第七十五話 目覚めの儀式
夜が明け、東の空に淡い朝日が差し込む頃。
美怜たちは早々に支度を整え、セリオを加えた五人で平原の奥深くへと進み始めていた。風は穏やかで、どこまでも続く草の海が彼らの足元を柔らかく包む。
「確かに、ここなら誰も巻き込まない」
カイルがそうつぶやく。広大な大地に、人工物の気配は一つもない。
その中央に、淡く輝く魔法陣が見えてきた。
「……来てるにゃ!」
ティナが指をさす先には、すでにライアス、ガイア、リュミナの三人が立っていた。彼らの周囲には、封印術式を支えるための複雑な紋様がいくつも描かれており、空気が緊張に満ちている。
「ようやく来たか、ミレイ!」
ライアスが駆け寄り、満面の笑みで手を振ったが、その目の奥には覚悟の光が宿っていた。
「ライアス……!無事でよかった!」
「そっちも。……あと、四天王を連れてきたとは驚いたよ」
美怜が小さく頷き、そばに立つセリオに視線を向ける。
「彼も、見届けたいって……そう言ってくれたの」
ライアスは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに深くうなずいた。
「……なら、歓迎するよ。これは、魔王とアルの存在を懸けた儀式だからな」
ガイアとリュミナもそれぞれ頷き、封印陣の中央にある杖——“アル”の意識を封じた杖へと視線を向ける。
「結論から言おう。俺たちは、この杖の封印を解く手順を突き止めた」
ガイアが神妙な面持ちで告げた。
「だが……ただ封印を解くだけじゃない。これは、“呼びかけ”なんだ。アル自身の意識を揺さぶり、魔王の中にいる彼をもう一度目覚めさせるための儀式になる」
「つまり……彼の“心”を呼び戻すってことね」
リュミナが指先で杖の周囲に新たな小型陣を展開しながら、静かに言った。
「だからこそ、重要なのは“声”なのよ。呼びかけるのは、彼と心を通わせた者たち。——あなたたち、美怜たちが、中心になって」
美怜が息をのんだ。
「……私たちが、アルに?」
「そうだ。彼の心が、まだどこかに残っているなら——きっと、届く」
ライアスは真剣な瞳で、美怜、カイル、ティナ、ツカサ、そしてセリオへと順番に視線を送る。
「始めよう」
風が止む。
世界が息を潜めるように、静まり返る。
「アル……!お願い!帰ってきて!」
美怜の声が風に溶ける。
「帰ってこい……!皆、お前を待ってる!」
カイルの叫びが、空へ響く。
「一緒に旅をした日々、忘れてなんかいないにゃ……!」
ティナが涙ぐみながら、両手を組む。
そして、セリオが——震える手で杖を見つめながら、言葉を吐き出す。
「……俺は……今でも信じてる。……“魔王様”、あなたの中に、アルがいても……俺は、あのときの……あの笑顔を……」
唇をかみしめながら、それでもセリオは前を向いた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……!」
そのとき。
杖が、光を放った。
封印陣が轟音とともに展開し、空が揺れる。
中央の杖がゆっくりと宙に浮き、無数の魔法式が空間に舞い上がる。
——そして、白い光の中心から。
現れたのは、一人の少年の姿だった。
銀の髪。柔らかな紅玉の瞳。
目を開いた少年——アルが、彼らを見つめた。
「目覚め」と「選択」へ——




