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比較的最近更新した短編のまとめ場所

英雄と王子と配信動画

作者: リィズ・ブランディシュカ




 あるところに、英雄がいた。


 美しい顔の男性だ。


 選ばれた者らしい、骨董品のような顔つきの男性が。


 彫像として街中に立っていても不自然ではないと、本人は考えている。


 その英雄は、多くの人から賞賛されたいと思う人間


 彼は、承認欲求の塊だった。


 だから配信動画で己の英雄的行為を撮影し、多くの虐げられし者達の救世主として君臨する事をはじめた。


 それが彼のすべき事だと思ったからだ。


 他にやりたい事がなかったからなどでは、なかったからだ。


 そんな英雄が目をつけたのは、狂った王子だった。


 人々を困らせる悪い悪い、王子だ。


 その王子は、多くの女性にもて、多くの権力者にちやほやされる、イケメンという存在だった。


 英雄も美しかったが、イケメンと呼ばれたことはなかったため、英雄は嫉妬した。


 多くの人が名前を知っていて、しかも慈善活動で人を救いもしている。


 それを知った英雄ははぎしりをした。


 自分が一番賞賛されなければ気が済まない。


 そう考えた英雄は、王子に剣を向けることに決めた。


 王子を悪として討伐し、自分が一番になるために。


 そのために、たくさんのただの事実に目をつけて、揚げ足取りし、何かあれば犯罪行為にこじつけ、正義の名の元に断罪した。


 配信動画を通してその断罪劇を見ていた虐げられし者達は、その事実を鵜呑みにしてしまう。


 救世主として悪の王子と戦う英雄は、承認欲求が満たされるためなら、何でもした。


 だから、英雄の行動はエスカレートしていく。


 はしから見たら、冷静な者達がみたら、それは滑稽なダンスにすぎなかった。


 だが渦中の者達は、自分たちをとりまく環境の不自然さに気づけない。


 虐げられし観客たちの拍手が大きくなるたびに、ダンスは派手になっていく。


 断罪劇という演目の舞台で踊る英雄と王子は、拍手の音が多すぎて、舞台以外からの声に気づけない。


 王子も王子で自分を倒そうとやっきになる英雄を迎え撃つのに夢中になっていたからだ。


 やがて、そのダンスに終わりがやってくる。


 王子は倒れ、剣を血で濡らした英雄が高笑いをした。


 滑稽なダンスが行われていた舞台に、幕が下りる。





 英雄はその後、無敵の人の救世主と化した。


 大きな成功が、彼の背中を押してやまなくなる。


 それに加えて、多くの人が彼を助けた。


 よって、彼の勝率は高くなり、無敗になっていく。


 その結果、英雄の中にこれまでにわずかにあった躊躇いは消えてなくなり、進みたい道だけ歩くようになった


 視野が狭くなり、何か別のものを見たり、何か別の声に耳を傾けることもなくなった。


ーー我こそは、弱者救世の英雄なり。


ーー天下無敵の、不滅の正義なり。


ーー天下無双の英雄とは我!


ーー我を支持せよ。


 声高に叫びながら英雄の道を進んでいった彼は、勢いよく早く走るあまり、自らの足元にある落とし穴に気づけなかった。


「スクープ! あの英雄の過去の姿とは!」


「世間で注目されている今話題の英雄について大特集!」


「実はあの英雄にこんな秘められたエピソードが!?」


 落とし穴に落ちた結果。


 気が付いた時には、英雄は頭から血を流して倒れてしまっていた。





 それから英雄の姿はめっきり、世間ではみかけなくなった。


 配信動画をにぎわせる英雄は、彼ではなく別の人物。


 多くの人をわきたたせた断罪劇も、すっかり人々の記憶から消え去ってしまっていた。


 それからも何人も英雄が現れたが、その数と同じだけ、人々は現れた英雄たちのことを忘れ去っていった。






 数年後。


 怪我の後遺症で、布団の上から起き上がれなくなってしまった元英雄は、悲しみの涙を流しながらテレビを見る。


 そこは特別な一室。


 いつもカメラで見張られている病院の部屋の中。


 特別な英雄にはぴったりの場所の、特別な病室。


 しかし彼はこんな特別扱いは望んではいなかった。


「あの頃は、異常な空気感に包まれていました。ネットという便利な道具は諸刃の剣になりますね。取得する情報を選べないあまりに、自分に都合の良い情報ばかりを吸収して、思い込みが強くなっていくものもいたとか」


 英雄は半狂乱になりながら、テレビにつかみかかる。


 我は英雄なり。


 天下無敵の英雄なり。


 正義の人。


 天下無双の英雄。


 消えるべきは悪。


 消灯時間が過ぎてテレビの電源が自動的に消えれば、今まで思い込んでいた英雄の顔などそこには映っていなかった。


 暗いテレビ画面に反射するのは、ただの目立たない一般人。


 自分に自信の無さそうな気弱な人間の顔だった。



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