アウトオブあーかい部! 75話 白ちゃんの悩み
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
静かな部室に、重々しいキーボードの音が響いていた。
「…………はぁ。」
白ちゃんは1人、悩んでいた。
悩みの発端はいつかのPINEのトーク。
「『どこまでもステータスにこだわる辺り、やっぱあの人の子』、か……。」
「『あの人』?」
「…….ん?」
1人きりだと思っていた部室で自分以外の声がしたことを不審に思った白ちゃんは、恐る恐る振り向くと……
「お悩みのようね?」
「きょきょっ!?教頭先生!!??」
「ちゃお〜、教頭先生です♪」
教頭先生参戦!!
「え……私、何かやらかしました……?」
「いいえ?」
「じゃあ、なんでここに……!?」
「悩んでるかなぁって♪」
「い、いえそんな滅相もありませんっ!ついこの間お見苦しい所を見せた矢先、そんなこと……!?」
※53話参照
「ないのかしら?」
「…………今日は、あーかい部のみんなが来る日です。」
「そうねぇ、今ごろ3人とも屋上のお掃除に精を出している頃かしら♪」
「え……。」
「というわけでお子さまは来ませんっ♪」
「なんて周到な根回し……。」
白ちゃんは若干引いていた。
「……教頭先生はどこまでご存知なんですか?」
「白久先生が何か悩んでるな〜、って所までよ?読者だもの♪」
「……ひいろちゃんから聞いたんですね。あーかい部の投稿にそんなこと載せてません。」
「あら……しっかり目を通しているのねぇ。みんなと仲良くなってくれて、部の設立を許可した身としても鼻が高いわ♪」
「当たり前です。私は『顧問』なんですから……。」
白ちゃんは暗い口調で顧問という言葉を強調した。
「それで……『あの人』って?」
「……。」
白ちゃんは口を閉ざし、少しの間、部室は気まずい沈黙に包まれた。
「無理に聞くのもよくない
「雪。白久雪。私の母にあたる人です。」
白ちゃんは重い口を開き、淡々と語り出した。
「雪……素敵な名前ね。」
「ええ。彼女はとても誇り高い人です。」
「あら、誇ってる割には……随分と他人行儀なのねぇ?」
「……彼女は誇り高すぎるんです。自らの誉のためなら、なんでもする人ですから。」
「『なんでも』?」
「彼女は『完璧な教師』として、幾多の生徒を難関校へと排出しています。風紀の乱れ、少しの綻びも見逃しません。」
「そう……。」
「彼女に見入られた生徒は生徒指導室へ連れて行かれて、日が暮れるまで返ってこないことから……ついたあだ名は『雪女』です。」
「へぇ?努力家なのね♪」
「……………………。」
再び、しばしの沈黙。
「そんな完璧主義の雪さんは、きっと『完璧な母親』も目指したんじゃないかしら?」
「……ええ。彼女にとって、世間体は何物にも変え難い、大切なものでしたから……。」
「じゃあ、さぞ厳しかったんでしょうねえ?『お姉ちゃん』のあなたは、たくさん我慢させられたんじゃないかしら?」
「……どこまでもお見通しなんですね。」
「『教頭先生』だもの……って言うのがあなたにとっては正解かしら?」
「違うんですか?」
「お悩み相談なんて、教頭先生のお仕事じゃないわよ〜?」
「……そうですね。そういうのは寧ろ『養護教諭』の私の方が
「よし!」
教頭先生が突然立ち上がった。
「だいたいわかったからか〜えろっと♪」
「え……!?」
「あら、何か?」
「あ、いや……何かって、そういうわけじゃないんですけど……こう、励ましたりとか……っていうか、何する気なんですか?」
「何って……、あの子たちに心配しなくても大丈夫よって伝えにいくのよ?」
「そ、そうですか……。」
「そ、れ、と。白久先生は『養護教諭』だからみんなの面倒を見てるし、みんなと一緒にいるのは『顧問』だからで、これからも立派に『お勤め』を果たします……ってね♪」
教頭先生は故意に言葉を強調して言って見せた。
「なっ……!?なんですか!そんな、まるで私が嫌々あの子たちと関わっているみたいな言い方……!?」
「あら、あーかい部の顧問だって、『運動部の顧問が嫌だから』なったんでしょう?」
「う……、」
「で、ひいちゃんが部を作ったのは『のびのびと活動できる場所が欲しいから』。」
「……、」
「この上なくビジネスライクな関係よね。」
「……何が言いたいんですか。」
「だから、励ましたいのよ。」
教頭先生は白ちゃんの肩に手を置いて、
「大丈夫、悩むことなんてないわ。お互いが好きだろうと嫌いだろうと、利害が一致している限りあの子たちは『部員』の『勤め』を立派に果たすでしょう。……あなたが『顧問』であるようにね♪」
「な……、」
励ましの言葉を期待していた教頭先生の口から出た想定外の言葉に、白ちゃんは言葉を失った。
「なに、を……?」
「ただのエールよ♪」
「……、」
「何か違うのなら反論してみなさい?」
「そんな……言い方、
「できないわよねえ?あなたが言ったんだもの。『顧問だから』って。」
〜〜〜
『あら……しっかり目を通しているのねぇ。みんなと仲良くなってくれて、部の設立を許可した身としても鼻が高いわ♪』
『当たり前です。私は「顧問」なんですから……。』
〜〜〜
「違っ……なんで、そんな、意地悪言うんですか……!」
白ちゃんは目に涙を溜めていた。
「意地悪?私は悩みを聞いて、答え合わせをしてあげているのに?」
「そんなの、答えじゃない……!」
「…………。」
「……!」
白ちゃんは無言の抗議を続けた。
「……そうですか。『違う』ってことは、あなたの中に、もう答えがあるのね?」
「……、はい。」
「そう。ならあなたは、あなたの思う雪さんと『同じ』なんかじゃない……ってことじゃない?」
教頭先生は口元を手で隠して上品に笑った。
「教頭先生……。」
つられて白ちゃんも安堵の表情を浮かべた。
「ところで、白久先生?」
「は、はいっ!」
「親御さんとあんまり上手くいっていないようだけど……、あの子たちとは上手くいってるのかしら?」
「はいっ!」
「あの子たちにちゃんと『大好き』って言ってあげてる?」
「大好きだなんて……そ、そんな恥ずかしいですよ!?///」
「はぁぁぁ……。」
教頭先生は特大のため息をついた。
「白久先生?ちゃんと言葉にして伝えないと、人間関係って拗れるものよ?」
「な、なんですか急に!?……あ、わかりました!教頭先生、人間関係で悩んでるんですねえ?誰ですか?誰なんですかあ?」
カウンターと言わんばかりに、白ちゃんが攻勢に出た。
「ええ、そうね。目の前の誰かさんには特に悩まされているわ。」
「なんですかそれ〜!」
「それだけ元気があればもう大丈夫そうね?」
教頭先生は席を立ち、部室のドアに手をかけた。
「……あ、そうそう。」
ドアノブに触れた教頭先生が何かを思い出したように白ちゃんに語りかけた。
「いち妹として1つ、良いこと教えてあげる♪」
「良いこと……?」
「『妹』って、美味しいのよ。」
「美味、しい……?」
「もし妹さんがお姉さんぶって美味しいポジション空けてるんだったら、奪っちゃうのもアリじゃない?……なんてね♪」
無邪気に笑うと、教頭先生は部室を出て行った。
「お礼も言わせず行っちゃうなんて……敵わないなぁ、あの人には。」
静かな部室に、軽やかなキーボードの音だけが響いていた。
夜。教頭先生宅。
教頭先生は誰かと通話をしていた。
『どうしたの?こんな時間に。……はっ!?まさか澄河ちゃんに何か……!?』
「ないわよ。」
『そう……よかった。じゃあもしかして私の声を聞きたくなっちゃったとか……!?』
「まったく、雪女様ともあろうお方が挨拶もできなくなっちゃうなんてねぇ……。」
『ちょっと!?それ気にしてるんだからやめてよ〜!?』
「はいはい♪……まったく、とんだ親バカなんだから。」
『それで?今日は澄河ちゃんがどうしたの!?』
「……澄河ちゃんからお悩み相談を受けたから報告。」
『そんな、澄河ちゃんが……悩み!?』
「『あなたとおんなじ』ステータス人間って言われて凹んでる、って。」
『ステータス人間……!?そんな、私のせいで澄河ちゃんが……、』
「だから言ってやったわ。『あなたはお母さんみたいな冷酷非情なんかじゃない』って。」
『「冷酷非常」!?』
「まだそう思われてるみたいよ?」
『違っ……なんで、そんな、意地悪言うの……!』
「はあぁぁ……、ほんっと親子ね。」
『えへへ///』
「いい加減その不器用すぎる性格治さないと、澄河ちゃんと琥珀ちゃんに一生勘違いされたままよ?」
『はぁ〜い♪あ、ちょっと待ってて?』
「ん?」
『……随分と遅かったじゃない。この程度の課題、半分の時間でこなしなさい。
電話の向こうの声が、急に重く冷淡なものになった。
『すみません……
(向こうの音丸聞こえだし、生徒さん震え上がってるじゃない……。)
『空欄を埋める努力をするのはいいけど、それは試験でやることよ。わからなかったらすぐに聞きにきなさい。変な癖がつくと後で苦労するし、何より時間がもったいないわ。
『は、はぃ……
(向こうの生徒さん、もう泣きそうじゃない。せっかくまともなこと言ってるのに、もったいない……。)
『この手の図形問題は初見殺しの典型ね。補助線の引き方を知らないとドツボよ。……貸しなさい。
『ひっ……、
(ああもう聞いてらんない……!)
「ゴホンゴホン!」
見かねた教頭先生は大袈裟に咳き込んだ。
『あっ……!?ちょっと外すわ。』
「……さっき、直せって言ったわよね?」
『ごめん、ちゃんと教えようって思ったら……。』
「……よし、こんどこっち来なさい。」
『ええ!?そんな、いきなり澄河ちゃんに会うなんて
「会いません。」
『そんなぁ……。』
「日程はPINEで調整しましょう、じゃあね。」
教頭先生は一方的に約束を取り付け、通話を終了し、愚痴をこぼす片手でPINEのトークにスケジュールを作成した。
牡丹、雪(2)
牡丹:[スケジュールを作成しました]
牡丹:泊まるなら早めに言ってね
雪:やった♪ぼたんちゃんとお出かけ
牡丹:無駄口たたく暇があったらスケジュール
雪:ぼたんちゃんの鬼!悪魔!悪代官!
牡丹:悪代官そこに並ぶの?
雪:ほら、これで満足?
雪:ほらほら
牡丹:ええい鬱陶しい!
牡丹:で、この2日連続の『○』になってるとこでいいのね?
雪:やったぁ♪ぼたんちゃん大好き!
牡丹:口で言え口で
雪:それはほら、恥ずかしいじゃん……?
牡丹:聞いててやるから『澄河ちゃん大好き』って言う練習しときなさい
雪:大好きだなんて……そ、そんな恥ずかしいよ!?
「はぁぁぁ……。なんで雪ちゃんも澄河ちゃんも、たった一言、『好き』って言えないのかしら。」
教頭先生は大きなため息をついて呆れた。
「ほんと、手のかかる親子なんだから……♪」