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第16話 初めての喧嘩

お話が前後したので、16話一度削除して、もう一度投稿しています。

すみませんが、よろしくお願いいたします。

「……」

 クリスの言っていることは間違っていない。14歳のクリスが、領地と爵位を継承しているだけでも大変なことだった。その上、国の代表として白の魔法使いを務めることになれば、クリスの負担は計り知れないものになるだろう。でも、……

「どうした、キース?」

「ごめん、クリス。今、話したら僕は君に暴言を吐いてしまう。当分、話したくない!」

「え?おい、キース……」

 僕の言葉を聞いて、クリスが僕の肩を掴んだが、僕はそのまま影の中に入ってクリスの前から姿を消した。いつもは不安なだけの暗闇が、今の僕には居心地がいい気がした。仄暗い気持ちのまま、僕は暫く影の中で瞳を閉じた。


「おい、どうしたんだ?クリスとキースが喧嘩したって皆が噂しているぞ」

 マーティンがその日の夜、僕の部屋を訪ねて来た。夕食は食べる気になれず、そのまま寮の部屋で過ごしていた。僕はマーティンを部屋の中へ招き入れた。廊下では、他の寮生に話を聞かれてしまうし、今ここで白の魔法使い選出のことを言うわけにはいかなかった。

「喧嘩ではない、と思う。僕がクリスの言ったことに納得できなかっただけだ……」

「それは、クリスが白の魔法使い後継者候補になったことか?」

「クリスに聞いたのか?」

「いや、もう一部の者の間で噂になっている。まあ、俺の情報網もあるから、一概には言えないけど、明日には学園内に知れ渡るだろうな。候補ってだけでも、名誉なことだからな」

 マーティンは風魔法を使って、遠くの話声を聞くことが出来るそうだ。趣味の情報収集には適している。

「そうか、そうだよな。普通は名誉って考えるよな。でも、クリスは断りたいと言ったんだ……」

 マーティンは僕が小さい頃から、父さんを目標に白の魔法使いに憧れていることを知っていた。僕の心境を理解したように嘆息した。

「ああ……、なるほどね。キースからしたら、喉から手が出るほど欲しかったものを、目の前で捨てられた気がしたのか……」

「はっきり言われると、なんだか情けないけど、きっとそうなんだろうな。クリスの状況も分かっているのに、喜んでいないクリスを見たら腹が立った……自分勝手だよな……」

「まあ、すぐに納得は出来ないかもしれないが、早めに歩み寄ってやれよ。今日のクリスは、ずっと元気がなかったからな」

 マーティンは僕の肩をポンポンと叩いてから、部屋を出ていった。一方的に僕に怒りを向けられ、理由も分からないクリスのことを思えば、本当に申し訳なくなったが、僕の中で生まれた感情はなかなか消化できなかった。次の日クリスは放課後、不機嫌なまま王宮へ出かけて行った。

 結局気持ちの整理が上手くできなかった僕は、クリスと話すことが出来ないままだった。


「ねえ、もう7日目だよね。どうするのさ。寮での行動は4人グループでするのに、ずっと二人が無言だから、僕たちすごく気まずいんだよ」

 コーディーが呆れたように僕たちを見た。僕たちが喧嘩して会話を拒否してから、早いもので7日経った。ここまで長く沈黙が続いたのには、それなりの理由があった。

 当初、僕もちゃんと反省して、王宮に行ったクリスを待って話をするつもりだった。それなのに、今度は王宮から帰って来たクリスが、寮で待っていた僕を見た途端不機嫌になったのだ。

 そこからは意地の張り合いだった。どちらも折れる気はなかった。ただ、クリスが不機嫌になった理由は、僕もマーティンも知らなかった。コーディーは知っているようだが、そこは本人同士で話し合えと言って教えてくれなかった。

「流石に長いよな。このままは俺も耐えられん」

「……わかった、クリス、僕と魔法で勝負してくれ」

「……、いいけど、本気でするぞ」

「ああ、それでいい」

 

 魔法学園で生徒同士が、魔法で勝負することは珍しいことではない。申請さえ出せば、怪我をしない範囲で模擬試合をすることが出来る。殴り合いの喧嘩は、指導され成績減点対象だが、申請の上魔法対決するのであれば、減点はされないのだ。魔法学園ならではのルールだと思う。

「本当に勝負するのか?キースも強いが、クリスは白の魔法使い候補だぞ。二人ともただでは済まないぞ」

 マーティンの問いに、僕たちは是と答えた。

 申請が通って、僕たちは魔法演習場へ来ていた。噂を聞きつけた生徒が大勢見学に来ていた。まるでお祭り騒ぎだ。どちらが勝つか、秘かに賭けをする生徒までいるようだ。

 クリスが白の魔法使い候補になったことは、全生徒が知るところになっていたし、僕が現白の魔法使いの息子だというのも有名な話だ。こちらの気持ちなんてお構いなしで、勝手に盛り上がられるのは少し面白くないが、この際、外野は無視だ。

 申請をした時点で、担当教官が試合を見届けるために派遣される。時間外労働を強いるのは申し訳ないが、勝手に試合をすれば減点対象となるため仕方がない。

 クリスと僕は、演習場の決められた位置に着き、お互いに構えた。

「お互い無理はしないように。危険と判断した時点で中止するからな。では、開始」

 教官の声で僕たちはお互いに攻撃魔法を仕掛けた。クリスは氷魔法に雷魔法を付与しているのか、氷の刃は雷を纏って僕へ降り注いだ。僕は素早く躱しながら、闇魔法で作り出した刃をクリスに放つと同時に足元の影を使って、クリスを足止めする。

「おいっ、いきなり危険行為続出だぞ!」

 担当教官が、焦った様に叫んだが、僕たちはその声を無視した。気が逸れた方が負ける。僕の放った攻撃を避け、影を避けながらクリスが僕に火炎魔法を放った。見学していた生徒たちが、焦った様に演習場から退避していく。僕は闇魔法を放ち、火炎魔法を無効化しながら、更に影をクリスに纏わりつかせた。

 クリスは氷魔法で影を相殺して、そのまま僕に向かって風魔法を放った。僕は風圧に耐えられず倒れたが、攻撃が来る前に影の中へ入った。そしてクリスの背後にまわり闇魔法を仕掛けようとしが、クリスが素早く振り返って魔法ではなく拳で僕の顔を殴りつけてきた。

「な、なんで殴るんだ!そっちがそう来るなら、僕も我慢しないからなっ!!」

 僕は叫びながら、クリスの胴に向けて拳を打ち込んだ。クリスは少し呻いたが、そのまま僕に蹴りを繰り出した。結局そのまま魔法試合ではなく、乱闘になった僕たちを、切れ気味の担当教官が拘束魔法で止めるまで、僕たちは殴り合いを続けた。

「これ以上は減点だからな!双方、魔法試合違反で退場だ!お前たちには口があるんだ。何かあるなら拳ではなく、話し合え!以上」

 担当教官がそのまま演習場を出ていくと、その場にはボロボロになった僕とクリス、そして見守っていたマーティンとコーディーだけが残された。他の生徒は教官が解散を命じて、演習場の外へ連れて行ったようだ。

「僕も先生の言葉に賛成だよ。対話するべきだ」


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