第六十九話 家族の意味
「反逆の意思、確かに確認しました」
ドナードが静かに宣告する。
その指が宙をなぞるたび、空間の法則がさらにねじれ、鉄のような規律が空気を支配していく。
「ならば次は、《第二段階:封鎖命令》を行使しましょう」
ドナードが掌を掲げると、空間の一部がまるで“切り取られた”かのように四分割された。
それぞれの領域に、美怜・ツカサ・ティナ・カイルが強制的に引き裂かれる。
「——っ!?」
「分断した……!」
「この《支配領域》内では、意志も力も孤立無援となる。あなたたちは“家族”を名乗った。だが、それが幻想であると知れば、心など簡単に折れる」
分断された空間に、黒い鏡が浮かび上がる。
その中には、それぞれの“最も恐れる幻影”が映し出されていた。
ツカサの鏡には、塞ぎ込み何もできなくなった自分の姿。
ティナの鏡には、女だからと家に閉じ込められる孤独な姿。
カイルの鏡には、仲間も妹を守れずただ信仰にすがるだけの自分の姿。
そして、美怜の鏡には、アルを助けられず、踊りの意味を失い、誰にも望まれず、ただ彷徨う自分——
「心とは脆い。幻想が壊れた先に残るのは、ただの瓦礫。さあ、貴方たち自身で、それを証明してごらんなさい」
だが——
「……あたし、バカだからさ。分かってんだにゃ」
ティナの鏡が、拳で叩き割られる。
「一人で立ってるみたいでも、見えないところで誰かが支えてくれてるにゃ。あたしは、あたしを信じる!」
《破境掌・烈波》——ティナの気功が空間を揺らす。
「ほう……規律違反、強行突破。だが——」
ドナードの指が動く。
ティナの体に、無数の《制裁針》が突き刺さる。
「っ……が、ぐ……ッ!」
それでも、ティナは膝をつかない。
カイルが唇を噛みしめ、祈るように両手を組む。
「《神律界・断章》……聖なる“抜け道”、発動」
彼の足元に、白金の輪が広がる。
「ドナード、あんたの世界は完璧に見えて、実はほころびだらけなんだよ。だって、“心”のない法に、誰が従う?」
カイルの奇跡が走る。
ツカサ、美怜、ティナ、それぞれの空間を結ぶ“聖なる抜け穴”が出現する。
ツカサが、鏡を見下ろす。
そこに映るのは、力なく倒れ、何もできなかったかつての自分。
「でも、それでいいんだ」
鏡の自分を睨みつけ、刀を振るう。
《閃走・空牙》——鏡を斬り裂き、空間に風を呼ぶ。
「もう、俺は……立ち止まらねぇ!」
そして、美怜。
彼女は鏡に手を添え、静かに踊り始める。
足元のリズム、指先の軌跡、そして胸の奥から湧き上がる音楽。
そして、それを支えるように鳴る、銀の鈴。
「これは、意味のない踊り。……でも、無意味でも、誰かの中に残るなら」
鏡の中の自分が、ふと微笑む。
その笑みに、彼女もまた、応えた。
《舞技・微睡の律》——
風が巻き、光がきらめく。
美怜の舞が、再び仲間たちに“心”の力を与えていく。
四人が一か所に集結する。
ドナードの眉が、初めてかすかに動いた。
「……ふむ。なるほど。これが“心の強さ”だと?」
美怜が、真っ直ぐに言い放つ。
「支配に抗い、立ち上がる。それこそが、私たちの意思——!」
「それが……“家族”の意味だ!」
ツカサの刀が、光を帯びる。
「拳も、信仰も、踊りも——全部、心のかたちにゃ!」
ティナが叫び、カイルが詠唱を続ける。
「《支配領域》に風穴を開ける。今ここで、あんたの秩序を——終わらせる!」
四人の連撃が、ドナードへと収束していく——!




