第七十八話 それぞれの道
数か月後——
ライアスパーティーと別れたアルパーティーは今までどおり冒険をしていた。
「聞いてないんですけどッッッ!!!」
美怜の絶叫が、朝の空気を切り裂いた。
森の小さな野営地。朝食のパンをのんびりかじっていた面々は、その声にびくりと肩を揺らした。
「えっ、なに!?ミレイさん!?モンスター!?敵襲!?」
アルが慌てて立ち上がる。
「違うよ!アルくん!ティナが!」
美怜はティナをびしっと指さした。
「ティナはツカサと結婚することとなりましたって……!!は!?初耳なんですけど!!」
「にゃふふ〜、驚いたかにゃ?」
ティナはいつもの調子でけろっと笑う。
「でもほら、何かこう、死線を越えて気づいたのにゃ。あたし、ツカサと一緒にいると落ち着くなーって。それに、ツカサの情緒不安定を支えられるのはあたししか居ないかもって思って。だから、ぽろっと言ったら『じゃあ結婚するか』って流れに……」
「何そのさりげなさ!?え、プロポーズってそんな感じでいいの!?え!?ていうかツカサもなんか言ってよ!」
「あー……なんていうか、そういう話になったから……?」
ツカサは妙に居心地悪そうに後頭部をぽりぽりかいた。
「いや納得いかない!! でもおめでとうございます!!!」
美怜が怒鳴りながらも祝福の拍手を送る横で、アルはパンをもぐもぐしながらこっそり呟いた。
「……プロポーズって、ああいう流れでいいんだね……メモしとこう……」
「なにメモってるのアルくん」
「……なんでもないよ」
「でね、あたしたち、結婚を機に親父とちゃんと話してみようと思ってるにゃ。だから一回、故郷に帰るにゃ。ツカサと一緒に」
ティナはふわっと笑った。
「ちゃんと向き合わないと、前に進めない気がしてさ」
「ティナ……」
美怜が目を細めて見つめる。
「……俺も帰るかな」
カイルが、パンを食べる手を止めてぽつりと言った。
「えっ!?カイルさんも!?なに?結婚!? え、誰と!?」
「違う。俺の妹の話だ」
カイルは穏やかに笑い、美怜の方に向き直る。
「実はな、ザハルのアジトから……薬をちょっとくすねてたんだ」
「……ちょっと?」
「まあ、ちょっと多めに」
「カイルさん!?やっぱり僧侶じゃなくて盗賊じゃない!!」
「それで、そいつを元に妹の病気の治療薬ができてな。はやく元気にしてやらないとな」
美怜は肩を落とした。
「やっぱり盗賊じゃないかなこの人……」
そんなドタバタをよそに、アルがもじもじしながら美怜に近づく。
そして、顔を真っ赤にして言った。
「そういえば、あの答え……まだ聞いてなくて」
「えっ、何の話?」
「僕が……封印されたとき……“美怜さんのことが好きだった”って言ったよ……」
「ええっ!?あれ、告白だったの!?」
「……えっ、気づいてなかったの!?」
アルがびっくりすると、美怜は真っ赤な顔で口をぱくぱくさせていた。
「いやだって、なんかもう、そのとき大変だったし、再会したときも感動の流れだし、別に今それ答えなくてもいいかなっていうか、えーと、その……」
「……答え、欲しい……」
アルがじーっと美怜を見つめる。
「うわああああああああ!!!ずるいよその目ぇぇぇぇぇ!!」
美怜がバタバタし始め、みんながあたたかく見守る中——
「……って、ちょっと待って!?ねぇアルくん、返事待ちの空気出すのやめて!?私も考える時間がいるから!!」
「じゃあ考えてくださいね。結婚とか……」
「ひとっ跳びすぎぃ!!!!!」
「というか、アルくん十代中盤よね?私、二十七歳なんだけど……!年の差あるよね?完全に犯罪だよね???」
「自己認識としては十六歳だけど、魔王としては数百年生きてるから大丈夫だよ!」
「何も大丈夫じゃない!!!!」
「ちょっと待てよ……!今、二十七って言ったか!?俺二十五だから、歳上かよ!?見えねぇ!!」
カイルがぎょっとしながら叫ぶ。
「タメ口きいてすみません。ミレイさん」
カイルがお手本のような綺麗な一礼を見せる。
「やめて!!!!!心は十八なの!!!!」
「じゃあ、あたしと同じ歳にゃ」
ティナがケラケラと笑う。
「ツカサも同じにゃ」
ティナがツカサの腕を取る。
ツカサは「うん……」と言いつつ照れたように頭をかく。
「そこ!!!!!どさくさに紛れてのろけないで!!!!!」
美怜はビシッと指をさす。
皆の笑い声があふれる。
それぞれの帰る場所へ向かう仲間たち。
それぞれの「旅の続き」が、また静かに始まろうとしていた——。




