディーの言葉に、僕は曖昧に微笑んだ。確かに最近ずっと気分が追い詰められていた。原因は分かっている。担当教官のバックスが、僕を闇魔法の授業という大義名分の元、限界まで追い込むからだ。
父さんの愛の鞭的な修行ではなく、確実に個人的な恨みで、精神的に追いつめ心が磨り減るような課題を出す。これを虐めだと言わずして何と言う。ただ、僕の矜持がバックスに屈することは許さなかった。
「ちょっと鬱陶しい虫がいてさ。そろそろ我慢の限界だから、確実に潰さないとね」




