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第10話 クリスティアン・エイベルという男

投稿遅くなってすみません。

 セリーヌ先輩のことは、僕も秘かにいいと思っていたのだ。好きというよりは、憧れの存在。清楚で可憐、男爵家の次女で誰にでも親切だ。そんな3歳年上の女生徒は、下級生を中心に人気が高かった。

 そんなセリーヌ先輩が、クリスと一緒に空き教室から出てきたところを目撃した時は、ハッキリ言って衝撃だった。二人とも服装が少し乱れていて明らかに何かあった、そういう何とも言えない雰囲気だ。

 僕の隣にいたマーティンが、空気を読まずに二人に気づいて声を掛けると、セリーヌ先輩はそのまま慌てて走って逃げてしまった。

 少しだけ気まずそうにクリスが僕たちの元にやって来た。マーティンがセリーヌ先輩の走り去った方角を見てからクリスを見た。

「クリス、今のセリーヌ先輩だろ?知り合いなのか?」

「いや、最近知り合ったのかな?あっちから声を掛けてきて、何となく、かな?」

 下位の貴族令嬢は、この学園で知り合った貴族令息と結婚することを目的にしていることもあるそうだ。セリーヌ先輩からのお誘いなら、ほとんどの貴族令息が悪い気はしないだろう。清楚な先輩だと思っていたけど、どうやら見た目と中身は違っていたらしい。

「そうか、クリスは伯爵家の嫡男だもんな。付き合うのか?」

 付き合って婚約する生徒も多いため、僕がクリスにそう聞くと、クリスは服装を直しながら微笑んだ。その仕草すら、男の僕でもドキリとするほど色気があるから問題だ。

「いや、そんな感じではなかったな。歳下の僕に興味があっただけだろ?彼女なら、もう少し上を目指すんじゃないか?例えばキースやマーティンとか?まぁ、先ほど見られてしまったから、流石に二人を狙うことはないと思うけど……」

「どういう意味だ?」

「気づいてないならいいけど、マーティンは女性を見る目を少し養った方がいいな。名門伯爵家の嫡男が、羊の皮を被った狼女子に襲われて既成事実とか騒がれたら大問題だぞ」

 クリスが冗談っぽく溜息をついたが、マーティンは言われた意味が分からないのか、コーディーと僕を見た。

「うん、そういう女生徒も多いらしいね。クリスはそこ大丈夫なの?既成事実とかさ」

 コーディーの問いに、クリスはにこりと微笑んだ。

「最後まではしないから、既成事実にはならないさ。それに誘ったのはあっちだし、例え最後までいったとしても、避妊魔法は得意だから子供が出来て責任取れなんて事には絶対ならない」

「な、なんだ、その、ひ、避妊魔法なんて、お前は、乱れ過ぎだぞ!」

 マーティンが頬を染めてたじろいだので、思わず僕たちは顔を見合わせて微笑んでから、一斉にマーティンに抱きついた。

「いいな、その真面目で熱い性格。安心する」

「マーティンはきっと結婚するまで清い関係なんだろうな」

「ば、馬鹿にしているのか⁈」

「違うよ。心から尊敬しているさ」

「コーディーだって、そうだろうが」

「ははは、僕にはもう婚約者がいるからね。今は清くても、そのうち分からないよ。クリスに魔法教えてもらっとこうかな?」

 意味深な発言をしてコーディーがマーティンを揶揄った。4人の中で婚約者がいるのはコーディーだけだ。相手は侯爵家の一人娘で、ゆくゆくはコーディーが入り婿になって爵位を継ぐそうだ。

 お互いが住む領地も近く二人は幼馴染で仲がいい。コーディーが婚約者を大切にしていることを僕たちは知っているので、早く結婚することはあっても、結婚するまで手を出さないだろう。たぶん……

 それにしても、ここ最近のクリスは本当に大丈夫なのか心配になることが多い。いつか恨みを買って刺されたりしないだろうか?

 この間もクリスをめぐって勝手に女子が揉めていたし、そのような場面も増えてきた。上手く距離をとっても、女子同士が勘違いをして揉めているのだから、こちらは静観するしかないのだが……

「クリスは気をつけろよ。恨みを買うようなことしたら、いつか報復されるぞ」

「分かっているよ……」



 夏季休暇は順調に経過し、いよいよ折り返しの時期に入った。僕たちはマーティンの領地で待ち合わせ、残りの夏季休暇を過ごすことにしていた。

 マーティンの父、ユーイング伯爵が治める領地は、北の辺境伯領に隣接しているため夏は涼しく、冬は雪深い。特産品のチーズやメープルシロップは品質が良く、夏は避暑地としても人気がある。観光地としても有名な大きな湖があり、その周辺一帯は貴族の別荘も多い。

 クリスと僕は王都で待ち合わせ、そのままクリスの転移魔法で移動してきた。コーディーは先に家族と婚約者も一緒に避暑地の別荘にいたらしい。婚約者のアリス嬢は魔力が少ないので、普段は領地で家庭教師に勉強を教わっているので、魔法学園で寮生活をしているコーディーとはなかなか会えないのだ。

「久しぶりだな、マーティン、コーディー。マーティンは背が伸びたな。コーディーは少し太っただろ?」

 マーティンは会ってない間にかなり身長が高くなっていた。14歳の僕たちは、成長期で伸び盛り、実は僕も成長期で膝が痛む日がある。

「母上が久しぶりに会う僕を甘やかしたくて、好物のケーキを沢山用意していたからね。食べるしかないよね。一応食べる量は控えているけど、これも親孝行だよ」

 コーディーが仕方なさそうに嘆息した。入学当初よりはそれでも細いが、末っ子を溺愛する母親の甘やかしは、気をつけていても体重を増加させるようだ。

「別館を自由に使えるようにしている。観光するなら、このまま案内するが、どうする?」

「荷物もあるし、クリスも僕を連れて転移してきたから疲れているだろう?一度別館に行って、休憩してから考えていいか?」

「ああ、かまわない。ここからは馬車で移動しよう。クリスはここへ来るのは初めてか?」

「ここどころか、旅行自体、記憶にないからたぶん初めてだ」

「そうか、自分で言うのもなんだけど、いいところだから楽しんでくれ」

 僕たちはマーティンの領地で10日ほど過ごし、その後は王都のタウンハウスへ戻る予定だ。夏季休暇は長いので、王都でも令嬢令息の交流を兼ねた会が催されている。それぞれに招待状が届いているので、残りの休暇は社交することになる。

 本格的な社交界は成人する16歳からだが、その前からいろいろな場所で顔を広めておくのが貴族という者なのだそうだ。本当に面倒なことだ。

 案内されたユーイング伯爵家別館は、本館よりは小さいが4人で過ごすには十分な広さだ。本館の庭を通り奥に進むと見えてくる。茶色の壁に赤い屋根の可愛い造りだ。

「二階に客室が6部屋あるから、好きな部屋を使っていいぞ。一階に食堂と居間、浴室。娯楽室もあるぞ」

「いつもありがとう。慣れているから勝手に使わせてもらうね」

 コーディーと僕は、何度かマーティンの領地に遊びに来て、ここの別館に宿泊したことがある。初めは両親も一緒に来ていたが、妹のリアが生まれてからは、僕だけで遊びに来るようになった。


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