第15話 1年生後期
申し訳ございません!
15話を飛ばして、16話を先に投稿していました。
クリスが寮に戻って来たのは、新学期を明日に控えた夜だった。伝書蝶で今夜遅くに戻ると書いてあったので、僕たちは寮の談話室でクリスの帰りを待っていたのだ。
深夜近くになって、クリスが寮へ帰って来たので、話を聞きたくて温かいお茶を入れて4人で談話室のテーブルについた。
「クリス、エイベル伯爵のことご愁傷様です。葬儀に参列できなくてすまなかった」
「葬儀は急だったから、気にしないで。皆から立派な供花が届けられていて、こちらこそ気を遣わせた。ありがとう」
「それで、クリスは後継者になれたのか?」
マーティンが皆の気になっていたことを、待ちきれずに聞いた。父親と継母との関係を聞いていた僕たちは、最悪の場合クリスが後継者になれない状況を考えて心配していた。
「ああ、父が遺言書にちゃんと後継者は僕だと書いていた。継母は父の残した別邸に移ったから、今後は僕が爵位を継ぎ領主になる。と、言っても僕はまだ14歳で学生だからね。正式に後継者になるのは成人の16歳だし、卒業するまでは、信頼できる者に領地の管理を任せてきた」
「そうか、それなら安心だな。……問題はないはずなのに、どこか浮かない顔だな?」
「そう見えるか?…父親としては、お世辞にも良い親とは言えなかったけど、父は領主としてはちゃんとしていたようだ。その事は後継者の引継ぎの時に分かったけど、出来れば父から直接教えを受けたかった。僕の家族はあの父だけだったと、気づいた時にはもういなかった。そんな後悔なのか、なんなのかよく分からない気持ちがずっとあって、モヤモヤする」
執事長が引継ぎの書類を確認しながら、父親がどんな領主だったのかを聞かせてくれたそうだ。領主としては、真面目で尊敬の出来る人物で、葬儀の際も多くの領民が献花をしに屋敷に来ていたそうだ。
逆に継母は、父を社交に頻繁に連れ出し、派手な生活態度で領民からも嫌われていたようで、別邸に移すことを反対する者はいなかったそうだ。
「ずっと嫌われているから、僕は放置され迎えが来ないと思い込んでいた」
執事長が語る父親と、幼い自分が思っていた父親では印象がかなり違い、恨んでいいのか悲しんでいいのか分からないとクリスは俯いた。魔力が安定した頃、父親はクリスを迎えに行こうと考えていたらしい。それを継母が強く反対して、渋々諦めたそうだ。
執事長は面会に行く度に、伯爵にクリスを迎えに行くように進言したが、結局決断できない間に病に倒れ、そのまま死を迎えてしまった。親子としての関係性は、6歳の記憶で止まったままだ。
「父の死際ですら、僕は涙一つ零さなかった……酷い息子だと継母に責められたよ」
「なっ、そんなこと言うなんて、その継母がどうかしているんだ。自分たちが招いた結果を、子供に押し付けるなんて、その継母の方が余程酷い奴だ!」
「まあまあ、マーティン。夫人も伯爵が亡くなって気が動転していたのかも、だしさ。まあ、どうかとは思うけどもさ……」
コーディーが怒るマーティンを宥めながら、夫人を擁護しようとして、途中で諦めた。どう考えても継母が悪いと思ったのだろう。
「クリスは悪くないさ。僕たちがそれは保証する。兎に角、明日からは後期が始まるから、そろそろ解散しようか」
僕が空になったカップを片付けながら席を立つと、皆も席を立った。窓の外の月は、いつの間にか遠くに輝いていた。
「皆、席に着いたな。今日から後期だ。今期からは魔法演習が始まる。基本的に属性別に授業が進むが、初めはクラス単位で演習場に行く。レベルを見せてもらうからな。今日は夏季休暇に出していた課題を、提出した者から帰宅していいぞ。出せなかったものは、今日は居残りで提出して帰ること。では解散」
僕とクリスは、提出用の箱に課題を出して、そのまま教室を出た。そこで担当教官にクリスが声をかけられたので、僕はそのまま寮に戻った。
「おかえり、キース。俺たちの方が先だったな。早めに昼食に行こうかと思ってたんだけど、一緒に行くか?」
寮の廊下でマーティンとコーディーと会い、声をかけられた。廊下に掛かっている時計を見ると、昼よりは少し早い時間だった。
「いや、いいよ。クリスがまだ帰って来ていないから。帰って来てから一緒に行くよ」
「おう、そうか。じゃあ、先に行ってるよ」
二人に手を振って自分の部屋へ戻って来ると、伝書蝶が僕の机の上を飛んでいた。僕が手を差し出すと、伝書蝶は僕の手の平に静かに着地して手紙に戻った。
『今朝、正式に決まった。クリスティアン・エイベルを含む4名を後継者候補として指名する。父』
タウンハウスで残りの夏季休暇を過ごす間も、妹のオーレリアは魔力暴走を度々起こしていた。仕事で父がいない時は、僕と母さんがリアの魔力暴走を抑えていた。小さな体で、魔力暴走の後遺症に苦しむリアを見るのは正直に言って辛かった。
王都は天界樹があり、清浄の力の影響を受けやすい。父の仮説では、リアは王都から離れ天界樹の影響を受けにくい領地で過ごす方が、魔力暴走も起こしにくいだろうと言っていた。
「ここのところ、父さんが夜遅くまで仕事していた理由は、このことか……」
今のリアの状態を考慮すれば、出来るだけ早く王都を出て領地に帰った方が良いことは明白だ。だからこそ、現時点で白の魔法使いに相応しい人材が指名されたのだ。
指名された者を、父さんが引継ぎしながら適性を考慮し、最後の一人に絞るそうだ。間違いなくクリスがその中の最年少で、そして魔力量は文句なしに一番多いだろう。それは、一緒に過ごした僕が一番わかっていた。きっと今の父さんの魔力量より多いんじゃないだろうか?
「末恐ろしいよ、悔しいけど……」
一時間後、学園から戻って来たクリスは、誰が見ても分かるくらい明らかに不機嫌だった。昼食を取らずに待っていた僕は、不機嫌なクリスをそのまま食堂へと引っ張って行った。
「とりあえず、食べようか。僕、お腹ペコペコなんだ」
眉間にシワを寄せたまま、クリスが黙々を出された食事を口に運んでいく。僕も黙って食事を完食した。食後のお茶を飲みながら、僕は目の前に座っているクリスを見た。
「それで、どうして不機嫌なんだ?」
「……学園長が、僕を売ったんだ……」
「ん?売った?どういうことだ?」
「さっき、教官について行ったら、魔法学園長室だった。いきなり明日から放課後、王宮に行くように言われた。僕が白の魔法使い候補になったって言うから、断ろうとしたら脅された。僕が断れば、魔法学園に支給されている王宮からの助成が減額されて、多くの生徒が困ることになるって……。助成金が欲しいから、僕を差し出したってことだろ……」
「断ろうとした、のか?」
「僕は領地を継いだばかりだ。それだけでも荷が重いのに、その上国の代表である白の魔法使いだなんて、無理だと思わないか?」
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