第八十話 幸せな白き日々に
白い花が、風に舞う。
木立に囲まれた小さな教会。緑に包まれたその場所で、ティナとツカサの結婚式は、静かに、でも賑やかに始まろうとしていた。
参列者たちの表情には、喜びが滲んでいる。
神父の装いに身を包んだカイルが、堂々と正面に立っていた。
普段の軽い調子はどこへやら、背筋を伸ばし、厳かに式の進行を務めるその姿に、参列者たちは自然と背筋を正す。
「……では、ここに誓いを立てましょう」
その声を、カイルの妹が穏やかに見守っていた。
病弱だった面影はもうなく、彼女は兄の真剣な横顔に、そっと微笑む。
「……ツカサさん、あなたは新婦ティナさんを、健やかなる時も病める時も、愛し敬い、守り、共に生きることを誓いますか?」
「はい。誓います」
ティナは目を細めてツカサを見上げ、ふにゃりと笑った。
「ティナさん、あなたはツカサさんを、愛し敬い、彼がどれだけ情緒不安定でも優しく包み込み、添い遂げることを誓いますか?」
「にゃふっ。もちろんにゃ!任せるにゃ!」
ぱちぱちと拍手が起こる中、いかつい虎のようなティナの父は顔をぐしゃぐしゃにしていた。
「うっ……ティナ……うちのティナが……嫁に……ぐすっ……」
その隣で、ティナの兄は「落ち着いてくれよ、父さん!」と汗だくになりながら肩を叩いている。
「ティナ……幸せそうして……ずっと心配だったけど……ツカサくんなら、大丈夫だよな……?」
父は顔をぐしゃぐしゃにしながら兄に問う。
「……うん。あの子が選んだ相手なら、きっと大丈夫さ」
ライアス、ガイア、リュミナも、そのやり取りを微笑ましく見守っていた。
「よかったな、ティナ。幸せそうだ」
ライアスはニカッと歯を見せて笑った。
「……俺はこういうの弱いのかもしれない」
ガイアは涙目で顔を真っ赤にしていた。
「ふふ……愛って、いいものね」
リュミナは柔らかく微笑んだ。
一方、美怜は——
「ぐすっ……うっ……なにこれ……幸せすぎて涙止まんない……!」
ボロボロと涙を流し、化粧も崩壊寸前。
隣でアルがそっとハンカチを差し出し、そっとその頬を拭ってあげる。
「だ、大丈夫? 涙、止まらないみたいだけど……」
「だ、だいじょばない……でもすごく、いい式……」
美怜は涙まじりの顔で笑い、また鼻をすすった。
カイルが宣言する。
「——それでは、指輪の交換を」
ティナとツカサが手を取り合い、小さな金の輪をお互いの指に通す。
誓いのキスが交わされた瞬間、皆の拍手が森に響き渡った。
祝福の声が飛び交う。
そして——
花束を手にしたティナが、いたずらっぽく振り返る。
「んじゃ、ブーケトスにゃ!いっくにゃーっ!」
彼女の手からふわりと投げられた白い花束は、ゆるやかな弧を描いて——
「……えっ、わ、私!?」
美怜の腕に、ぽすんと収まった。
美怜はぽかんとした顔のまま花束を見つめる。
すると、ティナがにこにこと駆け寄ってきて、肩にぽんっと手を置いた。
「次はミレイの番にゃ。アルとの結婚式、楽しみにしてるにゃ〜!」
「ちょっ……!!!!!や、やめてよそんなこと言うの!!」
美怜は真っ赤になって叫び、アルも同じく顔を真っ赤にしてうつむいた。
「え、えっと……その……ぼ、僕は、いつでも準備できてる、よ……?」
「何言ってるの!?小声で口説くのやめて!やめてってば!!」
笑い声が弾ける。
森に包まれた祝福の場は、愛と友情と、ちょっぴり未来の約束の空気で満ちていた。
ティナはツカサの手をぎゅっと握りながら、幸せそうに言った。
「ほんと、いい仲間に恵まれたにゃ」
「うん。……最高の冒険だった」
その言葉に、誰もが頷いた。
旅の途中で出会い、笑って、泣いて、共に戦った仲間たち。
それぞれの未来へ歩き出しながらも、心は変わらず、きっとどこかで繋がっている。
今日のこの日も、きっと——
冒険の中で見つけた、かけがえのない“宝物”のひとつになる。




